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23.王と毒


 王との謁見を終えて部屋に戻ると、どっと疲れが押し寄せてきた。


 アルフレッド様はセオドアに引き留められたので私だけが先に戻ってきた。少しだらしなくソファに座り、肘置きに肘をついてため息を吐く。国王の胸にあった紫色の光。あれは魔具による毒に侵されていると思う。


 どうすべきか、そう考えながらも緊張が緩んだこともあって少し睡魔の足音が聞こえた。



 トントン、と扉を叩く音に目を開けるとニーナが灯りを持った男を部屋に招き入れていた。男は私に一礼すると、長い棒の先に着いた蝋燭で、シャンデリアに灯りをともしていく。外を見れば、いつの間にか夕闇が迫っていた。一時間ほど微睡んでいたようだ。


 私は目の端でニーナと、この灯り付けの男を見る。


 ニーナがこの男にどういう感情を持っているか聞いたことはないけれど、男が現れる時間になるといつもより少しそわそわし始める。


 それだけではない。庭を散歩している時、人目のない木の影で二人が話をしているのを目にしたこともある。距離が近く、親密そうに見えたのは気のせいではないはず。

 

 男の年齢はニーナより少し年上、三十歳ほどだろうか。妻子がいても不思議ではない。でも、いないかもしれない。ニーナにはいつまでも私の世話をしてないで幸せになってもらいたいな。


 そんな思いが胸をよぎる。

 そういえば私が刺されたあとニーナはどうしたのだろう。今まで考えたことはなかった。彼女だけでも生き延びていてくれたらいいな、と今となってはどうしようもないことを思う。


 男は寝室のシャンデリアにも灯りをつける為に奥へと向かった。扉を開け案内するニーナの後ろ姿はやっぱりいつもより嬉々としているように見える。

 

 今夜、アルフレッド様は国王達と食事をするらしい。シャンデリアの灯りはいつもより早く消すことになるだろう。チクリと胸が痛むのを誤魔化すかのように、私は窓の外の夕闇に目をやった。





 そう思っていたのに、アルフレッド様はいつものように私の部屋を訪れた。


 扉を開け彼を迎え入れた時、ほっとしたように口元が緩んでしまう。


 いつものように、どこに傷があるか分からない肌に触れながら治療を行ったあと、隣の部屋のソファーに移りニーナの用意したハーブティに口をつけた。アルフレッド様にはブランデーを少しいれた紅茶を用意させた。


「王様の件でお話があります」


 静かにそう告げる私に、少し不安を帯びた紫色の瞳がこちらを向いた。


「王様は魔具に身体を脅かされていらっしゃいます。胸に紫色の光が見えましたので、おそらく毒を盛られているかと思います」

「……シャルロットの力でも治せないのか?」


 単刀直入に述べた私の言葉に、大きく見開かれた紫の瞳は先程よりはっきりと不安の色が濃くなっていた。膝の上でぎゅっと握られたアルフレッドの手に自分の手を重ね、その揺れる瞳を覗き込みながら小さく首を振る。


「治療はできます」

「だったら……」


 ほっとした声を出すアルフレッドに、私は険しい表情のまま言葉を重ねていく。


「今治療しても、それは病を防いだだけです。根本的なことは何も解決していません」


 誰が何の為に盛ったかが分からなければ解決はしない。毒から王を救ったとしても、相手はまた違う手を使うだけだ、恐らく今回よりももっと巧妙に。

 例え王に毒を盛った犯人を見つけたとしても、首謀者を捕らえなければまた命が狙われる。


 それらをアルフレッドに対して説明していく。


「では、暫く泳がせと言うのか?」

「王様の容体は急を要するものではありません。私ならそのように致します」


「それでも命の危険がある」

「国と国民を守る為に敵を捕まえることこそ、アルフレッド様のすべき事ではありませんか? 父は、『本当に守るべきは王ではなく国だ』と申しておりました。暗殺を目論む相手の真の目的と首謀者から国民を守ることに尽力すべきです」


 敵は王を徐々に弱らせ病死に見せるつもりだ。それでなければ、ひと思いに強い毒を飲ませている。今日の様子から見てもまだ時間はある。


「……そうだな」


 アルフレッドはポツリと呟いた。


「そうだな、分かった。時間はまだある」


 次は力強い声で私の手を握り返しながら言った。


 先程までの不安を帯びた瞳ではなく、力強く真っ直ぐに人を射抜くような瞳は、そのまま私の胸の奥にまで届いてきて思わず見入ってしまった。

 かってに胸の鼓動が早くなり、体が熱くなってくる感覚に思わず瞳を逸らしてしまう。


「俺の妻は頼もしいな」

「えっ?」


 自分の胸の鼓動に気を取られ、アルフレッド様の呟きを聞き逃してしまった。赤い顔で何でもない、と言うだけでそれ以上は話してはくれなかった。




 アルフレッド様は、こほんと軽く咳払いをし少し冷めたお茶を飲み干すと、暫く何かを考えるように宙を見つめていた。

 そして、決心したように口を開いた。


「国王の件とは別にどうしても成し遂げたいことがある。それについてひとつ頼まれごとをしてくれないか?」

「私でお役に立てるのなら……何をすればよろしいのですか?」

「ある人物と従者を連れずに会いたい。シャルロットとふたりで数時間馬車で外出をする、そう言えば従者を連れずに城を出ることができそうなんだ」


 従者を連れずに会いたい相手とは誰でしょう。

 とても気になるけれど、今聞いても教えてはくれなさそうな雰囲気が漂っている。

 

「私にカモフラージュになれ、という事ですか?」

「端的にいえばそういう事だ。しかし、シャルロットともう一度二人で出掛けたいとも思っている」


 いきなりの発言に思わず言葉を失ってしまった。私と二人で出掛けたい。ループしてからアルフレッド様は私をとても大切にしてくれる。クローディアには結婚することはないとはっきりおっしゃられた。今のその言葉も、私は素直に受け取って良いのだろうか。


 どう返答すべきかと考えていたら、アルフレッド様の赤い耳が目に入った。私までなんだか頬が赤くなってきて慌てて話の続きとなる言葉を探す。


「また、変装した方がよいですか?」

「いや、とある方々に会うのでいつもの姿で構わない。馬車も城の前に用意し、堂々と表から出るつもりだ」

「分かりました」


 アルフレッド様は以前、時が来れば私に全て話すと仰っていた。漠然とだけれど、その時が近づいているように感じた。


読んで頂きありがとうございます。


 興味を持って頂けましたら、☆、いいね、ブックマークお願いします!


 あと十話弱で終わります。後半一気にいろいろ起こります。

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