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マットなぼくとPPな彼女  作者: kats(仮)


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男の子女の子 side IKU

中学3年生の、地味な男の子とキラキラした女の子。

普段の生活からテリトリーの異なる二人が、気がつけばお互い気になるように……。

 誘ってしまった……!

 放課後東雲(しののめ)くんと一緒に帰ることになっちゃった!!


 え。

 なにこれ、現実?

 今朝までは御厨(みくりや)さんとすっかり仲良くなってるって思ってたのに。

 でも謝ってくれた。

 はっきり違うって言ってくれた。

 それどころか、一緒に帰りたいのはわたしとだけって……。


 嬉しい!

 嬉しい嬉しい嬉しい!!


 それに二人ではじめての約束。

 東雲くん、ちゃんと聞こえたよね?


 何を話そうかな。

 一週間以上話せなくて、話したいことはいっぱいあったはずなのに、嬉しすぎて全部どこかに飛んでっちゃった。


 早く放課後にならないかなぁ……。




 今日何度目かのチャイムが鳴る。

 そして鳴り終わる前に、わたしの席の前に誰かしら相談に現れる。

 いつもと同じ、その繰り返し。


 あーもーーーーーーーー!!

 放課後約束してあるとは言っても、もっと東雲くんとお話ししたいのに!!

 毎日毎日、みんな何にそんなに困ってるのよぅ!!

 わたし以外にも相談すればいいじゃない!!


「おぅ、九重(ここのえ)。すまんが、今日も放課後少し手伝ってくれ」


 心の中で密かに嘆いていると、担任の二階堂(にかいどう)先生まで現れた。

 これもいつもと同じ。

 いつもと同じなんだけどーーーー。


「わかりました。放課後職員室(きのうのつづき)ですね?」

「助かる! いつも本当にすまんな」


 わたしもついわかりましたって言っちゃうのよねーーーー……。

 正直推薦も決まった今、断っちゃっても何も問題はないんだけど、これがいつものわたし。

 東雲くんと御厨さんと一緒のお手伝い以降、おやつが支給されるようになったことが数少ない変化と言えるかもしれない。


 ちらっと東雲くんの方に目を向けると、彼もこちらを見ていて、ほんのちょっと肩をすくめて見せた。

 いやん、かっこいい。

 最近話をするようになって、意外とお茶目で可愛い面も多いことに気がついたけど、元々はそんなそっけないところが、クールでかっこいいって思ってたのよね。


 ……かっこいい上に可愛いなんて最強じゃない?




 放課後になりクラスメートの相談が終わると、急いで教務室に向かう。

 東雲くんは手伝ってくれるって言ってくれたけど、残念ながら今日の用事は一人で事足りる内容だったので、断腸の思いでお断りした。


 3年生は年間行事がほぼ終わっているから、学級委員の仕事はもうほとんどない。

 ちょっとした雑用と、下級生のための引き継ぎ用の資料作りくらいね。

 昨日からの作業はどちらかと言えば雑用で、ホームルーム用のプリントの作成だった。

 それも昨日中にほぼ終わらせておいたので、残りはほんの少し。

 ささっと終わらせて、いちゃラブ下校するわよ!

 すぐ戻るからね!

 東雲くん!




「……失礼します」


 ところが、教務室を出た時、壁の時計は16時30分をまわっていた。

 まさかの1時間以上経過!

 ささっと終わらせる予定が、追加作業が発生してすっかり遅くなっちゃった。

 廊下に差し込む光もすっかり傾き、窓から見える冬特有の透き通った空は、黄金色から茜色に変わろうとしていた。

 もう校舎内にはほとんど人もいないし…いいや、走っちゃえ!


