ちぐはぐこくはく② side MAKOTO
中学3年生の、地味な男の子とキラキラした女の子。
普段の生活からテリトリーの異なる二人が、気がつけばお互い気になるように……。
※ 保険の為R15設定にしてあります。
「わたしね ━━━ 告白されちゃった」
確かに九重さんの口からはそう聞こえた。
『告白されちゃった』……と。
こくはく【告白】《名・ス他》
①かくしていた心の中を、打ち明けること。また、その言葉。
②自己の信仰を公にすること。また自己の罪を神の前で打ち明け、罪の許しを求めること。
大丈夫!
意味はわかってる!
この場合②は無い!
いや、ワンチャンあるか!?
九重さんは女神みたいなもんだし!?
入学式の時のことを懺悔してたし!?
そもそもなぜぼくに教えたの!?
これは……試されているのでは?
でも何を……?
彼氏でもない。
お互いに告白したわけでもない。
つい数日前からやっと普通に話をするようになったばかり。
ぼくの恋愛の法則に基づくと、大体以下の選択肢が思いつく。
①純粋に相談、アドバイスを求められている。
②自分の気持ちを整理するための聞き役。
③特定の相手の反応を見ている。
①は無さそうかな……女の子は答えより共感を求めるという伝承を読んだ記憶がある。
②はありそう。
すっげーありそう。
何の感情も抱いていない相手って聞き役にすごく使えそう。
③であれ!
③であってくれ!!
そんなことをぼくの脳内シナプスが伝達している間も、彼女は真剣な表情でぼくの目をまっすぐ見つめている。
照れる。
だが今は照れている場合では無い。
「あの……だ、誰に?」
「あ、いや! 話の流れ的に生徒会長にだよね!」
自分の質問に自分で答えるぼく。
だめだ、脳が沸騰して泡立ち、考えがまとまらない。
実際のところ、脳は41度を超えるとタンパク質が変容し始め、42度を超えると脳に不可逆的な損傷が起こるらしい。
つまり考えがまとまらないのは、本当に脳が沸騰しているわけではなく、あくまで比喩表現で……。
いやいや、何を考えているんだぼくは。
とにかく気になっていることを素直に聞くんだ。
「な……なんて返事をしたの?」
って、返事が気になるって……これもう告白していると同義では!?
「気になる?」
彼女がぼくの心を見透かすように、問うてきた!
しかしぼくももう引くわけにはいかないのだ!
「き、気になる!」
「それに昨日のことも……!!」
よし!
よく言ったぞ、ぼく!!
「え!? 昨日のこと……!?」
ん?
あれ?
九重さんの覇気が薄まった……?
「ま、まずその……告白はちゃあんと断りました!」
「あ……そ、そうなんだ」
ちょっと早口気味に、九重さんは結果を教えてくれた。
そうか。
断ったんだ。
ほっとするぼく。
二人の間に一瞬の沈黙。
ん?
ちゃんと?
『ちゃんと』ってどういうことなのかと聞こうとした時、九重さんの口から次の言葉が紡がれた。
「それと、昨日のことって……駅前でのこと……だよね?」
「あ、はい! そうです……!!」
なんで突然抱きついてきたのか。
いや、そもそもあれはハグだったのか?
