2.5.1
九月二十六日 十四時 舞識島A区画 地下街
天宮華恋たちは、ミリアム・グレイスと名乗る観光局の女性に案内されて、A区画に辿りついていた。B区画からはバスに乗って二十分程だったが、連れの老婆——日野静江の歩くスピードに合わせていたり、途中で休憩を挟んでいたりした為、かなりの時間が掛かっていた。
A区画に着いてからもまだ少し歩く必要があり、すぐ目の前のエスカレータを下って地下街に入った。ここを道なりに進めばすずのねの近くに出るとの事だ。
地下街も、地上と同じように多くの店舗が通りの両脇で開いており、人で賑わっている。
「そういえば、今ふと思ったんですが」
地下街に入ってから数分。華恋が辺りを見回しながら、前を歩くミリアムに訊いた。
「舞識島って人工島ですよね。どうして地下があるのでしょう?」
この舞識島はメガフロートと呼ばれる、言わば巨大な船のようなものを地盤としており、その上に街が作られている。であれば、当然地下を掘る作業など出来る筈もないと華恋は思ったのだ。
そんな彼女の疑問に、ミリアムは歩きながら説明を始めた。
「この人工島がメガフロートで出来ている事はご存知ですね」
「はい。船のような認識ですけど……確か底に巨大なモーターがあって、その力で浮いてるとか」
「その通りです。そのメガフロートですが、一つあたりの面積が約0.04㎢、全高は約60mになります。舞識島の陸地は、これが数百と連なって出来ていまして」
「す、数百も……。凄いですね。想像も出来ません」
「そうですね。そして、先程まで私たちが歩いていた地上というのが、メガフロート本来の地上にあたる地点から10m程高さを加えた場所になるんです。イメージとしては、予め穴を作ってからそこを埋めているようなものでいいかと。その穴埋めには『ブロック』と呼ばれる立法形の特殊な緩衝材を使用していまして、積み上げと除去が容易に行える仕組みになっています。つまり、地形を簡単に操作出来るのです。このブロック構造は舞識島ならではと言えますが、堀削作業を不要に出来るメリットがあり、労力・時間共に比較的低コストで、地下の実現を可能にしています」
「なるほど……。なんか、やる事の規模が違うと言いますか……流石は世界最大の人工島と呼ばれるだけはありますね。しかし、どうしてそこまでして地下を作れる構造に?」
「色々と理由はありますが、やはり道路交通の都合が大きいですね。道を作りたい時に、地上で実現できないとなると困りますから」
流石は観光局の職員といったところか。ミリアムは華恋の質問に、スラスラと答えてみせる。およそこの島の事なら何でも知っているのではないかと思う程に詳しかった。
――歳はそう離れていないように見えますが……やっぱり観光局の人って凄いなぁ。
観光局の役職持ちで、その立場を裏付ける能力もこの短い間に知った。華恋の目から見ても、ミリアムにはエリートという言葉が良く似合うように感じる。
自分とは違うな、と華恋は心の中で小さく呟いた。
「見えてきました。あのエスカレータを上がればもう少しです。お二人とも大丈夫ですか?」
道の先にエスカレータが見えてくる。道なりに進んだだけだが、ここまでそれなりの距離は歩いていた。しかし、華恋は静江の荷物を持って数時間になるが、疲れの表情は一切表に出ていない。
「私は全然平気です。それよりも静江さんは?」
「えぇ大丈夫よ。ありがとうね華恋ちゃん」
「もう少しみたいです! 頑張りましょうッ」
華恋達は、エスカレータに乗って再び地上に上がる。




