16.9月15日
弓彦はいつも通り日も傾きかけた夕方4時にコンビニに出勤した。勤めるコンビニはなくなってしまったので、父の経営するコンビニである。
「おはようございますってもんよ」
「おう」
父がレジに立っていた。客はだれもいない。
「店、2か月後にできるそうだ」
「わかったってもんよ」
「それにしても眠いなぁ」
父はあくびをしながら外に出た。
結局、日本商業バス振興組合は解散した。桂浜健治は逮捕されたが、Kシステムの被害に遭ったものは日商バ振のものであった。その会社もなくなった。筆頭株主の桂浜真一郎は父親である。いうなれば自分の運転する車で自宅に衝突するようなものなので刑罰は軽くなるだろうと、先日買い物に来たアフロ山田刑事が話していた。
弓彦の勤めるコンビニは、再建されることになった。出資は全額桂浜真一郎である。迷惑をかけて申し訳ないということだった。赤字を垂れ流す店舗を再建するというのはなんとも微妙な話なのだが、かといって父のコンビニの運営資金にしてくれというわけにもいかない。全額出資してくれるというのでここは乗っておこうと父が決めたのだった。
弓彦も外に出てタバコを取り出した。父は外を眺めながら呟いた。
「なんとかなればいいなぁ」
「おいって」
「そうそう、新しいバイトを雇うことになった。人手不足のうちにとってはありがたい話だ」
「誰だってもんよ?」
「もうすぐ来る。おお、アイツだ」
父が指さした。浅黒い顔をした外国人が歩いてきた。
「コンニチワ。あ、アナタ、バスでヒドイメニアッタなかま」
「おいって、この人バスのベトナム人…」
弓彦が驚くと、父が言った。
「ベトナム人のグエン君だ。実は窃盗で逮捕されてたんだけど、先日無事に釈放されて仕事が無くて困っていたんでうちで雇うことになった」
「ヨロシクオネガイシマス。オカネアリマセン。ネルトコモ。コノママダトべとなむカエレマセン」
「うちの部屋を貸してるんだ。住むとこもないそうだから。やさしいだろう?」
「え?どこってもんよ?」
弓彦が驚いた。全く気付かなかった。
「ラッシーと一緒に寝てる」
「え?」
父は愛犬家で犬に部屋を一室与えているのだ。そこに寝泊まりしているということなのか。
「テンチョウ、ホトケサマにミエマス」
「まあ、そんなわけでよろしくな。しばらく面倒見てやってくれ。ワシは帰る」
「ヨロシクオネガイシマス。ユミヒコサン」
「おいって」
「今日もいい天気だなぁ」
父は笑って空を眺めた。
<了>