もう直接聞かないと、ぼくの経験では処理しきれない。
「あれはその……」
九重さんがアンサーを口にしようとした時、教室のドアが開き、御厨さんが入ってきた。
そうだった。
こっちもありました。
「あ、いたいた」
彼女はぼくたちを見つけると、つかつかと歩いてきてぼくの隣の席に座り、ぼくと九重さんの顔を交互に見て、嬉し恥ずかしいことを言ってきた。
「ふーん……今日も二人っきりでいるんだね」
「もしかして、お弁当もいつも一緒に食べてるの?」
九重さんの手元のお弁当箱に目をやり聞いてくる。
「こ、これは、お昼休みにお弁当を食べる暇がなかったから……」
九重さんがここでお弁当を食べていた理由を話すと。
「でも今も東雲くんの席に来て食べてたんだよね?」
鋭いツッコミ。
気になることは聞いちゃう。
御厨さんのはっきりきっぱりしているところが、ちょっとうらやましい。
「そ、それよりも何か用?」
しかし今はとても大事な話の最中、できれば席をはずしてほしいのだ。
自然と問う口調も強くなってしまう。
ぼくは御厨さんに何の用事なのかを促す。
「せっかく東雲くんと再会できたからさ。一緒に帰りたいなって思って誘いにきたんだ」
「「え!?」」
ぼくが驚いて声を上げたら、同じタイミングで九重さんも声を上げる。
「……この間も二人同時に驚いてたよね。息ぴったり。やっぱり二人は付き合ってるの?」
鋭いツッコミ。
気になることは聞いちゃう。
御厨さんのはっきりさっぱりしているところが、ちょっと鬱陶しい。
でも今日のぼくは一味違う。
「今ちょっと大切な話をしてたんです! 一緒に帰るのはまたの日にしてください!」
九重さんは告白を『ちゃんと』断ったって。
ならぼくだって『ちゃんと』断るのだ。
「あ、え!? ちょっとちょっと……!」
「とにかく今日はだめです!」
まだ何か言いたそうにしている御厨さんが本当に口を開く前に、半ば強引に教室の入り口まで見送り、ドアを閉める。
そして席に戻ると、九重さんが言った。
「今日じゃなかったら一緒に帰るんだ?」
ああん。
ぼくのばか。
━━━ 結局、あの後九重さんから話の続きを聞くことはできなかった。
不機嫌になった彼女は、自宅から電話で呼ばれたこともあり、すぐに帰ってしまったのだ。
大事な話の時に限って、タイミング悪くイベントが発生する……そんな変なところだけ、ラノベの主人公と同じ属性持ちな気がしてくる。
『ちゃんと』断れてなかったことを反省し、少し時間をおいてから教室を出ると、もう空は瑠璃色に染まり、空気も氷のように冷たくなっていた。
冷たい空気が程よく頭を冷やしてくれる。
クールダウンした頭で今後の対策を考えつつ、すっかり人気の無くなった校舎を出て校門をくぐると、校門の影から御厨さんが現れた。
「東雲くん、遅い!!」
なぜか開口一番怒られる。
お叱りの言葉を紡いだ御厨さんの唇が、ちょっと青ざめている気がする。
「もしかして……ずっと外で待ってたの?」
「追い出された後下駄箱で靴を履き替えてたら、九重さんが一人出てきたからさ。東雲くんもすぐ来るかなって思ったのに……」
「なのに全然出てこないんだもん!」
「ご、ごめん」
ってあれ?
つい謝っちゃったけど、これってぼくが悪いの?
でもこんな寒い中、わざわざぼくを待っててくれたんだ……はっ!
これは鈍いぼくでもさすがにピンと来たぞ!
今度こそ『ちゃんと』しなければ!
「御厨さん! ぼくが好きなのは九重さんなんだ!」
言ったーーーー!!
まさかぼくが女の子を振る立場になることがあるなんて!!
しかもこんなに可愛い子に!!
「知ってるよ?」
「だからごめ……ん?」
「なんで謝るのさ?」
「えぇーーーーーーーーっ!?」
「だって……ねぇ? あれ? ぼくのことが気になって……んー?」
やっぱりぼくは鈍かった!
何もピンと来てませんでした!
「あ。昨日ぼくが言ったことで勘違いさせちゃった?」
「『あれからずっと、東雲くんのことが気になってたんだけど』って」
「『じゃあ、ぼくのことはどう思う?』って」
「あ……はい」
まさにそこ。
いやん。
ぼくってば、センチメンタルサーカスのピエロ状態。
「ふふ。気になって『た』だよ。過去形」
「あ……」
「今気になってる人は別」
現在形がいることを告げて淡く頬を染める御厨さんの表情に、ぼくの心臓は大きくひとつ、跳ね上がった気がした。
「……でしたか」
「でもあんなにはっきり断られると結構ショックだよね。可愛いって言ってくれたのにー」
ちょっとだけ残念に感じている自分がいる。
ぼくだって好きな人は別にいるのに、なんて自分勝手なんだ。
御厨さんも可愛く唇を尖らせながら非難してくるが、本気でショックとは思っていないんだろう。
どう見ても目がいたずらっぽく笑っている。
こんなに素敵な女の子が、過去形とはいえぼくに好意を持ってくれていたなんて、いまだに全く信じられない。
「じゃあこの間は、その、なんでぼくに気があるようなそぶりをしたの?」
「なんでかな……」
「まだちょっと……東雲くんのことが好きだったのかも」
「え」
尖らせた唇に指をあて、片目をつぶって見せると、また動揺するようなことを言う彼女。
「再会できたことでテンションが上がっちゃって」
「でも再会した好きだった人は他に好きな人ができてて」
「しかも明らかにぼくのこと『お邪魔虫』って雰囲気をガンガンに出しててさ」
「ゔ……」
めっさ心を読まれてた。
「だからちょっとだけ、意地悪したくなっちゃったのかな」
……ちょっとだけ?
