ダンジョン編-1
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強制労働ダンジョンの囚人の朝は早い。
まず、朝食として、桶に入ったぬるいスープが配られる。具はクズ野菜で、色が付いているかどうかもわからない薄味の代物だ。
「強制労働ダンジョンはでやることはさ、きつい労働だからね。汗を掻く。だから塩が足りないのはきついんだ。だけどまぁ自分で何とかするしかないのさ。ここはそういう場所だって諦めて、ね」
男はそう言った後、慣れた調子で桶一つ一つにブツブツと何かをつぶやく。すると、そのブツブツが終わるのを今か今かと待っていた屈強な囚人達が「すげぇ!」「今日もうまいぜ!」と先を争って飲み始めた。男がその場所に連れてこられるまでなかった光景だ。
「結界魔術で塩分濃度を上げて旨味を増やしただけなんだけどね。でも、喜んでもらえるのが一番だよ。見ていると自分も嬉しくなってくるからさ。へへ」
朝食が終わると、ダンジョンに入るための準備だ。やはり囚人達の代表である筋肉ダルマがその男の前にやってきて「悪いな。また水が欲しいんだけど、頼んでいいか?」と訊いた。人相は悪いが、男に対する信頼が伝わってくる。男は静かに、背後の巨大な素焼きの壺を示し、「これ全部真水だし、なくなったらまたすぐに作るから気にせず使ってくれ」。囚人達の中で年かさのものはありがとうありがとうといいながら涙を流しながら男を拝んでいたりする。
男は少し照れた顔で、こう言った。
「そんな風にされると困っちゃうんだよね。だって、俺はそんなたいしたものじゃないわけだから。それに、ここにいる人たちは本当にかわいそうなんだ。水もろくに飲ませてもらえないし、それにあっさり死んじゃってたらしいんだ。俺がここに来たからもうそんなことはさせないよ」
全員が水筒代わりの防水布の袋に真水を詰めたあと、男たちはダンジョンに向かった。いつもの光景だ。
武装はひどくボロボロの剣と盾だけだが最近、それに強力な味方が加わった。
「ヴヴヴヴヴヴ」
「おう、三号! 行くぜ!」
ランク11の黒い魔甲を先頭に、一行は今日も元気いっぱいダンジョンに入っていく。
男の顔は、こんな場所にいるにもかかわらず明るく輝き、未来を希望を持っていることが充分伝わって来た。
いや、もしかしたら何も考えてないだけかも知れないが。




