マットでPPな彼女 side IKU
地味な男の子とキラキラした女の子。
普段の生活からテリトリーの異なる二人が、気がつけばお互い気になるように。
※ 保険の為R15設定にしてあります。
先週に続き、今週も月曜日から東雲くんとの時間ができた。
と、喜んでいたのも束の間。
目の前には東雲くんと、その胸に顔を埋める女の子。
何なのこの子!?
いきなり東雲くんに抱きつくなんて!!
いえ、誰かはもうわかってるの。
あの割れたメガネ。
入学式の時に東雲くんが、不良もどきから助けてあげた女の子。
わたしが東雲くんを気にするきっかけになったあの女の子。
……って事は、もしかしてライバルなのでは!?
端から見ててもあんなにかっこよかったんだから、直接助けられた相手は好きになるに決まってるわ!
そう決まった!!
いえいえ、落ち着くのよわたし!
まずは深呼吸……なんてしてられるか!!
大体東雲くんも鼻の下のばしちゃってなんなの!
そんな顔するのはわたしだけであれ!
「どうした! 何があった!?」
いよいよわたしが文句を言ってやろうと思った瞬間、わたしと東雲くんの驚いた声が聞こえたのか、職員室に繋がる扉が開いて二階堂先生が入ってきた。
「あーーーーーえーーー……うん」
「んーー?」
そりゃ教え子が抱き合ってたら戸惑うわよね!
ほら、言ってやって言ってやって!
神聖なる学舎で何しとんじゃーーって!!
誰でもいいんか!
節操ないんじゃーーーって!!
「……まぁあれだ。そういうのは作業を済ませて帰ってからにしろ。校内では程々にな」
それだけ言って、教務室に戻っていく二階堂先生。
こらーーーーーーーーっっ!!
そういうのってどういうの!?
程々ってどこまで!?
理解ある風に言っても教師としての責任放棄じゃないの!!
わたしが相手の時も同じようにしてよね!
そうこうしてたら東雲くんが、御厨さんの体をまさぐりながら離れていた。
教師が頼りにならない以上、この場はわたしがなんとかするしかない。
「東雲くんのえっち」
ちがーーーーーーーーーーう!!
これじゃただのヤキモチじゃないの!!
うらやましい!!
「え!? どこも変なところは触ってないと思うけど…」
「東雲くんにならどこを触られても気にしないよ?」
「だから、触ってないでしょ……!!」
御厨さん、その発言……!
もー絶対そうじゃん!
「ふーん? どこを触ったの東雲くん?」
「肩を少し触っただけだって……九重さんも見てたでしょ!?」
見てたから聞いてるの!
肩を掴んだ手をなかなか離さなかった気がする!
0.7秒くらい!!
「うれしそうに、随分顔が緩んで見えたけど?」
「初めて会った相手にそんな事あるわけ……!」
「初めてじゃなかったらうれしいんだ?」
「そういうことを言ってるわけじゃ……」
とにかく!
相手がわたしじゃなかったらだめなの!!
でも言えない!!
わーん!
「ふふ」
「いきなりごめんね、東雲くん。ちょっと気持ちが昂っちゃって……びっくりしたよね」
今笑う時こっち見た!?
宣戦布告か!!
同じタイミングで好きになったからって負けないんだから!
お助け序列で言ったら《わたし>東雲くん>御厨さん》でわたしの方が上位なんだからね!
お助け序列ってなに!?
