血の海に現れた女
「な?!」
霧人の目の前に、ウルトラマンのお面をつけた男が立っていた。白いパーカーに、安っぽいジーンズとエンジニアブーツを履いている。その服装は、“霧人とかぶっていた”。
その男の先に、円谷教授が頭を右に傾けてぐったりと倒れている。天井と床にはおびただしい量の血液が認められた。
「うっ」
血液のにおいに、霧人は吐き気を催す。
男は、霧人を見るなり、ものすごい勢いで部屋から出て行った。
「つ、円谷教授っっ!?」
霧人はなんとか円谷のところまで駆け寄る。
まだあたたかいが、首に切りつけられた跡がある。致命傷だ。
「嘘だろ、き、救急車ッッ」
霧人は部屋から出ようとするが、床に流れた血液が彼の足をすべらせる。
ぱたり、と、霧人の肩に円谷の頭がもたれてきた。
たしかに重みのある、人の形をした、死体。
「……あ……」
霧人は、腹の底から恐怖を感じて、一度、ひゅう、と空気を飲み込んだ。
「救急車っっ!!」
霧人が、ぐっと踏み込んだその時だった。
「ムダよ。もう死んでるわ。
また、派手にやったのね。セーギノミカタさん」
女の声は、研究室の入り口から聞こえた。
一人の女が扉にもたれて霧人と円谷を俯瞰している。
「セーギノ、ミカタ?」
霧人は疑問を投げかけるが、声は女には届かない。
「アンタ、だぁれ?」
下唇のぷっくりとした女だった。長いストレートの黒髪を姫カットにしている。白いシャツに黒いネクタイをしており、紫の、ミニスカートを履いていた。
カッ
パープルのハイヒールは、無遠慮に血の海に入ってくる。
「俺は、壇、壇 霧人」
霧人は真っ直ぐに女を見据えた。
続けて、黒髪の女は、
「アンタ、なに?」
と、問うた。
霧人は、女の心が読めなかった。
どこまでも空っぽで、なにもないことに、内心、衝撃を受ける。
「普通の、人間だけど」
と、霧人が答える。
黒髪の女は、息絶えた円谷を霧人から離して静かに横たえさせた。
丁寧なその仕草に、霧人は目を奪われる。
黒髪の女は、アメジストの美しい瞳をしていた。不謹慎だとは思いながらも、霧人は見惚れることをやめられなかった。
「ふぅん? そう?」
「?」
何故か疑問形で、女は不敵な笑みを浮かべた。
そして、すっと立ち上がると、
「あたしは、空子。大国 空子よ」
と言って、白く細長い手を、霧人に差し出した。




