告白 side MAKOTO
中学3年生の、地味な男の子とキラキラした女の子。
普段の生活からテリトリーの異なる二人が、気がつけばお互い気になるように……。
告白した。
はっきりと言えた。
九重さんが好きだって。
空はすっかり鈍色に染まり、はらはらと雪が舞い降りてくる。
街灯に照らされ、まぶしいくらいに輝くそれは、真っ白な花びらのように見えた。
ゆっくりと、その数を増やしながら舞い落ちる花びらの中で、九重さんだけ時が止まったように佇んでいる。
彼女が口を開くまでの時間、実際にはほんの数秒だったのか、あるいは数分も経っていたのだろうか。
でもこの時のぼくには、限りなく長く……まるで、一瞬が永遠に、引き延ばされているように感じた。
「わたしも東雲くんが好きです」
九重さんの言葉を聞いた瞬間、体温が一気に跳ね上がる。
緊張で強張っていた体から力が抜け、全身の血が逆流して耳まで真っ赤になっているのが、自分でもはっきりとわかる。
いつの間にか……降りそそぐ真っ白な花びらは、ぼくたちの足元にたくさんの花を咲かせていた。
ぼくが家に着く頃にはすっかり雪は積もり、帰宅してすぐ、母にお風呂に押し込まれた。
バスタブに浸かると、冷えて強張っていた全身にじわじわと熱が広がり、ばらばらとほぐれていく感じがする。
「ぶくぶくぶく……」
ゆっくり口元までお湯の中に沈み、その心地よさに身を任せつつ、ついさっきまで一緒にいた九重さんのことを考える。
告白した後、駅に着くまで、ぼくたちは一言も話さなかった。
ただ駅に着くまでの道行き、手袋を忘れて冷え切ったぼくの手を、九重さんも手袋を外してそっと繋いでくれた。
繋がれた指が幾何学的に重なり合った様は、指先で綴ったレースのようで、触れた部分からは柔らかなぬくもりが伝わってきた。
そういえば、駅に着いて絡めていた指先を解いた瞬間、自分の心の一部を九重さんに預けたままにしたような、不思議な寂しさみたいなものを感じた。
あの感覚ってなんだろう?
……想いを伝えたことで、ぼくはすごく欲張りになったのかもしれない。
お風呂で温まり晩ごはんを食べて、ベッドでごろごろしながら、いつもならまったりする時間。
今日はなんだかぽわぽわとした気分のまま。
大好きな本を開く気分にもならない。
そうならいいなって思ってはいたけど。
もしかしたらって考えてはいたけど。
まさか、本当に両想いとは……!!
今更ながらじわじわと幸せな気持ちが湧き上がってくる。
告白して良かった!
【行動しない後悔より行動して後悔】って、聖典のどれかに書いてあったうろ覚え!
どちらであってもできれば後悔はしたくないけど、告白しないまま卒業していたら、絶対一生後悔した!
と思う!
行動して良かった!
告白して告白されたってことは、ぼくと九重さんは恋人同士ってことにな……。
あれ?
そういえば、付き合ってほしいって言ってないし、言われてもいない。
あれれ?
ぼくたち……まだ恋人とは違うのかな?
翌朝。
起きてリビングに向かうと、いつもならもう出勤しているはずの父が、テレビの前で電話をしていた。
朝ごはんの用意をしてくれている母が言うには、雪で電車が止まってしまい出勤ができず、会社と連絡を取っているらしい。
テレビ画面には、渋谷や新宿駅前に人が大勢集まっている様子が映し出されている。
窓から外を見ると、積もった雪で庭が真っ白に染まっていた。
「慎も電車が止まってるんだから、学校の連絡網をチェックなさい」
そうか!
九重さんのことで頭がいっぱいで、母に言われるまですっかり忘れてた!
慌ててぼくもスマホで学校のSNS連絡網をチェックする。
『【降雪に伴う休校のお知らせ】学生・教職員各位。本日は積雪のため交通機関などに支障が出ております。生徒の安全を最優先に考え、臨時休校とします。部活動など授業外活動についても……』
休校だ。
母にもその旨伝え、パジャマのまま朝ごはんのテーブルに着く。
朝食をとりながら聞いたところ、父も今日はリモート作業になったとのこと。
昔はリモートとかはなかったらしい。
便利になったってことかな。
朝ごはんを食べ終わると、父はさっさと書斎に引っ込んでしまった。
それでも父が家にいることがうれしいのか、母はちょっと機嫌がいい。
早速書斎にコーヒーとお茶菓子を持って行った。
うちの両親は自他共に認めるラブラブ夫婦なのだ。
さすがにzoomo会議とかでいちゃいちゃはしないよね……?
