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29.運命を変える 2

アルフレッド視線です

暴力表現あります


◾️◾️◾️◾️◾️


 ブグドアからクロード皇子がくる数日前


「俺の自室にルーベルが来るのはいつ以来だろうか」

「さあ、もう数年は来ておりません。まだアルフレッド様が小さい時、……王妃様が御存命の時は時折一緒にお茶を頂きました」

 

 今、目の前にあるローテーブルにあるのは琥珀色の液体と、チーズとナッツ。甘い菓子が並んでいた頃から随分時が経ってしまったように感じる。


「ところで、どうしてここに呼ばれたか、そろそろお伺いしてもよろしいでしょうか?」


 二杯目の酒をグラスに注ぐとルーベルから切り出してきた。


「金の密輸のことだ。この書類をまずは見て欲しい」


 俺はいつの間にか執務机に置かれていたあの書類の束をローテーブルに置いた。ルーベルがそれを手にし一枚一枚丁寧に目を通していく。その姿を見ながら俺は緊張をほぐそうと酒をぐいっと飲み込んだ。


「これは……この書類は何処で手にいれたのですか?」

「いつのまにか執務机にあった。しかし、内容から考えて偽造書類ではない」


 近衞大将としては、いつの間にかという部分が気になったようだ。警備の問題が出てくる。


「部屋に鍵はかけておられましたか?」

「もちろん。警備に不満はない。それより、これを見て首謀者に心当たりはないか?」

「二人……いえ、一人ございます」


 俺はうん、と一つ頷く。それだけで充分だ。今宵呼んだ理由に思い当たったようだ。


「もう少し証拠が欲しい」

「承知いたしました」

「あと、この書類を預かってくれないか? 何者か分からないが執務室に忍んだやつがいる以上、あの場所に大事な書類は置けない」


 ルーベルは俺の師匠だ。任務に忠実なその性格は信用できる。ひとまずこの件はルーベルに預けて、数日後に控えるブグドアとの話し合いに集中したいところだ。


「分かりました。この件は私が責任を持って調べます。それから、ひとつだけ質問をお許しください」

「何だ、言ってみろ」

「王家への反逆はその一族全員への処罰となります。宜しいのですか」


 クローディアのことを言っているのであろう。確かに性格に難はあるし、シャルロットへの態度は目に余る物がある。しかし、親に将来は俺と結婚するのだと言われ育ち、思い込みの強い性格と相まっての行動だとも考えられる。


 しかし、法は守られなければいけない。


「幽閉もやむを得ないと考えている」 

「分かりました」


 ルーベルは硬い顔で頭を下げると部屋をでて行った。



――――


 そして、話し合いは順調に進み、去年と同じ数字で協定書が作られた。少し肩の荷が降りた気分だ。


 あとは晩餐会だが、こちらは夕食を共にする程度。気負うことはない、と思っていたのだがこれがかなり気の張るものとなった。


 クロードとシャルロットは面識があるとは聞いていた。しかしクロードがシャルロットを見る目は、一見優しく見えるのにその奥に欲を含んでいるのが手に取るように分かる。


 シャルロットもそれに気づいているようで、表情が硬い。その上、クロードはシャルロットをダンスに誘った。他の者なら容易に蹴散らすこともできるが、隣国の皇太子、しかも客人となればそうもいかない。


 奥歯を咬みながら二人のダンスを見ていると、突然シャルロットが立ち止まり、気分がすぐれないからと部屋を出て行った。これにはクロードも驚いていたが、原因は奴しか考えられない。


 問い詰めたい気持ちをなんとか抑えて、再び二人で食事を始めたのだが、クロードと二人での食事はどうにも落ち着かない。


 できれば退席したシャルロットを、部屋まで送り付き添いたいところだが、クロードの手前俺まで退席するわけにも食事を中断するわけにもいかない。


 シャルロットもその事を分かっているのだろう、一人で部屋に戻ると言って出て行った。


「それにしても暫く会わない内にシャルロットは美しくなったな。まだ、婚姻の儀はしていないと聞いているが、彼女がこの国に来てもう数ヶ月経つのではないか? 何か事情でもあるのだろうか」

「いえ、少々仕事が立て込んでいただけで、近々正式に娶ります」

「ほう、仕事が」


 何か含んだような笑いで食事を口に入れていく。この男とは初対面ではないが、何度会ってもザワリとした感情が背筋を這う。どうにも信用できない男だった。


 くだらない話はダラダラと続く。他国の情勢や貿易等、有益な話題を振ってはみるのだがそれらの話には食い付かず、酒や女の話ばかりでうんざりしてきた。


 それなのに、食事の後は二人で酒を飲む羽目になってしまった。護衛や側近は退出させひたすら杯を重ねていく。

 早くシャルロットのもとに行きたいのに、まるで俺をこの場に留めて置きたいかのようだ。


 この男の奥歯に物が挟まったような言い方はどうも苦手だと思いながら、ワインに口を付けた時それは唐突に訪れた。


 記憶がまるで洪水のように頭に流れ込んできた。


 


