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舞い踊る天空の星々  作者: Jint


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39.反撃の狼煙

 エミリオは中核となるグループメンバーと秘密裏に連絡を取り、反抗作戦の指揮を執った。

 証拠となるクインと慎也の映像を学生たちの個人端末に送信すると共に、グループメンバーを中心に警備科の詰め所を襲って武器を入手する。そして協力を申し出た学生たちに武器を配り、エインヘリャルから主要な施設を奪取する作戦だ。


「燃え上った火が消される前に、導いてやらないとな」

 エミリオの作戦は完全にマッチポンプだ。学生たちは映像を見て不安や怒りを感じるだろうが、すぐに行動を起こす者は極僅かだろう。誰かが暴動のきっかけを作ってやらなければ、警備科の組織力には対抗できない。その燃料を注ぐ役目をグループが担うのだ。


「警備科の奴らはどうするんだ?」

「多少手荒にはなるだろうが、拘束して監禁するしかないな」

「集団は往々にして歯止めが利かなくなる。十分、気を付けてくれ」

 絢斗たちの目的は学生たち全員の生還だ。その中には警備科の者たちも含まれる。いくら憎い相手だろうが、命のやり取りをしているわけではないのだ。

「要所々々はグループメンバーに指揮を執らせる。彼らに厳命しておけば、暴走は止められるだろうさ」



 クインと慎也の映像はシーユウの手によって学生たちの個人端末に送信された。彼らの密談内容は学生たち全員の知るところとなったのだ。映像を見た者たちの反応は概ね二通りに分かれる。食糧の備蓄が救助まで持たないことを知って絶望する者、そして半数しか生き残れないことを知って憤る者の二通りだ。


「くそっ、俺たちは騙されていたのか?!」

「みんな付いてこい! 奴らから武器を奪うぞ!」

「うおおおおおぉぉぉぉ!!」

 警備科の詰め所を囲んだ学生たちの人数は、すでに守っている側の倍以上に膨らんでいた。隣に味方がいることが、相手を凌駕する人数を揃えていることが、攻める側の闘争心を煽っていた。


「いや、しかし、これは反乱だ。こんなことが許されるのか?」

「許されるかだと? お前はこのままエインヘリャルが俺たちを生贄の羊にすることを黙って見ているつもりか? お前は生きたくないのか?!」

「俺だって死にたくない! だが、エインヘリャルは俺たちのために動いてくれていたはずだ」

「なら、お前がみんなのために死んでくれ。それとも生き残るはずの半分に選ばれたつもりだったのか?!」


 反乱に反対する声は次第に小さくなっていった。クインが残す半数の基準は誰も知らない。自分がその中に含まれているのか、誰もが疑心暗鬼の状態だった。それは警備科の者でさえも同じだった。慎也がいつでも切り捨てられるように組織の縦割りを進めていたせいで、中核となるメンバー以外、誰もクインの意図を明確に知らされていなかった。彼らにとってもシーユウが暴露した映像の内容は寝耳に水だったのだ。


「ま、待ってくれ、俺らだって知らなかったんだ。立場はお前たちと同じだろ?」

「散々、美味しい思いをしておいて、よくそんなことが言えたもんだなあ!」

「それは……、仕事だったんだ。上から言われれば、なあ、お前もわかるだろう?」

「はっ、この転向者が! 都合がいいことを言ってんじゃねえ!」

 暴徒の一人が膝立ちで両手を上げている警備科の男の顔を銃把で殴りつけた。殴られた男は派手に吹っ飛んで床でうずくまった。口の端から血を滴らせているが、下手に抵抗しても余計な軋轢を生むだけだと悟ったのか、それ以上何かを訴えることはなかった。


 一部では銃撃戦が始まっていた。障害物に隠れながらゴム弾を撃ち合うが、直撃しない限り決定的に破壊力が欠けている。かといって砲煙弾雨に身をさらして血路を開こうとするほど、勇敢さに長けているわけではなかった。それでも少しずつではあるが、包囲の輪は狭まりつつあった。



「抵抗があまり激しくないな」

 エミリオが誰に話しかけるともなく呟いた。最前線で撃ち合っていると、相手の士気もある程度、伝わってくる。以前、食堂で撃ち合いをやらかしたときに比べると、反撃も散発的で守りも及び腰に感じた。

「奴ら自身が信じていないのさ。自分たちが戦う意味を」

 絢斗は守りについている警備科の心情をおもんばかった。

 攻撃側は施設を奪取することが大きな目的となっている。しかし、防御側には目的らしい目的がない。施設を守り切ったとして、その先はどうなるのか。何も変わらない。すでに周囲には味方となる生徒はいないのだ。脊髄反射で反撃したものの、落ち着いて先のことを考えると不安しか湧いてこない。それはクインや慎也から明確な指示が送られてきていないことも拍車をかけていた。



「くそっ、クインとは連絡が取れたのか?!」

 慎也と取り巻きの警備科たちは食堂に追い込まれていた。かつての絢斗とエミリオの立場と逆転してしまったことに感慨を抱くような余裕はない。

「通信が妨害されている。固定も個人も全ての端末がだ!」

「シーユウか、アイツを捕らえておくべきだったな……」

「どうする、慎也?」

「こっちは食糧を抑えているんだ。二日もすれば、奴らの方が音を上げるだろうよ」

 不安そうな表情を見せる取り巻きに、慎也は楽観的な未来を語ってみせた。


 ――まあ、投降したときの条件を少し良くするぐらいだろうが、精々高く売りつけてやるさ。


 慎也たちは食堂に十分な武器を持ち込んでいた。一週間程度の籠城なら問題ないだろう。ここからは我慢比べだと、慎也は腹をくくった。



「待て、撃つな、俺たちは降参する」

 中央管制室を守っていた警備科の者たちは、慎也からの指示を受け取れなくなり、切り捨てられたと判断したようだ。

「わかった、銃を床に置いてゆっくりこっちに歩いてこい」

 警備科の者たちは素直にエミリオの指示に従った。武装解除が進む中、警備科に両腕を拘束された状態でクインが連れてこられた。


「クインか……」

 まさかエインヘリャルのリーダーがこんな簡単に反乱側の手に落ちるとは、エミリオも想像していなかった。クインは管理に関して有能ではあったが、尊敬や忠誠を集めるタイプのリーダーではない。守りを固めていた警備科の者たちは自分たちの待遇を少しでも良くするために、あっさりとクインを差し出すことを選んだのだ。

「ふむ、今回は君たちの勝ちだ。だが、いずれ選択のときは来るだろう。そう遠くない未来だ。その時、君たちがどのような判断を下すのか、楽しみにしている」

 クインは捨て台詞をエミリオと絢斗に吐いた後、グループメンバーに連れて行かれた。


 ――そうだ、俺たちはまだ最も大きな問題を解決していない……。


 クインが連れて行かれる様を見て、絢斗は未来の自分の姿を見ているのかもしれないと感じた。





 


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