間章-2
ゲストの一人の粗相、という理由で始まる前に終了となってしまった祝賀会だが、あのあと二日続けてマクダフ王子は政務の合間に凄まじい剣幕の妹に詰め寄られ閉口した。
一応、勢いで『犯人』に入牢を命じたものの、そのあと実際何が起こったのかはあの場にいた人間に何度聞いても要領を得ず、ただあの黒い魔甲の主は例のヤジットであるということだけは一致したため、マクダフ王子として決定した処分に間違いはないはずである。
一方、妹であるエレナ王女の言い分は、「魔王との条約締結に多大な貢献を為した人間を、些細なことで罰して正義を示せますか!?」というもので、それはそれで一理あるが、だからといって王家にとって扱いに困る存在である初代勇者の後裔は王家をないがしろにしていい前例を認めるわけにはいかなかったのだ。エレナ王女は他にも「そもそもヤジットさんは悪くない。悪い奴は他にいた」だの「真実は別にある」だの、訳のわからないことを言いつのり、面倒になったマクダフ王子は「うるさい! これは私が陛下から一任されている! 黙って従え!」と一蹴したところ、エレナ王女はひどく冷めた目でマクダフ王子を見て、二度と現れなくなった。
というわけでマクダフ王子はビビっている。
そもそもマクダフ王子にとって五歳年下のエレナ王女は謎である。何を考えているのかもわからず、何が行動規範かもわからない。だが、エレナ王女の言うとおりにするとたいていうまく行くという現実はあるのである。妹に言われたとおりにホイホイ動いていたら、この国は良くなっていってしまっているのである。
だからマクダフ王子は自分のことさえ信じれない。今回の自分の行動に関しては何度自問しても悪くないはずだが、それでも心の奥底に言いようのない不安がある。母親の言いつけ通り生きてきた子どもが初めて母親に逆らって母親がいない街頭で立ち尽くしているような焦燥感。
執務室にいるのに息苦しくなっていつの間にか襟元を緩めていた。
その事実に気づき、マクダフ王子は小さく舌打ちしたあと、
「で、どうだ? あいつに動きはあるか?」
「……目立った動きはとくにはありません。ああ、そういえばエレナ様とは無関係だと思いますが、中庭から黒い魔甲が消えました」
返事をしたのは近衛の大隊長であるデュランだった。エレナ王女の探索行に護衛隊の隊長として同行した男だ。
「……そうか。いや、そうだな。さすがに魔甲は関係あるまい。だとするとさすがのあいつも反省しているのか? いや……妹に限ってそんなことはないだろうな」
デュランの答えにマクダフ王子はしばし考え込み、
「……となると擬態の可能性が高い。あいつはそういう奴だ。引き続き監視を続けろ。監視がばれても構わない。監視されているという事実が抑止力になるからな」
「ハッ」
「ああ、そうだ、それからもうひとつ」
「何でしょうか?」
「例の囚人、城の牢に置いておいてエレナに何かされると面倒だからその前に強制労働ダンジョンに送ったはずだが、あいつも監視しておけ。こっちはばれないようにな」
「了解しました。直ちに手配いたします」
デュランの頼もしい返事に、マクダフ王子は少しだけ安心したが、すぐに問題が何も解決されておらずただ先送りしただけであることに思い至り、暗い気持ちになった。
だがなんとかしなければならない。
気持ちを切り替えて、
「次は誰の陳情だ?」
主人の質問に、今度はデュランではなく、ずっと黙って立っていた秘書が慇懃に答えた。
「ハッ、アスバイン子爵でございます。子爵領の幹線道路の修理について、ご意見と協力を要請しております」
「ふむ。確かそこは小麦の搬入ルートだったな。ならば是非もない。アスバイン子爵を中に入れろ」




