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灰色のドレスは、午前零時にほどけない

作者:kaka
最新エピソード掲載日:2026/11/07
この国には、誰もが知っているおとぎ話がある。

意地悪な家族に虐げられた少女が、魔法使いの力を借りて舞踏会へ向かい、王子様に見初められる。午前零時に魔法は解け、ガラスの靴だけを残して少女は姿を消す。

そして最後には、二人は結ばれ、幸せに暮らす。

誰もが知っている、幸福なシンデレラの物語。

ただし、その物語には、ひとつだけ語られないことがあった。

主人公のエラは、王宮の舞踏会で王子に恋をした。

彼の優しい微笑みも、誰に対しても分け隔てなく接する姿も、すべてが好きだった。

だからこそ、彼が別の少女を選んだとき、エラは自分の気持ちを隠して祝福した。

けれど、その夜。

午前零時の鐘が鳴った瞬間、世界は巻き戻った。

気がつけば、舞踏会が始まる前の朝。

王子に恋をする前に戻ったはずなのに、エラにはすべての記憶が残っていた。

何度やり直しても、結末は変わらない。

王子は別の少女を選び、エラは選ばれず、午前零時に世界は繰り返される。

最初は偶然だと思った。次は魔法だと思った。そして、何十回目かの夜、エラは気づく。

自分の着ている灰色のドレスだけが、時間の巻き戻しに取り残されていることに。

ほつれた袖も、裾についた小さな染みも、繰り返すたびに増えていく。

まるで、この世界が彼女の存在を忘れていく一方で、ドレスだけが彼女の生きた時間を覚えているかのように。

やがてエラは知ることになる。

この世界には、シンデレラが幸せになるための筋書きが存在すること。そして、その幸福な結末を成立させるために、何度も同じ夜を繰り返している存在がいることを。

王子に選ばれたい。

その願いは、嘘ではなかった。

それでも、誰かの物語を完成させるために、自分の人生を犠牲にするつもりはない。

これは、童話の脇役にされた少女が、与えられた結末を書き換えるまでの物語。
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