表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
IRREGULAR《アン・エイビー事件編》  作者: 616
第三章※アン・エイビー猟奇大量殺人事件・事件編
35/35

15:打開策

 ※※※※



 視界に黒い瓦屋根の細長い平屋の建物が増えた。

 本の一族居住区。まばらに道行く人々が、走るシオンに何事かと振り返る。

 その一人を捕まえ、矢次にシオンはつげた。

「この雪で避難勧告が出ました! 雪の重さで、住居の倒壊が相次いでおりまして、ひとまず貴重品だけを持って、早急に管理局ホールに避難してください」

「なんてこと……」

「大変じゃない」

 話を聞きつけ、ほうぼうから集まってきた人々が青い顔でざわついた。管理局の制服を着た男の言葉を、信じない道理はない。

「あ! お待ちください! 」

 慌てて駆け去ろうとした主婦を、シオンは引き止めた。

「皆様、現在、局員も長期任務で出払っておりまして……現場は拮抗しておりますので、このことをご近所にお知らせしていただけると助かるのですが……」

 実に申しなさげに眉を下げた美男シオンに、きゃあと場違いな黄色い声が上がった。




「とりあえず、管理局には自衛してもらうしか……」

 時間は無い。もしかしたら、この街のどこかでもう始まっているかもしれないのだ。

 居住区の表通りを逸れ、路地裏から裏道に出る。

 なるべく大きく、この居住区をシオン自身の脚で囲まなければならない。

 シオンは剣士以前に、魔法使いである。初めて落ちたのは魔法使いの国だ。

 不本意な旅のさなかに、体質に合わせて強化され、魔法使いの銀の杖は鋼の剣になった。

 ほとんどシオンだけのオリジナルになってしまったが、それでも彼はこれを魔法と呼ぶ。彼の触れた『不思議な力』は、すべからく魔法だ。


 異世界人たる彼の固有の能力は、『空間把握』。

 結界―――――自分が最も活動できる空間を、場に創りあげる能力である。結界内なら、五感はどこでも届くようになる。

(これで避難からこぼれた人は助ける―――――)

 居住区の周囲は約15㎞。シオンの脚なら、十分で囲むことが出来る。


「……大丈夫。なんとかなる」

 戦いは実際は地味だ。まったく格好いいことなんてない。

 雪が降ったのは運が良かった。街は異常気象と、雪の持つジンクスに揺れている。避難勧告の情報は、すみやかに広がっていくだろう。

 パニック状態の住民らのアフターケアは、管理局に丸投げだ。

 シオンは出来るだけ早くに、戦いを終わらせなければならない。もっというなら、管理局自体に、目をつけられる前に終わらせなければならないのだ。

 この悪趣味なゲームを終わらせる権利があるのは、シオンと根積。根積らの足止めはシオン一人で、そう、あちらには実動員のアン・エイビーに、下手をしたら管理局第二部隊長トム・ライアンとその部下たちが――――――


「――――あっ! 」


 シオンは踏み出したまま足を止めた。

「そうだった! 忘れてた! 」

 管理局には当然、第二部隊長のトムがいるのである。しかし今更、対策を立てる時間は無い。

 何より、シオン自身の頭が、あっという天才的な打開策を打ち出せるようには出来ていなかった。頭の隅で、「貴方も壁のシミでも見ていれば、理知的に見えなくもないのですけれど」なんて溜息を吐く、情報屋の顔が浮かぶ。

「俺の馬鹿! 」

 シオンは足に力を込めて走り出した。

 シオンの頭で出てくる打開策はただ一つ。

(―――――速攻で終わらせる! )

「そんなマンガのような策でうまくいくと本気でお思いで? 」情報屋が鼻で笑っていた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