エピローグ
今ぼくの世界が始まった。
この世界の中心にいるぼくは、それを見ているぼくの気も知らずにいるんだろう。まったく愚かなことだ。・・・この捻くれ者め。中心にいる自分が素直な自分だと気付いているだろうに。
とうとう自分自身にすら悪態をつき始めたか。馬鹿みたいな自分が面白く感じる。本当に、ただ本当に面倒くさい人間なんだ、ぼくは。ちょっと変で、ちょっと捻くれていて、ちょっと共感性がなくて、すごく面倒くさいただの人間。強い意志を持つヒーローのような、はたまた信念の元にまっすぐ生きるアンチヒーローのような、あんな特別な人間ではない。別になりたいわけじゃあない。ぼくは、普通に、平凡にこそなりたい少し風変わりな人間なんだ。
ぼくはいつからか自分の気持ちを気にしなくなっていたのかもしれない。人の目を気にする人を、もったいないと思う。恥の文化、それに流される人々を見て、模倣して、ぼくはぼくの心を隠す。優先されることは普通であること。自分があることなんてどうでもよくなってしまっていた。そんな人間が、そんな価値を壊すことになった。ぼくからの畏怖、尊敬、理想、信頼、心配、興味、嫉妬、敵意、好意、これらを一身に集める最高の恥知らずによって。
彼女に対して抱いている感情はいったいなんなのだろう。ある人は恋と呼び、またある人は友情と呼だろう。別の人は好敵手に対するものだと言うかもしれない。さらには一人の人に様々な感情をぶつけること、それは愛だという輩もいるであろう。もし入り混じっている気持ちひとつひとつに割合をつけることができればわかるのかもしれない。そうすればこの不思議な感情に輪郭をつけて、言葉で縛ってしまうことができるはずだ。しかしそれはできない。常に同じ感情ではない。この感情はそのときそのときのぼくのもので、一秒後のぼくはもう別のものなのだから。これを知って、それが余計にぼくを惑わせているのだろう。それでもぼくは、今はあやふやな気持ちのままでいいと思っている。この名前のない感情を、ぼくはそのままで大切にできる、そう思える。
今ぼくの目の前の人に感謝をしている。打てば響く人、そしてその言葉はぼくの心に響く。いったいどれだけのありがとうがあるだろうか。それでもそれ以上に思うことがあるんだ。どれだけこの静かで、面倒で、厚かましい放課後があるかなんてわからない。ぼくはこの時間がいつまでも続いてほしいと願う。続けていくためにすべきこと、そのためにぼくは言葉に頼る。だから伝えないといけない。他愛ない日常の、他愛ないぼくらの関係のために。
「栄生さん、ちょっと中途半端なことだけど聞いてくれるかい」
「いつもの雨崎くんもそうなんだから。なにかな」
「ぼくは栄生さんに対する感情が何かはわからない。でもね、ぼくは栄生さんのそばにいたいんだ」
「わたしもだよ」