「でもはじめましてだなんて……ぼくのことすっかり忘れてるんだもん。ひどいよ」
「いや……そのメガネ。入学式の」
「思い出してくれたんだ。うれしい!」
忘れてたのは東雲くんが悪いわね……そこは同意。
ちょっと鈍感すぎると思うわ。
でも、御厨さんの変貌ぶりには、わたしもすぐには気づけなかったもん。
って言うか、わたしもあの時は東雲くんのかっこよさしか目に入ってこなかったから、御厨さんだけじゃなくて不良もどきの方もうろ覚えなのよね……てへ。
ちなみに不良もどきくんはあの後まじめになって、生徒会長になってたけど、これは別のお話。
そういえばわたし委員会絡みで何度かお話してたわ。
すっかり忘れてたけど。
そんなどうでもいい事に考えが脱線してる間も、2人の会話は続いていた。
「あれからずっと、東雲くんのことが気になってたんだけど、クラスも別だし全然話をする機会もなくて……突然今日会えたと思ったら『はじめまして』とか言うんだもん!」
「ご、ごめん……。でもさすがに変わり過ぎだよ」
「ふふ。『地味』じゃなくなった?」
東雲くんの言葉尻を捉えて、ちょっと意地悪……ううん、あれは小悪魔!!
小悪魔な笑みを浮かべる御厨さん!!
やだ、可愛い!!
強敵!!
でも絶対負けてなんかやらないんだから!!
「九重さんも、あの時は本当にありがとう。九重さんはすぐに思い出してくれたみたいね」
と、急にこちらを向いて頭を下げる御厨さん。
わたしの戦意を削ぐ作戦!?
なんてことは流石に無いわよね。
わたしの事も覚えてくれてたんだ。
「あ、いえ……はい」
対御厨モードだったわたしは、なんとも中途半端な返事をしてしまった。
「ところで……九重さんと東雲くんは、付き合ってるの?」
「「ほぇっ!?」」
トラトラトラ……って逆!
我が防衛網の隙をついて、いきなり爆弾発言を放り込んでくるとは……!!
あまりのパワーワードに東雲くんの頭の上の方から素っ頓狂な声が出た。
わたしも出た。
「ななな……なんでそんな事聞くの!?」
しかもどもった。
最近動揺を隠しきれないわたし。
というか動揺するようになった……のかな。
「だって、ぼくが東雲くんに抱きついたら大きな声を出してたし」
「そ、そうだった?」
出るでしょ!
好きな人に他の女の子が抱きついたら!
「東雲くんがぼくの肩を掴んで引き離した時、彼に詰め寄ってたし」
「そんな詰め寄るってほどではなかったんじゃないかしら……」
ちょっと早口になって色々言っちゃった?
でもわたしより先に他の女の子に触れるとかだめでしょ!
わたし的に!!
「東雲くんも九重さんの視線を気にしてたような……」
「へぇ!? いやいや、女の子にいきなり抱きつかれてどうしていいかわからなくてね↑」
いきなりまた東雲くんに標的が変わって、彼も若干挙動不審になっている。
いつものクールな姿もかっこいいけど、慌ててる姿……超絶可愛い!!
わたしが知らなかっただけで、実は結構慌てたりすることもあるのかしら?
「じゃあ、ぼくのことはどう思う?」
うきゅーーーーーーーーーーーーーーん!?
波状攻撃!!
恐るべし御厨さん!!
わたしも東雲くんも、もう体力は限りなくゼロよ!?
不良もどきに負けてたとは思えない変貌ぶり……!!
で!?
どうなの、東雲くん!
そこはわたしもはっきりしてほしいわ!!
「えっと……客観的に見て可愛い……と思う……けど?」
可愛いって言ったーーーーっっ!?
可愛いってーー……!
可愛……。
「ほんと!?」
「え……うん、客観的に見て!……ね」
東雲くんが御厨さんを褒め称えた時、下校時刻のチャイムが鳴り響いた。
それを聞いて慌てて荷物をカバンに詰めはじめる御厨さん。
「ごめん! ぼく今日保育園に弟を迎えに行かなきゃいけなかったんだ! 先に帰るね!」
「東雲くん、またね」
そう言い残すと、彼女は教務室に続く扉から出て行った。
途端に進路相談室内は静かになる。
彼女は『またね』って言った。
『東雲くん、またね』って。
東雲くんとわたしの2人きりになった。
本当ならすっっっごくうれしいはずなのに。
なんだか胸がもやもやする。
むぅぅぅぅぅぅぅ……!!
