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酔っ払いが絡んできただけなので、本来わざわざ相手にならなくていいはずなのに、ブルガディ公爵はどうでもいいところでも負けず嫌い、あるいはお人好しらしい。まぁ、ユーインは主賓の一人であり、空気を読んだ対応をしないとあとで貴族社会で面倒なことになるのかも知れない。俺が村を出てから学んだ貴族社会の複雑さならあり得る。
ともあれ酒飲み勝負の挑戦へのブルガディ公爵の承諾を受け、ユーインはニンマリと笑ったあと、
「ん」
とブルガディ公爵に手招きして、中庭まで出る。祝賀会場にいたほぼ全員が観客としてぞろぞろと付いてきた。
まるで会場ごと中庭に移ったような感じだ。祝賀会場に残った料理係がどうすればいいかうろたえている。
中庭の方ではつまみを取りに行ったはずが、なぜか会場ごと戻ってきたユーインに、グランフェディックが驚きかつ戸惑った顔を俺に向けて来たが、事情はあとで説明するとして、まずはユーインが何をしようとしているのかを確認する。……思った通りだった。ユーインは先ほど俺が酒精の濃度を馬鹿みたいに上げた悪魔の飲み物が入った樽にまっすぐ近づいていき中身を確認した。
これで勝負、ということらしい。
なるほど。短期決戦、ということだろうか。
確かにユーインは酒に強く、ブルガディ公爵も酒に強いとなれば、普通の酒精濃度の酒では勝負が付かないかも知れない。そして、俺が作った酒ならばそんなことにはならないだろう。なにしろおそらく酒精濃度は60%近い。割って飲むべき飲み物だ。
まず、ユーインがコップを樽に差し入れ、酒を汲みなみなみと入った状態のコップを見せる。
何も知らないブルガディ公爵は、コップの中を覗き込み、
「いいだろう」
ユーインが一気に飲み干した。
おお、と観客の間にどよめきが走る。おそらく観客が想像しているより数倍すごい一気飲みなのだが、そのことに誰も気づいてない。
口をぬぐったユーインがコップをブルガディ公爵に渡す。
次はブルガディ公爵が同じコップで樽から酒を汲んだ。
一気に飲もうとして、むせた。激しく咳き込んだあと、
「な、なんだこれは……!?」
「酒。負けを認める?」
「ふざけるなっ、この俺がガキ相手に……!」
ブルガディ公爵が親の敵のようにコップの中身を睨んだあと、半分ほどになったコップの中を一気に煽る。
「ど、どうだ!」
「二杯目」
ユーインは平然と次の酒を汲み、ブルガディ公爵に確認させた後、またも一気飲み。
暗がりの中でもブルガディ公爵の顔色が悪いのがわかった。
化け物を見る目だ。
だが、まだ負けを認められないらしい。自分のこれまでの飲酒の経験則と樽の酒の濃さを照らし合わせて何杯いけるかを考えているのだろう。
ようやく覚悟を決めたのか、意を決したように酒をコップで汲んだ。
ユーインはコップを覗き込み、
「足りない」
「くそっ」
なみなみと注ぎ直し、ブルガディ公爵はそれを先ほどの勢いは無いもののきっちりと飲み干した。そして、どや顔。思わず拍手したくなるほどいい顔だ。
うん。見た目とは違って頑張り屋さんらしい。
褒めてあげたい。
ユーインも少し驚いた顔をした後、コップを受け取りさっそく三杯目を汲んでいる。
さて、思いがけないブルガディ公爵の頑張りに俺も少しこの勝負に興味が湧いてきた。
意外といい線行くかも知れない。
双方素面のスタートであったら勝負にならなかったかも知れないが、何しろユーインは既にかなりできあがっているのである。限界も近いはずだ。そうなるとブルガディ公爵にもチャンスが出てきたわけで、幸い俺がいる限り急性中毒になったとしても助けられるから、スポーツ感覚で楽しく勝負を続けて欲しい。
というわけで俺は観戦モードに入った。
一方その頃、俺の知らないところで、とんでもない会議が行われていた。
その会議の出席者は、国王と王位継承権第一位の王子マクダフそして勇者パーティのこの会場にいない残った一人、大賢者シングルトンだった。