 教室の前に着くと、すぐにでもドアを開けたい気持ちを抑えて、ちょっとだけ息を整える。

 走って来たことで激しくなった動悸が、別の理由に変わっていく。

 理由ひとつでこんなに心地よいものになるんだ。

 これが恋……なのかな。

 だとしたら、恋って素敵だな。


 わたしは今、恋をしてるんだ。




 心地よいドキドキに変わりきったところで、わたしは勢いよくドアを開ける。


「待たせてごめんなさい!」


 まずは待っていてくれた東雲くんに頭を下げる。

 きっと彼は気にしないように言ってくるだろう。

 そして……。


「九重さん、おつかれさま。そんなに急がなくてもよかったのに」

「だってすごく待たせちゃったし……」

「でも……」


「待っててくれてありがとう」

「急いでくれてありがとう」


 わたしたちは同時にお礼を言った。




 外に出る頃には、空はすっかり雲に覆われていた。

 通学路に等間隔で設置された、街灯の淡い光が、わたしたちの息を真っ白に浮かび上がらせている。

 吐息で両手を温めていた東雲くんが、空を見上げて言った。


「寒ー……天気予報、当たりそうだね」

「ほんと、今にも雪が降ってきそう」


 わたしも空を見上げて答える。

 見上げた時にできたマフラーの隙間を、冷たい空気が通り頬を撫でると、今朝のことを思い出した。


「そういえば今朝ね、この通学路沿いの花壇に、霜柱が降りてたんだよ」

「霜柱かぁ……小さい頃はよく見たけど、最近は全然気にしてもなかったな。これだけ冷え込んでるなら、もしかしたらまだあるかも」


 東雲くんの言葉に、まだ残ってるかなと思い花壇を覗き込むと、彼も隣で覗き込んで探し始めた。


「あ、まだあるよ! ほら! 九重さん!」


 東雲くんの嬉しそうな声に振り向くと、思っていたよりずっと近くに彼の顔があった。

 胸がドキドキする。

 さっき教室で感じたよりも、もっともっと心地よいドキドキ。


「わたしね、子供の頃は霜柱を見つけるとよく踏んでたんだ。ざくざくって感触と音が気持ち良くて……今朝見つけた時は、同じように東雲くんも踏んだりしてたのかなーって考えてた」

「ぼくのこと?」


 わたしの言葉にちょっと驚いたように、東雲くんが聞き返してきた。

 でも表情は……驚いたのと同じくらい嬉しそうに見える。

 あれ?

 なんだか想いが溢れてきちゃう。


「最近ね……気がつくと考えちゃってる男の子がいるの」

「入学式の時に気になった男の子」


 わたしは溢れる想いに導かれるまま話し続ける。


「気にはなっていたけど、その男の子はいつも一人で本を読んでいて、なかなか話すきっかけもなくてね」

「いつの間にか三年生になっちゃってた」


 東雲くんは微動だにしない。


「ちょっと前にその男の子と学級委員の仕事を一緒にすることになってね」

「なぜか二人きりでごはんを食べることにもなって」


 何も言わずにわたしの話を聞いている。


「その後また一緒に先生の用事をすることになってね」

「その時会った別の女の子に嫉妬したりして」


 嫉妬したことまで言っちゃった。

 もう絶対わかってるよね。

 わたしの気持ち。


 伝えるんだ。

 今、ここで。


 意を決して東雲くんの目を見つめる。


「ぼくも……入学式の時から気になってる女の子がいたんだ」

「え?」


 わたしが告白しようと、口を開こうとした瞬間、彼の方が口を開いた。


「その女の子はとても可愛くて、勉強もスポーツも得意なクラスの人気者で」


 ……!


「しっかりしてるから、もちろん先生たち大人からの覚えもよくて」

「なんでもうまくこなしちゃう……ぼくに無いものを全部持っている」


 え……これってもしかして?

 自意識過剰だったらはずかしいんですけど……でも!?


「手の届かない存在」


 あれ!?

 え? え!?


 そんな風に思ってたの?

 こんなに近くにいるよ?

 こんなに近づいてるよ?


 ……迷惑だった?






「……そう思ってた」


 ……!


「でも最近、その女の子と少しずつ話をするようになって、気がついたんだ」

「心の中で考えていることや感じてることは結構……同じなのかなって」


 ……。


「もちろんぼくは見た目も普通くらいだし」

「人と関わるのが苦手で、クラスメートからも先生からも特にウケがいいわけじゃないし」

「端から見たら全然同じじゃないんだけどね」


 ……ばか。


「……その男の子は自分のいいところに気がついてないのね」

「周りに気を使わなくたって、自分が自分でいられる強い人なんだって」

「落ち着いた雰囲気とは裏腹に、心の中では大慌てな可愛いところがあることにも、ね」


 これだけ言えばわかるでしょ。

 早く言え。

 へたれ。

 おたんこなす。


 わたしが心の中で悪態をついていると、東雲くんは大きく息を吸い込み、ゆっくり息をつくように小さな声で、でもはっきりと言ってくれた。


「九重さんが好きです」




 わたしもじゃー!!

 一生後悔させないんだからね!

 こんにゃろめ!

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