017 面談3──同じお金をもらって、100の仕事をしている人もいれば、マイナスの人もいる──
「彼……発達障害者だったんだよ……そのことでずっと一人で悩んでいたみたいで……だから、もしもだよ? もしも蜷川さんも何か…………そういうことで悩んでいたら、一人で苦しんでいないで相談して欲しいんだ。僕はそのためにいるんだから」
伏せていた視線を上に上げ、支店長と目を合わせると、彼はその大きな顔をクシャっと笑みに歪めた。生じた目尻の皺から、黒い虫でも湧いて出て来そうだった。
「いいえ、わたしは……そういうのはありません」
「そう? 本当に?」
「はい。大丈夫です」
「なんか、苦手な仕事とかない? うまくいかないこととか。仕事以外でも、何でもいいから」
「何もそういうことはありません。楽しく仕事をさせていただいています」
膝に置いたこぶしを強く握り締め、振り絞るような声で答えた。
「…………いやぁ……誰がとは言わないよ。あくまで噂話なんだけど……君が発達障害者なんじゃないかって、話をする人がよくいるんだよねぇ……」
「…………」
親指の骨がポキリと軋む音が、どこか遠くで聞こえた。
「いや、もちろん、君がそうだってことを言いたい訳じゃないよ。でもさ、ほら! なんて言うか、わかるでしょ?」
呉葉は理解した。恐れていたことが、とうとう現実に染み出てきたのだ。
「ほら、給料ってみんな同じでしょ? 基本的に。同じお金を貰って、100の仕事をしている人もいれば50しかしていない人もいる……でも、中にはもっと酷くて、マイナスの人もいる……」
「…………」
呉葉は唇をきゅっと強く引き結び、目の周りに力を篭めた。
「でも100の人も、マイナスの人も同じ給料を貰ってるんだ……これって何か変だって……あくまで一般論だけど、そう思わない?」
「…………」
握り締めたこぶしの感覚が、徐々に曖昧になっていく。
「……どうだろう? 蜷川さん、今一度、自分の適性と自分のしたいことが一致しているか、真剣に考えてみてはどうかな? まだ24歳だよね? それって、とても素晴らしいチャンスだと思うんだ」
「…………」
赤津支店長は呉葉の目を見て、放さない。それは決意を伴った目力で。
まるで喪心した人のように。
呉葉は全身の輪郭が、ぼんやりと溶けていくような感覚に包まれた。
そんな中、呉葉は支店長に抗うように、必死に言葉を絞り出す。
「…………いえ……、わたしは今の仕事が楽しいです。身体も……心身ともに健康です。これまで通り……この職場で……一所懸命働きたい……です……」
「…………」
「…………」
最後に支店長はこんな言葉を言い残し、やっと呉葉を面談から解放した。
「まぁ、今日明日に答えを求めてる訳じゃないからさ。真剣に今の自分、これからの自分のことを考えてさ。新しい人生を始めるつもりで、前向きに考えてよ」
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