ラズク村のきこり
サーラズ王国北東部山あいにあるラズク村。
その小さな寒村のはずれに俺は木こりとして一人で暮らしていた。
同じグローデン山脈の麓、山を東に越えればかつての仲間達の暮らすラグーンの地になる。
活気に溢れた都市国家群や、人のとにかく多い帝国に比べてサーラズ王国は静かな国だった。
ラズク村はいわゆる辺境の僻地だ。
村には小さな役場と、行商人の出店ようの市場もどきの広場しかない。
俺がこの村へ来ると村人は迷惑そうな顔をした。
他所者を嫌う偏屈なこの村にやって来たのは余生を静かに送ろうと思っての事だ。
こちらの世界にやって来て二十年近く、冒険者としてやってきたが、俺はもう歳だ。
仲間達も年を同じく重ねているが、元々若いので、まだまだこれからだ。
俺には女神様からもらった力はあるが、身体は普通だ。
ラグーンの街が領都として見られるレベルに開発が進んだのを機に冒険者稼業は引退した。
行くあてなどない。ベルク氏が隣国に商会の拠点を築くというのでサーラズ王国へやって来た。
ベルク商会の拠点は王国北部のサラスナの町だ。
ラズク村はサラスナの上流域にある。
俺は唯一の取柄、女神様からもらった力を活かしラズク村で木こりとなって、商会の事業を少しでも手伝おうと思った。
はじめは嫌な顔をした村人だったが材木を作る過程で出る薪を無償に近い状態で譲ると、俺の事など気にしなくなった。
材木は川を下ってまとめて運ぶが、生活に入用な品を届けるためにベルク商会が俺の所までやって来るようになった。
ベルク氏は、かつて盗賊団に襲われた頃から俺に対して恩義を返したいと言うのが口癖になっている。
『海竜の咆哮』がうまく回り出したのは俺のおかげだと公言しているくらいだ。
面映ゆいし、仲間達が協力してこそ出来た事ばかりなのに、ラングやラクトも頷くばかりだった。
いい思い出もあり、その頃からの縁で今も一緒に仕事をしているのだから、このまま生涯の付き合いになるだろう。
商会がラズク村に来るようになったため、レミールの妹のサンドラもやって来てラズク村で宿屋を始めた。
彼女とは同じパーティーでずっと一緒に戦った仲だ。
一人静かに暮らすつもりだったが、仲間や戦友が近くにいるのは、ありがたいし嬉しかった。
『海竜の鱗』のウロド達もベルク商会の専属の護衛になった。
ドレム、デニク、ソロンの三人とベネト、ライガスは帝国に残り、公爵領と辺境伯領をつなぐ商売の手伝いをしている。
ウロドはラニアと結婚し、ウロドはベルク氏の護衛を若い冒険者達を雇い共におこなっている。
ラニアはレミールについて来てサラスナで商会の仕事についた。
子供も生まれすっかり母親が板についたようだ。
陽だまりのような日々。
色々あったが俺の人生捨てたもんじゃない、みたいな事が言える生き様だ。
その人生の締めくくりに重い決断をする機会が訪れるとは、この時の俺は全く思ってなかった。




