014 警報
翌朝も、文月さんは無邪気に呉葉に話し掛けてきた。
昨日と同様、話はあちらこちらに飛びまくる。
そんな文月さんを見ていると、微笑ましいような気にもなるが、赤津支店長や古倉さんのことを思うと、心に暗い影が射し込んだ。
話の途中、文月さんはそんな呉葉の様子に気づいたようで、首をちょこんと傾げて呉葉を見てくる。
「どうかしましたか? 蜷川さん、アタシ、変なこと言ってます?」
「あっ、全然、大丈夫です。ちょっと考え事しちゃったもので。……すみません」
「ん? お悩みごとですか?」
文月さんが眉根を寄せ……そして顔を近づけ、尋ねてくる。
くっきりとした、人形みたいに整った顔立ちが、呉葉の目の前に迫り、シャンプーの仄かな香りが鼻の先に届いた。
近くなり過ぎた彼女との距離を戻すように、呉葉は反射的に後ずさった。
「ん?」
すると、今度は文月さんが、開いた距離を詰める様に、一歩前に足を踏み出す。
「……」
…………なんでこの子、こんなに人との距離が近いんだろう…………
「ん? 蜷川さん、どうかしましたか?」
「あ、いや、別に……最近、仕事がうまくいってなくて……ちょっと、ぼんやりしちゃっただけです……あははは……」
「うーん、そうなんですかぁ……あまり思い煩わないで、仕事、気をつけて下さいね」
“仕事を気をつける”って、変な表現だなとか、近くで見るとホントに美人だなぁとか、なんか色々と勿体ない子だなぁとか、そんな様々を思いながらも、呉葉はこれ以上、彼女と話をしているのはマズイ気がしていた。
呉葉の頭の中では、面談での赤津支店長の言葉が、警報のように鳴り響いていたからだ。




