22 .王との謁見
クローディアの誕生パーティから数日が経った。
今夜も日付が変わるぐらいの時間にアルフレッド様はやってきた。手土産にと冷たいジュースを渡され受け取けとる。
赤いザクロのジュースは酸味を効かせて作ったようで、さっぱりとしてとても美味しかった。少しの間ソファーで私はジュース、アルフレッド様は洋酒を飲みくつろいだ後、手当の為に寝室に向かった。
なんだろう。この流れ。
そしてアルフレッド様は躊躇いもせず上着を脱ぐ。 それを当然のように眺める私。
いいのでしょうか。
これでは既にいろいろ馴染んだ夫婦のように思えてしまう。
「あの、アルフレッド様。傷はもう随分癒えてまいりましたし、私の目には跡も残っていないように見えるのですが」
「いや、でも、シャルロットの見え方は特別だろう? 俺の目には、こう、……もう少し残っているように見えるぞ」
そう言うものなのかしら?
ここがとか、ここもと肩や首を指差すので、顔をググッと近づけて見るけれども分からない。
「どこですか?」
肩をつつっと指先で撫でて見るけれど、肌は滑らかで傷跡があるようには思えない。ついでに首もつつっと
「ひゃっ」
奇妙な声がアルフレッド様の喉から出て首をすくめる。どうしたのだろうと、もう一度つつっと触るとまたひゃっと首をすくめ手首を掴まれた。
「……何をしているんだ?」
「皮膚の感触を確かめておりました」
真っ赤な顔で口をへの字にして聞いてくるアルフレッド様を、小首を傾げながら見上げる。
「すべすべですよ? 本当に治療は必要ですか?」
「必要だ」
それにお前の肌の方が綺麗だ、と赤い顔でボソリと呟いたあと、長い指が私の首筋に伸びてくる。指先が少し震えているのが見てとれたけれど、指は私の首に触れることなくピタリと止まった。そしてアルフレッド様の膝の上に戻される。
「どうしたのですか?」
「……とりあえず耐えた俺を褒めろ」
それだけ言うとクルリと背を向けた。治療をしろと言うことらしい。
服を着終わったアルフレッド様が、少し改まってこちらを向く。意志の強そうな瞳が真っ直ぐと私を射抜いてきた。
「明日、国王に会って欲しい」
「……へっ?」
今、なんて言いました? 国王に会う?
どうして今?
もちろん今までにも会ったことはあり、挨拶程度は交わしている。でも今回のアルフレッド様の口調から考えると、多分、もう少し正式なものなのでしょう。
「お会い出来ることは大変嬉しいのですが、突然どうされたのですか?」
「実は最近、王の体調が悪いように思うのだ。本人はあまり自覚はないようだが、顔色が悪く少し痩せたように思う」
「……それは、私に王の治療をしろと言う事ですか? それならクローディア様が適任ではないでしょうか」
回復魔法を使ってくれということなら、それはちょっと困る。私が回復魔法を使えるようになったのはまだ最近のことで、できれば誰にも知られたくなかった。けがをしたカインとアルフレッド様には思わず使ってしまったけれど、あまり公にしたくない。
「いや、クローディアではダメだったはずなんだ」
「はずとは?」
「すまない、こっちの話だ。とりあえず会うだけ会って欲しい。回復魔法を使えることはまだ伝えていないから、王の状態を見てから治療できるかどうか考えてくれればよい。とりあえず一度会ってくれないか」
頼むと頭を下げられたら断れない。
「……分かりました」
私は渋々そう答えた。
次の日の午後、私は王の間に呼び出された。隣にはアルフレッド様がいてくれるけれどやっぱり緊張する。
そして国王の隣には宰相であるセオドア。彼らがこの場にいるのは理解できる。でも、どうしてクローディアまでいるのでしょう? 私を見る目が今まで以上に怖い。
国王はアルフレッド様と同じ黒髪で(少し頭頂部が寂しいけれど)、燃えるような赤い目をしていた。ただ、確かにアルフレッド様が言うように疲れが顔に滲んでおり、目に生気が感じられない。
そして何より気になるのは……
私がその場所を注視しようとすると声を掛けられた。
「シャルロット、城での生活には慣れたか?」
「はい、皆様によくして頂きとても快適に過ごしております」
「語学が堪能のようだな、ザイルからも聞いている。それから頻繁に庭を歩いているようだが、気に入ったか?」
「はい、広くて散策しがいがあるお庭です」
国王までが庭の散歩を知っていることに少し焦る。にこりと淑女の微笑みで答えるけれども、私の目は国王の胸から逸らすことが出来なかった。
国王は私にこれ以上の言葉をかけるつもりはないようで、アルフレッド様に視線を移す。
「アルフレッド、最近立場を越える行動が目立つようだが、職務は分かっているだろうな」
「はい、理解した上で行動しております」
「ほう、理解した上でか」
「えぇ、それで今進めている案件で相談したいことがございます。近々お時間を作って頂けないでしょうか」
堂々としたアルフレッド様の態度に、セオドアが一瞬眉を顰めた。この国の王は独裁的でアルフレッド様のご意見に耳を貸すことは少ないと聞いている。どちらかというとセオドアを信頼しているという感じだ。
「アルフレッド様。先日は娘の誕生日パーティに来て頂いたのにご挨拶もできず申し訳ありません」
「いや、長居できなかったが素晴らしいパーティだった」
薄っすらとした微笑みを浮かべながら交わされる会話は、内容に反してなんだか怖い。
「でしたら今度お時間あるときに是非いらしてください。美味しいお茶と御菓子を用意してお待ちしております」
にこりと微笑むクローディアに一瞬アルフレッド様の頬が引きつったように見えた。
あの夜、結婚することはないとあれほど断言されたのに、どうしてこうも前向きになれるのだろうか。
皆の興味が私から逸れたので、目線だけ動かし部屋を見渡す。シャンデリアは八角形の大きな物、壁には立派な絵画が飾られていて、大きな花瓶には花が咲き誇っている。目に見える場所に、特に異変を感じる物はなかった。
でも目線をもう一度国王の左胸に向けると……やはりそこは紫色に光っている。
それは、目を凝らさなくては分からない程の小さな物ではあるけれども、明らかに他の身体の場所とは見え方が違っている。
ちらりとクローディアを盗み見るけれど、彼女の様子に特に不審なところはない。見えていないのか、見えていないふりをしているのかは分からないけれど。
隣から肘を突かれ、見上げるとアルフレッド様の視線とぶつかり、その視線は次に国王のもとへと向けられ……た。
(回復魔法について、話を切り出しでもよいか)
多分その目はそう言っている
でも、私はその問いに小さく首を振った。
回復させることは可能だけれども、それより先にすべきことがあるように思う。それをどうやってアルフレッドに説明したら良いか……。
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