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エピローグ 霧の中の不思議なツーリング旅
思い返せば、
岡山の濃霧の中で見た「忌中」の札の家。
バス停の裏の、誰に向けたとも知れない話し声と、夜目にも広がっていた広い墓地。
道後公園で、耳元にふっと触れた、あの男の囁き。
しかし確かに、こちら側ではない気配。
須崎の旅館の玄関で感じた、理由の分からないひやりとした違和感。
赤穂辺りの鳥居の下のバス停の夢とアパートに帰ってからの階段を上がる草履の女性。
そして、消えてしまった一日。
あの女性は、
あの霧の中で私が踏み越えてしまった
“境界の向こう側”の誰かだったのかもしれない。
あの男の囁きも、
墓地の裏の話し声も、
忌中の札の家の沈黙も、
すべて同じ境界から漏れ出た気配だったのだろう。
その中のひとつが、
帰る場所を間違えて、
私のアパートまでついてきてしまったのかも知れない。
鉄の階段を草履の踵で叩く、あの乾いた音。
重さのない足取り。
姿は見えないのに、確かに近づいてくる気配。
あれは、旅の途中で出会った誰かではない。
霧の中で私とすれ違った“何か”が、
私の時間に入り込んでしまったのだと思う。
完




