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トリックアクターズ  作者: 光井テル
Act.2 四章 鈴の音は騒がしい
97/97

2.4.3

 ◇   ◇   ◇

 数分前


 昼食を鉄火で済ませた後、悠介は再び街に繰り出していた。鉄火に長居しようとしていた魂胆をテツさんに見抜かれて追い出されたのだ。

 何をするにも金は掛かる。昼食代で遂に所持金が底を尽き、いよいよ行き場がなくなっていた。


 一体自分が何をしたというのか、何でただ生きているだけで金が消えていくのか。今朝から考えているのはそればかりで、果てには、何で一日は二十四時間もあるのかと考えている。


「一日ってなげぇ……。おい、解ってんのか太陽。少しは反省しろ。元気過ぎんだテメェ」


 そして、暇になってくるとこうして青空に向かって文句を垂れていた。もう何度繰り返しているかことか。道行く通行人は悠介から距離をとっているが、本人はそれに気付いていない。

 しかし、そんな彼に逆に近づいてくる者達がいた。


「おぉ、ユースケだ! ユースケみっけ!」

「またシケた面してるぞ! ブツブツ何か言ってるし変なの。でもいつもの事かー」

「知ってるよ僕。そういうのがナルシストの特徴なんだって」


 悠介に無茶苦茶な事を言っているのは、彼がたまに遊んでいる少年達だった。今日は三人だ。


「なんかうるせぇと思ったら……何だお前らかよ。あと、誰がナルシストだコノヤロー」


 そうして悠介が返事している束の間。気付くと、悠介は少年たちに囲まれていた。

 彼らの行動は早かった。まず、悠介の退路を断つのが彼らの定石で、そこから悠介の身ぐるみを剥ぐ勢いで三方向から服を引っ張り始める。


「ざけんじゃねぇぞ、いつもいつも何なんだ! これ以上俺から何を奪う気だオラぁ!」


 必死に防御に徹する悠介だが、少年たちの猛攻が激しい。今まで何度も経験している筈なのに、防げる気が全くしない。しかし、今日は少し違った。少年たちのリーダー格——タケルが悠介の半纏の裏に隠されていたあるモノを目にして、ピタッと動きを止めた。


「え、ちょっ、それってまさか! す、すっげー! これフォトンブレードだぜ! カッケー! 俺、母ちゃんにねだっても買ってもらえなかったのに。何でユースケが持ってるの⁉」


 八代から貰ったフォトンブレードは、どうやら子供たちの間で有名なアニメ作品の武器らしい。

 タケルの反応で他二人も動きを止める。一先ず助かったと思った悠介だったが—―。


「バカ! ユースケの財力で買える訳ないだろ! きっと悪事に手を染めたんだぜ。金がないからって、遂に盗みを……」

「知ってるよ僕。こういう時ってケーサツにツーホーするんでしょ」

「ストップストォォォップ! ちょっと待てお前らァ!」


 別の意味で身の危険を感じた悠介は、なんとか言い訳を捻りだそうとする。


「これはな……そうアレだ。断じてフォトンブレードなんてモノではない」

「何言ってんだよ。それはどう見たって、『蒼天クロニクル』第132話から登場する光の剣士仕様のフォトンブレードじゃんかよ」

「お前詳しすぎだろ……」

「さぁもう言い訳できないぞ。観念するんだ! まずどこで盗んだんだ!」

「そうだ白状しろー」

「盗んだ前提で話すんじゃねぇ!」

「じゃあどうやって手に入れたのさ」

「……。これは……八代のジジィから貰ったんだよ」

「え、ヤンジィ?」


 ヤンジィというのは八代の愛称である。彼を知る殆どの者はこの名で呼んでいた。


「何でヤンジィが悠介にフォトンブレードを?」


 正直なところ、悠介としてはこれを手放せるなら、今すぐにでも渡したかった。しかし、これは改造品である為、渡した先で怪我でもされては困る。また、そうした諸々の事情を話すのも面倒だったので、あくまでフォトンブレードではない方向で言い訳したい想いだった。


 じゃあどうすればいいのか。悠介は思考を圧縮し、フル回転させ――そして思いついた。


「もう一度言う。これはフォトンブレードではない」

「まだそんな事を言うか。見苦しいぞユースケ!」

「フッ……お前もまだまだだなタケル。その目は節穴か。そんな事じゃ光の剣士になれんぞ」

「な、何だとぉ!」


 悠介は薄く笑うと、遂に懐からここまで散々隠し通してきたその代物を取り出した。

 八代から教わった手順で柄の中央にある白いボタンを押す。刀身が伸びたとこで、柄の底にあるボタンをカチカチ押して発光を赤色に素早く調節すると、その剣を勢いよく振り上げた。


「ほら、見てみろ! これはどう見たって交通整理の棒……そう、誘導棒にしか見えないだろ! まぁちょっと交通整理のバイトでもしようと思ってな。そんな時にジジィがくれたんだ。お前らは知らんだろうが、今時はこういうもんを自前で持ってないと仕事にありつけねぇんだよ」