「東雲くん……?」
「は、はい!?」
わたしの口から、自分でも聞いたことのない重低音が響く。
こんな声出せたんだ。
「御厨さんとずいぶん仲が良いのね……?」
「そんな事ないよ!? だってさっきまで誰かもわからなかったんだよ!?」
「本当かしら……いきなり抱き合ってたし」
「一方的にしがみつかれただけです! ぼくの手はこう……宙を!!」
「可愛いって……」
「客観的に! です!!」
「だってぼくが好きなのは……」
え?
ぼくが好きなのは?
他にいるって事!?
しかし東雲くんの口から、その続きが紡がれる事はなく。
「おう。九重、東雲。遅くまですまんな。残りは先生たちでやるから、お前らももう帰っていいぞ」
教務室に続く扉が開き、二階堂先生が入ってきた。
ちょっ……肝心なところで!!
「ほら、約束のお菓子だ。ちゃんと賞味期限内だから安心しろ」
「あ、ありがとうございます」
「うー……ありがとうございます」
手渡されたお菓子は、きれいな小袋に詰められ、可愛いリボンで結んであった。
「この時間はもう正門は閉まってるから、横の通用門を使うように。日が短くなってだいぶ暗くなってきているから、寄り道はしないようにな」
「はい」
「わかりました」
……先生に挨拶を済ませ校舎を出ると、空は夜の帷に包まれ始めていた。
陽が落ちるともう、上着無しでは肌寒い季節。
少し黒い雲も出てきたみたい。
天気予報では終日快晴だったのに。
駅までの道のり、わたしは無意識に東雲くんの制服の裾を掴んで歩いていた。
『ぼくが好きなのは……』
あの後続けようとした言葉は何だったのかしら?
あの流れだと少なくとも御厨さんじゃないってことよね……。
え? じゃあ誰? 期待してもいいのかな?
でも東雲くん、押しに弱そうだしなー……。
続きを聞きたいけど、タイミングを逃すと聞きにくいよーーー。
そもそもわたし達、付き合ってるわけじゃないから、ヤキモチ焼くのもおかしいって思われるよね。
だって、まだ普通に話せるようになって2日目だよ!?
御厨さんの詰め寄り方が早すぎるんだよ!!
再会して1日目で抱きつくとかずるくない!?
ていうか何でそんなことできちゃうのさーーーー!?
でもぜっっっったい東雲くんは譲りたくないし!
あーもーーーーっっ!
どうしたらいいの!?
恋愛ってみんなこんなに頭がこんがらがっちゃうの!?
そんなことを考えていたら、また無言のままで駅まで着いてしまった。
仲良くなりたい人であるほど、普通に喋れなくなっちゃうのって何でだろう。
絶対東雲くんには気を使わせてるよね…ごめんよぅ。
「じゃあ、また明日……」
「……」
こんなに気まずくしちゃったのに、今日も東雲くんが先に声をかけてくれる。
わたしもがんばらないと……うー。
うーーーーーーーーーーーーーーーーー……。
ぎゅっ!!!!
「えぇぇっ……!? 九重さん??」
いきなり抱きついたりしたから、東雲くんびっくりしたみたい。
頭を押し付けている彼の胸から、どくんどくんて、鼓動が聞こえてきた。
少し速いような……でもその音を聞いているとさっきまでのもやもやが消えていく。
もやもやが全部消え去る前に一瞬だけ、さっきの御厨さんとのことが頭に浮かんだ。
その映像を振り払うように、東雲くんの胸に顔を埋めて呟いた。
「……これでおあいこなんだから」
「九重さん……? 今なんて……」
わたしの呟きに気がついたのか、東雲くんが聞き直そうとする。
わざと聞こえないように呟いたんだから、教えてあげないよーだ。
よし!
元気出た!!
出てきた元気そのままに、東雲くんから離れ、笑顔を見せる。
「東雲くん、またね」
わたしちゃんと笑えてたかな?
東雲くんはちょっと戸惑った顔をしてた気がするけど、返事を待たずに、わたしは改札に向かった。
明日からいっぱいお話してやるんだから!




