004 最小のインプットで最大のアウトプットを
呉葉の勤める会社は、飯山産業株式会社という事務用品を扱う大手の商社で、シェアは国内トップの一部上場企業であった。
このため、支社は全国各地に点在している。
そして年に一度、東京本社の幹部が各地の支店を訪れて、地方社員の日々の働きぶりを称え、鼓舞するという名目で視察が行われていた──だが、視察といいながらもその実態は各支店への監督、指導だ。
◇ ◇ ◇
──飯山産業さいたま支店の応接室に、二人の男がローテーブルを挟む形でソファーに座り、向かい合っていた。
「いやぁ。本日はさいたま支店までお越しいただき、誠にありがとうございます」
揉み手を作り、紋切り型の挨拶を述べるのは、赤津さいたま支店長。脂ぎった顔に、諂うような笑みを貼り付けている。
「こちらこそ、忙しい中、時間を割いてもらってすまない」
白髪混じり頭髪をオールバックに撫で付けて、高そうなスーツに身を包むこちらの男は、東京本社の人事部長。
一度見れば忘れられない見事なまでの三白眼。
その瞳は狂気じみた酷薄さを周囲に放ち、室内の温度を痛いほどに下げていた。
「赤津君、さっそく本題なんだけど、さいたま支店に“発達障害者”あるいは“グレーゾーン”の社員っている?」
「うちは……先日、ある社員が“発達障害者”だと分かりまして、その後本人の希望で特例子会社に転籍させましたが……」
「そうか。ごくろう」
「……ありがとうございます」
「それで、他に……そういう社員はいない? それっぽい社員を含めて……」
「そうですねぇ」
赤津支店長は腕を組み、なにか心当たりを探すような、わざとらしい仕草を見せ付けた。
「うん。今すぐ思い浮かばなくても構わないんだけど、もしそういう社員がいたら、本人の意思を尊重して、適切な部署に配置したり…………あるいは新しいチャレンジって言うの? 背中を押してあげて欲しいんだ」
そこまで言うと人事部長は、赤津支店長をじろりと見据えた。
「……なるほどです……」
「……なんて言うのかなぁ。……企業って要は“人”なんだよね。……いかに社員の質を向上させるか? いかに少数精鋭体制を作り上げるか? 最小のインプットで最大のアウトプットを引き出して、組織の利益の最大化を図る……赤津君、ボクの言わんとすること、分かるよね?」
そう言うと人事部長は澆薄そうな三白眼で、赤津支店長をじろりと見遣った。
「ぜっ! 善処いたしますっ!」
翌日から赤津支店長による不適切社員の洗い出しが始まった。
それは酷く凄惨を極めた。




