表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ランクSの炎術師、引退してバーのマスターになる。やってくるのが普通じゃないお客様ばかりで困るんだが?  作者: 秋津冴
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/33

少女は姫巫女と遭遇する 中編

 太陽が東の空に昇り道を行き交う人が増えてきた頃。

 アデルは顔を隠そうともせずにそのままの恰好で街中へと足を運んだ。

 ホテルの周囲に不要に近づくことなく距離をとって辺りを歩いて回り、そこが普通のホテルではないことを知る。

 出入りする従業員の多く。正面玄関から出入りする客の多くを観察していると、どこかで見たような足取りの彼らが多い。


 故郷で父親に仕えている盗賊たち。


 その多くが、あんな軽やかでそれでいて隙のない身のこなしをしていた。

 だけど、それは見慣れた者にしかわからない所作で。


「ふうん。さすがはお父様ね……。聞いてた通り、報告のどこの都市でも……宿泊所とか古着屋とかにはお父様の息がかかった誰かが関わっているんだ」


 アデルはそのホテルが盗賊ギルドの王都における根拠地だとは知らない。

 逆をいえば少女はそれと見抜かれないように観光客を装ってあたりをうろついていたが、ホテルの関係者からしてみればなにやら怪しげなやつが外をうろついている。

 そういうふうに見えないこともなかった。


 少なくとも今のところバレてはいないようだったが……用心に用心を重ねるに越したことはない。

 一度戻って後は――部屋の中で神器の刀身を透かして監視を強めたほうがいい。

 アデルはそう判断すると、自室に引き返した。


 途中、露店で昼ごはんようにピザと焼き魚を蒸した物を手に入れて、それを腹に入れながら何かきっかけはないかなと模索していると、都合が良いのか悪いのか。

 奴らがやってきてくれた。


 数台の馬車に乗り合わせてホテルの前と後ろに乗り付けた彼らは、まだアデルは目にしたことのない相手。

 武装警察の一団だった。

 十数人が馬車から降り、隊列を整えてからホテルの中へと急ぎ足で踏み込んでいく。


「いいわね! これは面白いことになってきたかも」


 ホテルの方角からなにやら騒がしい喧騒が飛び交ってきて、刀身に映り込んだのはロディマスの部屋に踏み込んだ武装警察の一団と、それに怯える別室の少女。

 炎術師がこのまま逮捕・連行されてくれればアデルはライシャを保護できる可能性もある。

 そう考えてアパートから飛び出し、ホテルの近場にいくとそれは起きた。


 腰に差した神器が不意に危険を伝えてくる。

 妙な反応をするなと思って足を止めたら、心の中に灼熱の熱波が入り込んできた。


 それは音よりも早く、光よりも鮮やかに恐怖心を煽り立ててくる。

 多分、その瞬間に立っていられなくなりその場にしゃがみこんでしまった人間は、数十はいただろう。

 ホテルの関係者もそうだし、その近辺で歩いていた一般人や付近の住民だってそうだ。

 この恐怖心に耐えられる者は並外れた誰かでしかない。


 アデルはもちろんそれに耐えきれず、がっくりと膝を落とした。そんな彼女の心を守ってくれたのはやっぱり神器だった。


「氷の精霊王様……爺、ありがとう」


 小さく感謝を述べて心を奮い立たせるとどうにかしてアデルはホテルの側面まで行き着くことができた。

 カタン、と音がして上を見上げるとそこにはテラスから非常階段を伝い逃げ出そうとするライシャの黒髪が風になびくのが見えた。


「ちょっと! なによ、どういうこと?」


 理由は大体想像がつく。あの恐怖心に耐えられらくなって本能が逃走することを選ばせたのだろう。

 四階の高さに怯えながら、しかし、ライシャは勇気を振り絞って……いや、怖いのものから逃げたい一心で一心不乱に各階に続く非常階段を降りて地上を目指していた。


 助けなきゃっ。

 この機会を逃したら彼女と対話することは難しいかもしれない。 

 どうにか地上まで降りたち、ここからどうすればいいかと考えて行動が止まったライシャに駆け寄った。


「ひっ……!?」


 いきなり現れた銀髪の男装少女にライシャの顔は恐怖に彩られる。


「大丈夫! 姫巫女様があなたを待っていらっしゃるわ」

「姫巫女様が……?」


 そんな会話を交わした時、運悪く、武装警察の一団がホテルの入り口に姿を現した。

 どうやら、上での会話が一段落したらしい。

 このままだと彼らと鉢合わせする可能性が高い。そんなことになったら厄介なことしか起こらないのは目に見えていた。


「こっちにきて! 早く!」

「え、でも。待って……」


 半ば強引に傍から見たら誘拐するように見えたかもしれない。

 アデルは夜着のままの少女を担ぎ上げると、あらかじめ確認していた裏道を目指す。


 そのまま建物を間を縫うようにして武装警察の一団の目をかいくぐり自室へと二人がたどり着いたのは、ロディマスがリジオに詰問しようとしていたときだった。



 今日のルルーシェさん



 地方から王都へと上がって四年。


 実家は故郷の街で小さな商家をしていて、親の知り合いの店に奉公に上がった。

 そこは海外からの縫製品を輸入する業者だった。

 最初の三年間は倉庫の中で働いた。


 来る日も来る日も重たい布織物が詰まった木箱を倉庫の中で上げたり下ろしたり。

 腰が痛くなる時もあったけどどうにか頑張って数年を過ごした。 

 商品の管理には数学と文字が読めることが必要でそれを覚るのが本当に大変だった。


 一生懸命頑張って倉庫の主任にも褒められるようになったある日。

 あの大火事で奉公先は倉庫を失い、私も職を失った。

 行き場がなくなり仕方ないから体を売ることにした。夜の街に立ってお客さんを取ろうとしたけどやっぱり心がそれを許さなくて。


 このままお金もなくなって食べることもできなくなって、野垂れ死ぬのかな。

 そう思って街中を徘徊していたら、広場でたまたま目に入った広告。

 とあるホテルが従業員を募集している。


 それに応募してみたらあれよあれよという間に合格して、眠る場所と温かいご飯と着る服に困らない職場が手に入った。

 こんな夢みたいなことがあっていいんだろうか。

 そう思って配属された先は……いろんな意味で最低で最悪で、恐怖心が何度も煽られて。

 武装警察の一団がやってきたときには、本当に死にそうだった。


 でも。

 雇ってくれているロディマス様やリジオ様。

 それにライシャ様がいるから、もうしばらく頑張ってみようと思う。

 お金がたまったら故郷の両親に手紙と一緒にそれを送ろう。

 

 私はどうにか元気にやっています。

 そう伝えたい。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