 キーランとブグドアの連合軍がガンダリアに突然攻め込んできた。

 理由は、我が国が鉱山を独占したという身に覚えがないもので、それは単なる言いがかりに過ぎないものだった。


 軍の強化を図っていたとはいえ、突然の襲撃に国境に配置していた軍は瞬く間に全滅し、ガンダリアは出足を大きく挫かれた。

 

 キーランの軍が山を越えやって来て、元城跡での戦いが始まった。ここで負ければ敵は市街地にまで侵略してくるため、それを防ぐためにほぼ全ての軍が城跡に集められた。足場の悪い遺跡の上での戦いは双方苦戦を強いられたが、三日目突然それは起こった。


 遺跡が足元から崩れ、あちこちで火薬の匂いや炎が立ち上がる。始めはキーランの攻撃かと思ったが、見ればキーランの兵士も爆破で負傷し、炎に包まれ瓦礫の下敷きになってもがいている。


 炎から逃げ惑い、足を滑らせ瓦礫の下に落ちていく者。落ちて行った先も炎と煙が充満し這い上がってこれる者は誰もいない。助けようと手を伸ばした兵の足元の瓦礫が爆発し、破片が兵士に突き刺さる。


 地獄絵図のような光景が目の前で広がっていく。



「アルフレッド様、今すぐ城に戻ってください。おそらく遺跡の下に爆弾が複数仕掛けられています。このままでは、遺跡ごとこの場に埋まってしまいます」


 ザイルは後方にいる俺にそう言うと、用意していた馬に無理矢理乗せようとする。


「俺だけ逃げる訳にはいかない」


 押し退け前線に出ようとする俺の前にザイルが立ち塞がる。


「逃げるのではありません。城に戻って次の戦略を考えるのです」

「だが、……」

「王が病に伏せっている今、貴方をこの場に残しておけません」


 くっ


 強く唇を噛む。ザイルの言っている事は正しい。


 その言葉が決め手となり、俺はザイルと一緒に城に戻った。馬を走らせながら誰が爆薬を仕掛けたのか考える。


(キーランが仕掛けたのか? だが、奴らもあれでは、我が国同様ほぼ全滅だ。となると、生き残ったのは……ブグドア!! 爆薬を仕掛けたのかはブグドアなのか?)


 焦る頭で考える。この戦で誰が何を得るのか……


 ブグドアがキーランをそそのかし、この戦を起こしたのだとしたら?


 あの遺跡での戦いで両軍の全滅を狙っていたのだとすると?


 このままだと、ブグドアが、ガンダリアもキーランも手中に収める事になる。


 鉱山も金山もキーランの肥沃な土地も全てブグドアの物となる。



(シャルロット)


 彼女の笑顔が頭に浮かんだ。幽閉され簡素な食事を与えられている俺の元婚約者。彼女を殺せという声は戦いが始まった時から上がっていたが、利用価値があるはずだと苦し紛れの言い訳をし、その意見をねじ伏せてきた。


 彼女だけでも逃してやりたい。


 婚約者であったにも関わらず、何もして来れなかったせめてもの罪滅ぼしに、彼女を城から出そう。


 

 俺は城に着くと真っ直ぐにシャルロットが幽閉されている部屋に向かい、扉に手を掛けた。


 だが部屋には誰もいない。澱んだ空気と花一つない殺伐とした部屋を通り抜け、寝室の扉を開けるとそこにはニーナとシャルロットがいた。


 何か様子が違う。


 ニーナがシャルロットを抱き抱えるようにその場にゆっくりしゃがみ込んでいった。

 大丈夫かと、駆け寄ろうとした足が止まる。


 シャルロットの左胸からダラリと赤い液体が流れ床にどんどん血溜まりを作っていく。

 傍らに蹲るニーナを見れば、その右手が血に染まっている。


 ぽたり、ぽたりと、シャルロットの身体を筋を作って滑り落ちた赤い液体が床を真紅に染めて行く。


 錘がついたような足を床から引き剥がし一歩踏み出すと、身体の呪縛が解けた。弾かれるようにシャルロットのもとに駆け寄りニーナを押し退け彼女を抱きしめた。


「大丈夫か?」


 俺の問いかけに何も答えない代わりに、色を失った唇から一筋真っ赤な血が流れ落ちた。





 記憶はそこで終わった。


 ガタッ


 いきなり椅子を倒して立ち上がった俺に、驚いたようなクロードが何か話しかけてきたが、そのまま真っ直ぐ扉に向かう。


 今、シャルロットはおそらく自室でニーナと二人でいる。その事実が恐ろしかった。


 震える手で扉のノブを握ろうとした時、それは一瞬早く開かれた。


 そして俺の目の前に立っていたのは……


読んで頂きありがとうございます。

誤字報告、☆、いいね、ブックマークありがとうございます。


暫くシリアス展開が続きますが、お付き合いください!

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