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舞い踊る天空の星々  作者: Jint


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14.堕ちた英雄

「お、おい、見ろよ! これ全部食糧か!?」

 トクタルの口から驚きの声が漏れだした。

 隣で荷物の運び出しを見守るフリストスも口を大きく開けたままだった。


 瓦礫の撤去が進み、倉庫までの通路が開通すると、中から多くの物資が運び出された。食糧品、衣料品、消耗品、医療品など雑多な物資が所狭しと並べられている。

 物資の発掘作業を行っていた修理班は、大きな成果を前にしてにわかに活気づいた。これだけの物資があれば、苦しかった食糧事情も改善され、不足しがちだった様々な物資にも余裕が生まれる。

 誰もが興奮した面持ちでこれまでの苦労をねぎらい合った。


「お前らよくやった! 最後のひと踏ん張りだ。この物資を全て施設に運び込むぞ」

 慎也の指示に息の合った応答が返ってきた。

「そしてお待ちかねのボーナスだ。皆、一抱えずつ好きな物を持って帰っていい。通路を開通させた三班は二抱えだ!」

 修理班から大きな歓声が上がった。


 歓声が落ち着いたのを見計らって慎也は続ける。

「ここの物資は皆の物だ。あまり欲張り過ぎるんじゃねえぞ!」

 興奮冷めやらぬ修理班に笑いが巻き起こった。



 慎也は警備科の取り巻きの一人に近づくと、近接通信を切り、ヘルメットを接触させて話し始めた。

「食料品を10箱程度、別の場所に隠しておいてくれ」

「別の場所にか?」

「廃棄されている第12ブロック辺りが丁度良い。あそこなら誰も探そうとしないだろう」

「……ああ、了解した」

「まあ、単なる保険だ。他の奴らに気取られるなよ」

「わかってるって」

 指示を受けた男は他の取り巻きたちの下に走っていった。



 物資を持ち帰ってきた修理班を倉庫管理担当の学生たちは拍手で出迎えた。

 苦しい台所事情を察してか、どこか重苦しい雰囲気が漂っていたが、今はどの顔にも安どの表情が浮かんでいる。

 修理班の面々は大きな成果を前に苦労話に花を咲かせていた。困難に任務を達成して称賛を浴びる。これほど自尊心をくすぐることはないだろう。修理班は我が世の春を謳歌していた。


 突然、暴徒鎮圧用の銃を持った生徒たちが倉庫に駆け込んできた。銃を修理班に向けて構えた生徒たちは、壁際をぐるりと包囲する。

 遅れてフィンが倉庫に入ってきた。後ろにはクインも付き従っている。


「皆、その場を動かずに私の話を聞いてくれ!」

 一瞬のざわめきが起こった後、辺りは静寂に包まれた。

 フィンは一拍置いた後、一人一人に語りかけるように話し始めた。

「この施設で食糧の横領が見つかった。実行者は既に捕らえている。彼の証言から警備科三年、三田慎也の関与が判明した」

 収まっていたざわめきが音量を増した。今度は収まる気配がない。

「静かに! まだ話は終わっていません」

 クインが鋭い口調で周囲を圧倒した。

「慎也、悪いが拘束させてもらうぞ。罰則が決まるまで独房に入っていてくれ」


「てめえ、慎也さんに濡れ衣を着せやがって!」

 フィンの言葉に激高した取り巻きの一人が殴りかかろうと前に出た。

「ヒッ!」

 銃など持ち慣れていない生徒の一人が、咄嗟の事態に狼狽して引き金を引いてしまった。

 慎也は軟質ゴム弾が撃ち出される前に取り巻きを突き飛ばし、左手を盾に半身に構えた。

 撃ち出されたゴム弾は慎也の腕を逸れて背中側に当たった。


「くっ!」

 ボクサーのパンチを食らったような衝撃が走り、慎也は後ずさった後、あまりの痛みに膝をついた。

「止めろ! 銃を下すんだ。落着け!」

 フィンから制止を促す声が飛ぶ。

 制裁を目の当たりにして冷静さを取り戻したのか動き出す者はいなかった。


 膝をついた慎也を見下ろすようにフィンが近づいた。

「慎也、大人しく付いて来てくれ。悪いようにはしない」

 慎也は痛みに顔をしかめながら、荒い息を整えるように間を置いた。

「容疑を説明してくれるんだろうな? 俺も納得できないままでは気分が悪い」

「食堂の配膳係がお前に脅迫されて、食糧を横流ししたと証言している」

「はっ、あの男か!? 小物に足をすくわれるとは俺も大したことねえな」

 クインの説明を聞いて慎也は笑い出した。


 ――どうせ突っ込んだ尋問なんてしちゃいねえんだろ? 奴のスケープゴートにされたのなら大した罪じゃねえ。


 慎也は両手を上げて恭順の意を示した。

「お前らも手は出すな! すぐに潔白が証明されるさ」

 堂々とした態度で立ち上がると、慎也は口の端を歪め両手を前に出した。

「拘束しろ!」

 フィンの指示で拘束された慎也は独房へと連れて行かれた。



 フィンと慎也の去った後、騒然とした倉庫は徐々に落ち着きを取り戻した。取り巻き立ちは憤懣やるかたない様子だが、多くの修理班にとっては戸惑いを見せるだけで、直接的には関わりがなかった。

「さあ、ここはもういいでしょう。みなさん、解散してください」

 クインの言葉に修理班は鈍い反応で動き出した。


「あなた、何故物資を持ち出そうとしているのですか?」

「これは、俺たちの報酬です」

「物資はここにいる全員の物です。個人での所有は認められませんよ」

「しかし、危険な任務を成功させたのは俺たちですよ!」

 呼び止められた男は不満げな様子で抗議した。高揚していた気分に水を差された格好だ。

「誰の許可を得て、そんなことを言っているのです?」

「それは……、慎也さんの……」

 目の前で拘束された男の権限を当てにしていたことに気付いて口ごもってしまう。


「とにかく物資の持ち出しは規則違反です。あなたも拘束されたいのですか?」

 クインの冷たい目線を受けて男は渋々物資を手放した。

 修理班の面々もその会話を聞いて持っていた物資を床に置いた。


 しかし、その目にはエインヘリャルへの不満がありありと浮かんでいた。





 


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