012 安易な夢想
この日、呉葉は夜の一人の寝床の中で、目を瞑って文月さんとの不思議な邂逅を思い浮かべていた。
文月さんの笑顔を思い起こすと、胸の奥から温かく、弾むような何かがじわりと染み出す。
今日の遣り取りを振り返るに、彼女は『発達障害者』に違いない。
そしてこの……文月さんに対する想いは──呉葉もまた同じように、『発達障害者である』という切ない事実から湧き上がるのもので…………
呉葉の頭の中は、もしも……という妄想で渦巻いていた。
もしも……わたしが『発達障害者』であることを、彼女に打ち明けられれば、どんなに素敵なことだろう。
彼女の放った“アタシとおんなじ感じがします”という言葉は、呉葉の心の柔らかな部分をすっかり埋め尽くしていた。
もしも、わたしが『発達障害者』であることを打ち明けられれば…………互いに同じ運命を相憐れみ、これまでの様々な苦労や恥辱を交わし合えるやもしれない……。
その考えは呉葉の心を甘く締め付け、多分に除し難いものとなっていた。
だけどそんな安易な夢想の中には、確かな警戒も入り混じる。
面談での……赤津支店長と…………特例子会社に転籍させられた古倉さんのことが、呉葉の脳裏で烈しく明滅を繰り返す。
途端に呼吸が苦しくなり、寝付けない。
寝返りを打ち、呉葉はこれまでの自身のことを様々に考えた。
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