 そうだ、これは誘導棒だ……誘導棒なんだ。

 他人に説明しているというよりも、自分に言い聞かせているようだった。内心で繰り返している言葉は段々暗示じみてきている。


 一方、タケル達はというと、振り上げられた誘導棒に視線を見事に誘導されていた。


「知らなかったよ僕……。交通整理の棒って近くで見ると結構カッコイイんだね……」

「あぁ、俺もだぜ……。なんか、あのおじさんたち、みんな光の剣士な気がしてきたな」

「め、目を覚ませェ! 確かにカッコイイけど、フォトンブレードの方がまだカッコイイぞぉ!」


 目を覚ますのはお前の方だと言いたくなったが、ここはぐっと堪える。彼らにはこのまま騙さたままでいてもらおう。アホで助かったと悠介は内心でほっとした。


「でもよぉ、ユースケが交通整理ィ? 全然想像できねぇー」

「だよなー。そんな高度な仕事ユースケに出来るのかよ」

「お前ら、俺のこと罵倒してないと気が済まねぇの?」

「でもさ、ユースケって今便利屋の仕事ないんでしょ? 前に喜代姉ちゃんから聞いたよ」

「あーそっか。それでバイトかぁ。ユースケ、喜代姉ちゃんにあんま心配かけるんじゃないぞ」

「そうだぞ。喜代姉ちゃん優しいのに、いつも怒らせて。また叱られても知らないぞ」

「うるせぇな。便利屋の仕事じゃねぇからアイツは関係ねぇんだよ。あとな、喜代が優しいだって? ……お前ら、その認識は間違ってるぞ」


 ――可哀想に。喜代の笑顔に騙されて……。ここは俺がその間違いを正してやるか。


 さっきまで少年たちを騙していた自分の事は棚に上げて、悠介は話を始める。


「いいか? あの女の頭には基本的に掃除の事しかない。そして、その掃除とは突き詰めればこの社会のゴミを一掃する事。つまり、俺のような社会的弱者を葬り去る事なんだ。そこに喜びを感じて悦に浸っている恐ろしい女なんだよ。優しい? とんでもない。お前ら、喜代が本気でキレてるとこ見た事ないだろ。子供の前では優しい顔をしてるが、騙されるなよ。アイツは要するに、ただの掃除ゴリラで――」


 そこまで言った時だ。突然、少年たちの視界から悠介の姿が消えた。短い悲鳴が聞こえたかと思うと、次には視界の隅で悠介が倒れ伏していた。何かが悠介に向かって飛んできたようだった。


 そして、その『何か』は倒れている悠介のすぐそばに落ちている。竹箒だった。


「久しぶりに見たと思ったら、お前は何を吹き込んでんだァァァ!」


 更に続いて、女の声が聞こえてくる。藤野喜代が猛ダッシュでこっちに向かってきていた。

 喜代が槍投げの要領で竹箒を放ち、悠介を吹き飛ばしたのだ。悠介は地面に倒れて呻いている。


「み、見たかお前ら……。これだ。これがあの女の本性だ。ちゃんとその目に焼き付けろよォ……」


 もう少しで喜代がこちらにやって来る。捕まる前に逃げねばならない。命の危機を感じとった悠介は急いで立ち上がると、子供たちへの別れの挨拶も無しにすぐに走り去っていった。


「何なんだよ今日はッ⁉ ここまで酷い日はそうそうねぇよコノヤロォォ!」


 そう言い残して去っていく悠介を見送る少年たち。そして、そのすぐ後に喜代がやってきた。

 喜代は投げ放った竹箒を拾いあげると、子供たちの方を向いた。彼女の表情は少年たちにいつも見せている優しい笑顔だった。


「やぁこんにちは。みんなは学校終わりかな?」

「う、うん……」

「そっか。でも、こんなとこウロついてちゃいけないね。遊ぶなら一旦家に帰ってからにしようね」

「わ、分かりました……。あ、いや……分かったよ」


 思わず口調が敬語になっている少年たちは、とにかくここから離れたそうな表情をしている。

 そんな彼らが喜代に背を向けて去ろうとしたところで、喜代が「あ、そうだ。あともう一つ」と言って呼び止めた。少年たちが恐る恐る振り返る。喜代はやっぱり笑顔のままだった。


「悠介から色々聞いたと思うけど、嘘だからねアレ。本気にしないでね。皆はアイツと私のどっちを信じるかな? 皆は良い子だから分かるよね?」


 最後にそれだけ言うと、喜代は悠介の後を追って走り去っていった。

 少年たちは立ち尽くしている。彼らは、喜代が本気で怒ったところ今まで見た事がなかった。


「知らなくていい事ってあるんだね……。僕知らなかったよ」


 悠介が身を犠牲にした甲斐はあったのか。少年たちは、見てはいけないものを見たような、この世の裏側の一端を覗いたような気がしていた。




 その一部始終を、英二はすずのねの入り口から眺めていた。

 会話の内容は聞こえていないが、喜代が竹箒を投げて、悠介が吹き飛ばされているところ見るに凡その想像はついていた。いつか見た光景と殆ど一緒だ。


「アイツらに任せて本当に大丈夫か……」


 彼らは無事にゆかりのお婆さんを連れてこられるのか。英二は無性に不安な想いだった。


【四章 鈴の音は騒がしい】終

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