ぼくも、冷蔵庫に入れておいた海外の謎に青色の炭酸飲料を持って、早々に自分の部屋に戻ることにした。
部屋にいる時の定位置である机に向かうと、読み途中の本を手に取り、青い炭酸飲料を一口飲んでみる。
これ何味なんだろう?
よくわからない変な味だ。
買って正解。
変味の飲み物に満足しつつ、手に取った本を読みはじめる。
昨日までのぼくにとって、最高の休日ルーティンだ。
しかし今日は集中することができなかった。
そりゃそうだよね。
昨日までのぼくとは違うのだから!
やはりどうしても昨日の九重さんとのことを考えてしまう。
休校になったことで、今日は九重さんと会えないことが確定してしまった。
昨日までは姿を見るだけでもうれしくて、会話ができたら超ラッキーって思ってたのに、両想いになったら、1日会えないだけでこんなにしょんぼりしちゃうのか。
やっぱり欲張りになってるなぁ。
本を机の所定の位置に戻し、なんとなくスマホを手に取る。
九重さんの連絡先……まだ聞いてなかったな。
いやでも昨日は告白だけでいっぱいいっぱいだったし!
告白はクリアしたから及第点は取れ……って恋愛は及第点じゃだめだよね。
一番じゃないと。
詰めが甘い。
甘すぎる。
ぽよん。
色々足りてなかったところを反省していると、誰かからメッセージが届く音がした。
ぽよん、ぽよん。
ん?
連続できてるな。
誰だろう?
《こんにちは》
《東雲くん? 九重です》
《いきなりメッセージしてごめんね》
九重さんだ!
あれ?
でもまだ連絡先交換はしてなかったはず……。
《東雲です。九重さん?》
《連絡先教えてたっけ?》
とりあえず、本当に九重さんか確認してみる。
ぽよん。
ぽよん、ぽよん。
《この間先生の手伝いをした時に、東雲くんの連絡先も教えてもらってたの》
《先生が連絡できない時用にって》
《もしかして知らなかった?》
そういえば、先生から聞かれた気がする。
すっかり忘れてた。
《すっかり忘れてた。うん、聞いてたよ》
《びっくりしたけど》
ぽよん、ぽよん。
《今日休校になっちゃったでしょ》
《話したいって思ったから、私用で使っちゃった》
今日は話せないって思ってたから、うれしいかも……っと。
いや、違う。
《今日は話せないって思ってたから、うれしいよ》
これでよし。
かもじゃないもんね。
照れてないで、ちゃんと伝えるのが大切。
ぽよん、ぽよん。
《えへへ》
《(⸝⸝⸝´꒳`⸝⸝⸝)》
照れ笑いがスタンプと合わせて送られてきた。
可愛い!
可愛すぎるでしょ!
もーーーー!!
ぽよん、ぽよん。
《さっき天気予報で明日は晴れるって言ってたよ》
《明日は会えるね》
《そっか》
《早く明日にならないかなぁ》
まさか九重さんと、こんな会話をする時がくるとは。
幸せすぎて怖い。
これもう完全に付き合ってる会話では!?
ぽよん。
《明日……一緒にお昼ごはん食べませんか?》
ふが!?
教室でってこと!?
い、いいのかな!?
もちろんうれしいから、ぼく的にはOKに決まってるんだけど!
《うん! もちろんOK!》
《あ、でも。九重さん大丈夫?》
九重さんは、いつもお昼休みは誰かの相談に乗っているんだった。
また先生から用事を頼まれるのなら、それは手伝おうと思う。
ぽよん、ぽよん。
《いい場所があるんだー》
《楽しみにしててね!》
いい場所?
ってことは、教室以外ってことだよね。
楽しみにって……もうドキドキしてきてるよ!
ぼくの人生で、これほど明日という日が楽しみだったことはない。




