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     @


 話は少し遡る。


 ブルガディ公爵はすごくがんばった、と俺は思う。

 酒を飲んだことがある者達は皆、心の中でブルガディ公爵を応援していた。

 ブルガディ公爵がどんなにイヤな奴であっても、鼻持ちならない奴であっても、今、彼を非難することは出来ない。

 彼は今八杯目の俺特製の酒を手にしていた。

 もうまともに立ってさえいられない。

 ゆらゆらと常に揺れ続け、だが酒をこぼしそうになる度に奇跡的にそれを回避する。

 目に見える部分の肌という肌は茹で蛸のように真っ赤で、目は充血し、定期的にこみ上げてくる嘔吐感を無理矢理飲み込んでいるらしいのがわかる。

 彼は今、戦い続けて刀折れ矢尽きついに敗北しつつある戦士そのものだった。

 それでも彼は戦うことをやめないのである。

 戦う意志を捨てず、そして挑戦を続けるのである。

 涙無しでは見られないドラマだった。

 こんな彼を誰が非難できるだろう。

 手が震えるため、もはや手にしたコップを口元に持っていくことさえ出来ないブルガディ公爵は、ふらふらと柱に近づきそれを抱きしめることで身体を固定し、そしてコップを口に近づけ煽った。

 コップの中身が、口に入りきらず服を濡らす。コップの角度がどんどん垂直に近くなりそして最後の雫が口内に流れ込んだ。

 空になったコップをブルガディ公爵は震える手で天に掲げた。

 やり遂げた! ブルガディ公爵は漢だ!

 感動である。感無量である。

 観衆全員が、潤んだ目でうなずき合ったまさにその時、


「こぼしすぎ」


 容赦のないユーインの発言に、皆ハッとしてユーインの方を振り返った。皆わなわなと震えていた。

 確かにブルガディ公爵はコップに入った酒の三分の一は飲まずに服と地面に吸わせている。指摘したユーインもゆらゆら揺れているが、ブルガディ公爵とはまったく違って安定している。根っこがある揺れ方だ。

 ユーインは、多分酔いが足に来たせいで動くことさえ出来ないブルガディ公爵に安定した足取りで近づき、当然のようにコップを奪い取ると、樽から酒をくみ直し、


「はい」


 鬼だった。悪魔だった。

 コップを受け取りながらブルガディ公爵の腰が砕けた。

 柱を抱きしめたまま、地面まで滑り落ち、そしてついに横に倒れる。

 手に持っていた酒の入ったコップが、手から離れ転がり、酒が床に小さな水溜まりを作った。

 完全なる敗北。

 こうしてついに勇敢な戦士は力尽きたのだった。

 だが、存分に戦って敗北した敗者を非難することなど誰も出来ない。

 皆、敬愛すべき敗者に惜しみない拍手を送ろうとしたその時、酒とよだれで汚れたブルガディ公爵を嫌がることなく、彼を介抱するために近づいたデルトナに対して、ブルガディ公爵は倒れたまま必死に、


「へるほな、あいふほほろへ(デルトナ、あいつを殺せ)……」


 震える指はあらぬ方を差し、ろれつはまるで回っていなかったが、意図は伝わった。

 その場にいた全員に。

 ブルガディ公爵は、敗北を認めず勝者を闇に葬り去ろうとしているのだ。


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