表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マットなぼくとPPな彼女  作者: kats(恋)


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/19

告白 side IKU

中学3年生の、地味な男の子とキラキラした女の子。

普段の生活からテリトリーの異なる二人が、気がつけばお互い気になるように……。

 とても静かな時間。

 いつの間にか降り出した雪が、まるでこの世の全ての音を吸収してしまったみたい。


「わたしも東雲(しののめ)くんが好きです」


 そんな静寂の中、わたしも彼に想いを伝えた。




 駅までの帰り道、時折、古い街灯がジリジリと鳴る音だけが微かに聞こえていた。

 まるでさっき告白した時のわたしの声みたい。

 寒そうに何度も両手に息を吹きかける東雲くんを見て、思い切ってこちらから手を繋ぐ。

 恋人繋ぎ。

 手袋をつけたままだと、ごわごわすると思ってはずしてから。

 その方があったまるかなって思ったし。

 なにより二人の間に少しでも距離があるといやだったから。

 繋いだ手は冷たくてひんやりしていて、想像していたよりゴツゴツで、とても男の子していた。




「あら。ふふ、今日は何か良いことがあったのね」


 家に着くと、わたしの顔を見て第一声、母がそう言った。

 え。なんでわかったんだろう。

 とりあえず部屋に戻り、着替えるために鏡の前に立つと、鏡の中のわたしは頬がゆるみ微笑んでいた。

 自分でも見たことないくらいうれしそうに。


 うふ。

 うふふふふ。

 うふふふふふふふふ。


 両思い!

 東雲くんとわたしが!

 両思い!!

 うれしくないわけがないのだ!


 でもわたしって結構表情に出るタイプだったんだなぁ。

 ちょーでれでれしてる。

 完全に溶けてる。

 分かりやすいにも程がある。


 あの後わたしたちは、駅に着いて別れるまで、一言も言葉を口にしなかった。




 体が冷え切ったわたしはいつもよりちょっと早く、晩ごはんの前にお風呂に入ることにした。

 はちみつの入った甘い香りがするお気に入りのボディソープを手のひらで泡だてていると、さっきまで繋いでいた東雲くんの手のひらの感触が蘇ってくる。

 なんとなく……なんとなくだけど、その手で体を洗うのがちょっと恥ずかしく感じた。

 別に東雲くんに体を触られてるわけじゃないのに。


「うーーーー!」


 えっちな気持ちを泡と一緒に洗い流すと、バスタブに全身を沈める。

 ぽかぽかと温まっていく体は、まるで今の私の心みたいに、ちょっとずつ熱を帯びていった。


 お風呂を上がると、帰宅していた父が入れ替わりでお風呂に向かう。

 そして全員が落ち着いたところで晩ごはん。

 我が家はみんな、食事中に今日あったことを話し合う。

 わたしも隠し事なんて今まで一度もしたことがなかった。


 でもなんでだろう。

 東雲くんとのこと。

 両親に話さなかった。


 その日わたしの中に、はじめて家族に内緒なことができた。

 わたしと東雲くん、二人だけのひみつなのだ。

 今はまだ。




 翌朝。

 昨夜は悶々としてなかなか寝付けず、ちょっと寝不足気味。

 でもまわりの声を気にしちゃう(空気を読める)わたしは、いつも通りアラームより5分早く目覚め、完璧に身支度を整えた。


 リビングに降りると珍しくテレビがついている。

 食事中の家族団欒を大切にする我が家は、食事の時間にテレビはつけないのだ。

 そんなテレビを観ながら、両親は今日の天気について話していた。

 テレビの中ではレポーターの人が、真っ白な息を吐きながら駅前のレポートをしている。

 駅前には大勢の人が集まり、皆一様にスマホでどこかに連絡をとっている姿が映し出されていた。

 どうやら昨夜降った雪が積もり、大半の交通機関が麻痺しているらしい。


 母の作る栄養バランスの整った朝食を摂り終える頃、父のスマホとわたしのスマホがほぼ同時に振動する。

 わたしのスマホには学校からの緊急連絡が届いていた。


『【降雪に伴う休校のお知らせ】学生・教職員各位。本日は積雪のため交通機関などに支障が出ております。生徒の安全を最優先に考え、臨時休校とします。部活動など授業外活動についても……』


 なんてこったい。

 東雲くんと両思いになって最初の日なのに!