女の子って怖い。
「ごめんね?」
「いやもうぼくの方こそごめんなさいほんともう勘弁してください」
「ふふ。九重さんにも謝らなきゃね」
「あれ? でもそれなら今日は何でこんな時間まで待ってたの?」
告白されるって勘違いを除くと、一体何の話なのか、ぼくには全く想像がつかなかった。
だって昨日まで思い出しもせず、名前も知らなかったくらいなのだから。
「うん、その前に……ごめん、寒いからちょっとどこか入ろ。へへ」
御厨さんはすっかり体が冷え切っていたんだろう。
両腕を抱え、少し震えながらそう言うので、ぼくたちは場所を変えることにした。
「ふぅーー……」
温かいミルクティーを飲んで、体の緊張がほぐれたのか、小さく吐息をもらす御厨さん。
表情も緩み、頬に本来の赤みも戻ってきた。
こうして改めて見ると、やっぱり御厨さんも美少女だ。
はじめて会った時と全然印象が違う……女の子って本当にすごい変わるんだな。
あの後ぼくたちは、帰宅時間で人の少ない、駅前のコンビニのイートインに入った。
「最初は本当に、ただ一緒に帰りながら、少し東雲くんと話をしたいなって思ってたんだけどね」
「う?」
ちょうどカフェラテを飲み込もうとしていたぼくは、返事をしようとして変な声が出てしまう。
噎せないように、落ち着いて飲み込んで……と。
「九重さん……今日、生徒会長と会ってたでしょ?」
「げほんげほん……!!」
結局噎せてしまった。
なぜ聞きたいのかはわからないが、これはとてもプライベートな問題だ。
絶対話しちゃダメなやつ!
「ちょっと……ぼくにはわからないかな」
何でそんなことが気になるんだろう?
御厨さんには関係無いと思うけど。
「でも東雲くん、さっき教室で『大切な話』をしてるって言ってたでしょ。九重さんもお昼休みにお弁当を食べれなかったって言ってたし、生徒会長もお昼休みにいなくなってたから……」
「タイミング的にも同じ話っぽいでしょ?」
色々と鋭い。
鋭すぎる。
「もしぼくが知っていたとしても、御厨さんには関係無い話じゃないの?」
「関係ある!」
「……あるの」
何か言いたいけど躊躇っているような間。
「だって……ぼく、佐伯くんのことが好きなんだ!」
御厨さんの口から、とんでもない話が飛び出した。
今気になっている人って……生徒会長だったのか!
最初の出会いはあんなだったのに、一体あれから何があったのか。
そしてぼくってばどれだけ鈍感なのもー。
「……」
黙ったまま、真っ赤な顔でこちらをじっと見ている御厨さん。
「えっと、生徒会長に直接聞くのはだめなの?」
「……聞いたらぼくの気持ちがばれちゃうでしょ」
あ。まだ告白はしてないのね。
これだけはっきりきっぱりさっぱりな御厨さんでも、自分の気持ちを伝えるのは難しいんだな。
やっぱり、告白するってすごく……怖いよね。
勇気がいる。
ちょっと共感する。
「でもやっぱり、ぼくから教えられることはないよ。プライベートな問題だから」
「うー……そうだよね」
「御厨さん、今、顔真っ赤だけど……それだけ顔に出やすいと、もう会長にもばれてるんじゃない?」
「え。そんなに顔に出てる!?」
「自分の表情は自分ではわからないもんね」
「さすがにそこまでわかりやすければ、誰でも気づくと思う」
これだけ鈍ちんなぼくにもわかるんだもの。
他人の態度ってわかりやすい。
すると彼女はぼそっと言った。
「……あんたが言うか」
「え」
……あ!
ぼくも九重さんにバレバレかもしれないってこと!?
さすが御厨さん、ぼそっという言葉も、はっきりきっぱりしている。
だとしたらどうしよう…バレバレなのにぼくがはっきりしないから、九重さん怒ったのかも?
「ん。でもそうだね……よし!」
「佐伯くんに直接聞くことにする!」
「え」
ぼくが御厨さんのこと言えない状況だと考え、悩みはじめた瞬間、御厨さんの方はズバッと決断していた。
「だってもう卒業まで時間もないし、今度は後悔したくないから」
今度は……?
「東雲くんもがんばって!」
そう言うと、御厨さんはコンビニから勢いよく出ていった。
今度はって……ぼくのこと……だよね多分。
がんばってって……九重さんのこと……だよねきっと。
うん。
ぼくもがんばらなきゃ。




