思いと想い side MAKOTO
中学3年生の、地味な男の子とキラキラした女の子。
普段の生活からテリトリーの異なる二人が、気がつけばお互い気になるように……。
生徒会長の告白、そして御厨さんの告白から一週間が経った。
あれから九重さんとは、一言も話をしていない。
元々生息域が異なるぼくたちである。
担任や御厨さんといった、外的要因の後押しがなければ、接点が生まれないのだ。
それをなんとかしようともがいているわけだが。
「あれ? まだ気持ちを伝えられてないの?」
そう御厨さんは宣った。
彼女はすでに生徒会長に告白をしサクセス。
何もできずに過ごしているぼくの心を、清々しいほどに笑顔のナイフで切り裂いた。
ていうかそっちが展開早すぎじゃない?
昼休みの学食。
昨日から母が実家の手伝いで帰省しているため、今日はお弁当がない。
代わりに父から昼食代をもらい、学食でパンを買おうと並んでいると、飲み物を買いに来た御厨さんと遭遇した。
そこで先ほどのセリフである。
「この間ぼくに言ったことを、そのまま九重さんに言えばいいのに」
「ふが……っ!」
そんなことはわかっている。
一週間前のあの日、ぼくもそのつもりだったのだ。
でもタイミングってあるじゃない?
一度言いそびれると、なかなか言えなかったりするのよ。
御厨さんだって元こっち側なんだからわかるでしょ?
ぼくが脳内でぐじぐじと言い訳をしていると、御厨さんは言った。
「でもまぁ……ぼくがちょっと意地悪しちゃったせいでもあるか」
ほんそれ!
……って思いたいけど、実際はぼく自身の失言が原因なのはわかってる。
九重さんの気持ちが知りたいなら、ぼくが男らしく告白すればいいだけなのだ。
その結果がどちらに転んでもいいのなら。
「いや、御厨さんのせいなんかじゃないよ。ぼくがはっきりしないからいけないんだから」
「ふふ。東雲くんのそういうところ、ぼく好きだよ」
「え」
ぼくの返事を聞いて、優しい笑顔を浮かべる御厨さん。
「他人の態度ってわかりやすいもんね?」
「ぼくから見た君たちって、特別わかりやすい気がするけどね」
そう言いぼくの肩を軽く叩くと、御厨さんは学食から出ていく。
出入り口のところで生徒会長が待っているのが、ちらっと見えた気がした。
……いいなぁ。
結局ぼくは、今日も九重さんと話すことはできなかった。
その日の夕食はめっちゃ豪華だった。
実家から帰ってきた母が、父のために父の好物を全て、食卓に並べたのだ。
もちろんお互いにあーんし合いながら食べている。
子供の前だというのに、ほんの1日家を空けただけでこれだ。
小さい頃からずっとこうなのでさすがに慣れてしまったが、世間一般的には、二人の熱々ぶりは常軌を逸していると言っても過言ではないだろう。
でもぼくはそんな二人に憧れているし、こ……九重さんと、両親のようなイチャラブな関係になりたいと思っている。
一度両親の馴れ初めを聞かされたことがあったが、あまりにも気まずいので最後まで聞かずに逃げ出したんだった。
聞いておけば良かったかな……などとぼーっと考えていると、いつの間にか二人は寝室に引っ込んでいた。
ですよね。どう考えてもぼくはお邪魔虫だもんね。
一人残されたぼくは黙々と食事を終え、残り物はラップをして冷蔵庫にしまい、洗い物を済ます。
両親が寝室で何をしているかは考えないでおこう……。
翌朝。
かなり冷え込みがきつかったので、今年の冬初めてマフラーを出した。
凛とした冷たい空気の中で吐く息は真っ白で、綿菓子みたいだ。
そういえば天気予報では、今夜から雪が降るかもしれないって言ってたっけ。
手袋も持ってくれば良かったかな。
今朝はいつもより少し早めに家を出た。
クラス委員の九重さんは、朝早くから来ていることが多いから。
つまり九重さんに話しかけるために。
よく考えると、今まで九重さんから話しかけてもらってばかりだった気がする。
もっとぼくから話かけるようにしないとだめだ。
まずは挨拶だけでもいい。
とにかく話しかけないと何もはじまらないんだから。
教室につくとやっぱり九重さんが一番に来ていた。
空気を入れ替えるために一つずつ窓を開けていく九重さんの姿を、冬の透き通った柔らかい朝日が包み込み、いつも以上に眩しく見える気がする。
「おはよー、九重さん」
ぼくが声をかけると、少しびっくりした様子で九重さんは振り向いた。
「東雲くん……おはよう」
……挨拶は返してくれたけど、どことなくぎこちなさを感じる。
でも久しぶりに二人きりになったこのチャンスは、絶対に無駄にはできない!
とにかくこの間の誤解を解かないと!!
「この間はごめん!」
「あの時はその、言葉のあやというか、別に御厨さんと一緒に帰りたいとかじゃなくて、すごく大切な話をしている最中だったから、一旦とにかく御厨さんに出て行ってもらおうと必死で……」
早口になった。
これはもう引きこもり陰キャの特性としてお許しいただきたい。
「あの時はわたしもその……感情的になっちゃって、言葉の揚げ足を取るような意地悪なこと言っちゃったの」
「わたしの方こそごめんなさい」
良かったーーーー!
やっぱりちゃんとお話するのって大切!
こんなすれ違いでまた遠い存在になったら悔やむに悔やみきれないもん!
はぁぁぁぁ……一気に力が抜けたぁ……。
「ぼくが一緒に帰りたいのは九重さんだけだから……」
「え」
「あ」
おーまいごーーっしゅ!!
力だけじゃなくて気も抜けちゃった!!
とにかく素直に、御厨さんのことはなんとも思ってないと伝えようとしたら、九重さんに対する想いがフライングした!!
ぽろっと!
一瞬、いや数瞬、世界が止まる。
もちろん本当に止まったわけではない。
廊下からクラスメートたちの足音と話し声が近づいてきた。
九重さんとの時間の終わりを告げる喧騒だ。
またいいタイミングで邪魔が……。
そう思った時、教室にクラスメートたちが入ってきた。
やむを得ず、ぼくと九重さんも自分の席に向かって歩き出す。
いつもの距離感に戻ろうと、お互いがすれ違う瞬間。
「……それじゃ放課後、ね」
ぼくにだけ聞こえる声で、彼女は確かにそう言った。