 父の方も会社からの連絡だったみたい。

 今日は自宅でお仕事をするんだって。

 いつもの朝よりすこしだけゆっくりとみんなで過ごした後、父は定時だと言って自分の部屋に篭り仕事をはじめた。

 わたしの真面目な部分は、こんな父に似たんだろうなって思う。

 わたしも普段授業が始まる時間に合わせて、部屋に戻り自習を開始した。


 自習は好きな方だと思う。

 自分のペースで進められるし、何より今日みたいに自宅だと、誰も相談に来ないから静かで集中できる。


 はずなんだけどーーーー……。


 集中できない。

 できるはずがない。

 東雲くんのことが気になってしょうがないのだ。

 だって両思いになったんだもん。

 遠慮しないで話しかけられるようになったんだもん。

 なのにこのおあずけ状態。

 神様のいけず。


 机に向かってはいるけど、なんとなく足をぶらぶらさせてみたり。

 ご近所のスーパーのゆるキャラのぬいぐるみを弄んでみたり。

 気がつくと、頬杖をついてぼーっと窓の外を眺めてたみたい。

 部屋のドアをノックする音で我に返ると、時計は10時を指していた。


「なぁに?」


 部屋のドアを開けると、トレーに紅茶とお茶菓子を載せた母が立っていた。


「せっかくおうちにいるんだから、一緒に10時のおやつにしましょ」

「あ、うん。ありがとうおかあさん」


 我が家では休日には10時と15時におやつを食べる。

 食事を家族みんなで揃って食べるのと同じく、友達やクラスメートからはちょっと珍しがられるけど、わたしはとっても好きな時間だ。


「おとうさんは?」

「自宅にはいてもお仕事中だから、今日のおやつは二人でしましょ」

「そっか。テーブル出すからちょっと待ってね」


 普段、家族が揃ってお茶をする時は1階のリビングに集まるんだけど、父がいない時はわたしの部屋ですることも多い。

 なので折りたたみの白いちいさなテーブルがわたしの部屋には置いてあるのだ。

 わたしがラグマットの上にそのテーブルを広げて、ベッドの上に置いてあるクッションを敷くと、母が手慣れた手つきでティーポットからカップに紅茶を注いでくれる。

 湯気に乗って部屋の中に良い香りが広がっていくと、勉強のスイッチがオフになり、わたしもすっかりリラックスした状態に切り替わった。

 今日は元々スイッチがきちんと入ってなかったかもだけど。


「今日のおやつは、ミックスベリーのスコーンよ」

「わー! すごくおいしそう!」

「この間ネットの動画で、美味しそうなレシピが紹介されていたから作ってみたの」

「紅茶のミルクはお好みで、ね」


 最近母はお気に入りの料理配信者がいるらしい。

 色々と作ってもらえるので、わたしとしては大歓迎なのだ。


「いい香りー」


 香りを楽しみつつ、熱さでやけどをしないように気をつけながら、ちょっとだけ口に含む。

 そんなわたしの様子を見ながら、母は言った。


「それで、昨日は何があったのかな?」


 ぶふぉ……っっ!!

 熱っ! 痛っ! 苦しっ!!

 母の言葉に咽せたわたしは、一瞬で色々な感覚を味わうことになった。


「けほっ……ごふこふっ……!」

「な……何のこと……?」


 昨日帰宅した時に、母には何か気づかれたと思ってはいたけど……。

 まさかこんなに真っ直ぐ突っ込んでくるとは!

 咽せながら母の表情を伺い見る。


「何のことだろうねー?」


 あ。だめだこれ。

 母はうつむき加減で微かに目を細め、口角を上げてアヒル口になっていた。

 これ母が面白いことを見つけた時の表情だ。

 もちろんわたしの悪いようにはしないんだけど、絶対に話を聞くまで引かないのだ。

 つまり東雲くんとのことを話さなければならない。


 わたしの初めての内緒事は、丸一日保たなかったのであった。




「そっかそっか。相手の子の名前は東雲くんて言うのね。はじめての恋が両思いだなんて素敵だわ!」

「それでその東雲くんはどんな子なの? おかあさんも知りたいなー?」


 昨日のことを話すと、母はとても喜んでくれた。

 相談相手ができるのはわたしとしても助かるから、この際全部話しちゃおうかな?


「かっこいいの?」

「んー……普通、かな。本人的にも特に見た目を気にしてる感じはないかも」


「スポーツ万能とか?」

「本好きで基本インドアだから、運動自体興味ないっぽい。体育でも無難には動くけど、特に活躍したりは見たことないかなぁ」


「本好きってことは勉強が得意なんだ?」

「本が好きって言っても基本オタク系みたいだから、成績も特に良いわけじゃないよ」


「じゃあ、クラスで人気者って感じ?」

「仲の良いオタク仲間は何人かいるみたいだけど、自分から人の輪に入っていく感じでもないかなぁ」


 なぜか質問に答えていくたび、母の眉間の皺が深くなっている気がする。

 さっきまで楽しそうに上がっていた口角も一文字になり、目が点になっているような……。

 質問が落ち着くと、少し冷めて飲みやすくなった紅茶を口に含み、ほんのちょっと考えてから母は言った。


「もうすぐ高校生になるし! すぐに新しい恋も見つかると思うわよ!」

「なんでよ!?」


 両想いになった直後の娘にいう言葉か!


 あー……でもまぁうん、そうか。

 見た目普通で、運動も勉強も可もなく不可もなく、社交性も用経過観察。

 わたしが質問に答えた言葉を思い返すと、東雲くんダメンズにしか聞こえないわ。

 言い方が悪かった、反省。

 改めて東雲くんがどんな男の子か説明し直すと、母も少し安心したようだ。


「びっくりしたわー……」

「娘の好みをどう矯正したらいいのか、本気で悩んだわよ」

「悩んで出た言葉があれなの?」

「ズバッと言った方がいいかと思って」


 色々考える割に結論が極端で妙にポジティブに考えるところは、母に似たのかもしれない。

 母ほどすぱっと行動には移せないんだけど。

 自分が両親の血をきちんと受け継いでいると、改めて納得してしまった。


 説明し直すのに乾いた喉を、すっかり冷めた紅茶で潤す。


「……それとね」

「ん?」

「みんなが周りを気にして言えないことやできないこと、当たり前のことを当たり前にしちゃうの」

「派手な感じはないけど、自分をしっかり持ってて最高にかっこいいんだから」


 入学式の時のことを思い出しながら話し、わたしは最後にもうひとつ付け足した。


「まぁ、パッとしないことには変わりないんだけどね」


 わたしの話に納得したのか、それとも話した時のわたしの表情を目にしたからか、最終的にはすっかり母も安心してくれたみたい。


 おやつタイムを終えると、わたしは母と、明日のことでちょっとだけ打ち合わせ(わるだくみ)

 母と目を合わせ二人でくすくす笑うと、わたしはスマホを手に取り、東雲くんにメッセージを送った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