106話 反撃
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エカテリーナはフッと髪がなびいた気がした。
気のせいかと思ったその時に鼻の先をふわりと湿った空気がかすめた。
「敵の魔導突き止めましたわっ!!」
「おお、それは上々だ」
「でもこれは‥‥攻撃魔導ですわ!!敵が何か仕掛けてくる気ですわ!!」
「いかん、二人共付いてまいれ!!」
義清は二人を従えて部屋を出ると指示を飛ばした。
「魔導衆を集めよ。ベアトリス、お主はエカテリーナの魔量を補助せよ。エカテリーナ、城の防殻に集中せよ。反撃はその後でよい」
3人が建物の外に出るとスケルトンが数人ボロボロのローブを着て杖を持って立っていた。
大主教が連れてきた軍勢の中から魔力持ちを集めて作った、急造の魔導衆だ。
訓練が行き届いていないためエカテリーナの補助か、エカテリーナを真似た劣化魔導を発動させるのが関の山だがいないよりはずっといい。
「まもなく来ますわ!!大きいのが4つ、小さい攻撃がいくつも!!」
「魔導衆はエカテリーナに同調急げっ!!城郭の防殻保護を最優先。敵の攻撃魔導着弾後反撃するぞ。敵の位置探知魔導の妨害もわすれるな!!」
義清の指示が終わらない内に遠征軍からの攻撃が始まった。
遠征軍はゼノビア指揮の馬出しからの攻撃で寄せ手の足が止まったため、魔道士に攻撃させて勢いを取り戻し再突撃を行うようだ。ここで城方が敵の攻撃で大損害を被ると立て直せなくなり、馬出しが陥落すれば次は城に攻撃が始まってしまう。
「敵魔道きますわ!!」
遠征軍の後方待機中の3つの予備部隊からゆっくりと大きな青白い火球が3つ上がった。やがてそれは放物線を描いて馬出しへと落下していくだろう。それに続いて無数の小さな火球が上がりそれに従う。
遠征軍本陣からもやや遅れて巨大な火球が5つ、小さな火球が無数に上がった。
馬出しからの射撃が弱まる。
ゼノビアが被害を抑えるために人員に退避命じたのだろう。いまや馬出しからの攻撃は城壁の間に設けられた櫓からしか行われていない。
寄せ手も勢いを取り戻し始め前進を再開しつつある。
遠征軍から上がった火球は放物線の頂点に達すると、凄まじい速度で城に向かって降り注ぎ始めた。
「くるぞ、防殻を巨大火球に集中しろ!!」
義清の言葉にエカテリーナは巨大火球の着弾点に合わせて防殻を厚くする。恐らく全ての巨大火球を防げはしないが被害を抑えるにはこれしかない。
やがて轟々と音を立てて巨大火球が城の防御魔導である防殻へと直撃した。
巨大火球が当たったことで城を覆っていた半円状の防殻があらわになる。
遠征軍は火球の全弾を馬出しへ投入した。
そのため城の防殻とは別に施導された馬出し独自の防殻に攻撃の圧力がかかる。
巨大火球の直撃に馬出しの防殻が発動して空間が揺らめく。
(いったいどれくらい防げるかしら、攻撃の直前まで魔導を抑える技術にどれほど耐えきれるか‥‥)
エカテリーナは防殻と反応して一進一退を繰り返しながら、激しく火花を散らす巨大火球を見つめながら不安になり、思わず両手で握る杖に力を込める。
(いけない、集中しないと。防殻が破られそうな箇所を急いで見つけて補強しないと)
しかし、エカテリーナの予想は裏切られる。
巨大火球は防殻での一進一退を繰り返しながらいっこうに進む気配がない。
そのうち遅れて落下してきた無数の小さな火球が防殻に命中する。
巨大火球で揺らめいた空間が小さな火球の直撃でさらに揺らめく。まるで汚いオーロラのようだ。
だが小さな火球は巨大火球程持ち堪えられなかった。
小さな火球は防殻に到達してまもなく、弾け散って砕けてしまった。
やがて最後まで持ちこたえていた巨大火球も小さな火球を追うように弾け飛んだ。
馬出しの上空はしばらく空間が揺らめいていたが、やがて何事もなかったかのように静かになった。
「何が起こった!?防殻に敵の火球が浸透したのか?」
義清は起こった事が理解できず、振り向きながらエカテリーナに聞いた。
「いえ、防殻に敵の魔導が入った気配はありませんわ」
「では、敵の魔導を全て防ぎきったというのか!!馬鹿な‥‥」
「私も驚いていますが、それしか考えられないかと」
エカテリーナも半信半疑で答える。
事実エカテリーナも信じられなかった。普段なら敵の魔導が防殻を突破する寸前に、突破箇所の防殻を厚くしてそれを防ぐ。そして厚くすることに集中するからこそ細かいところまで気が回らなくなり、小さな攻撃のいくつかに防殻を突破されてしまうのだ。
そうさせるために敵は巨大火球で先に落下させ、後から小さな火球を放ったのではないのか。
エカテリーナはあれこれと頭の中で考えを巡らせていた。そのせいで最も初歩的な事を見落としていることに気づいた。
「敵魔道士探知出来ましたわ!!一部が攻撃準備中ですわ!!」
「まことかっ!!」
義清は喜びの声を上げた。
「反撃いたしますか?ここまであからさまに位置がわかるのは何かの罠かも‥‥」
「今は直感を信じよう。詠唱急げ!!」
エカテリーナが杖を構えると後ろに控える魔導衆もこれに従う。
やがて魔導衆から紫色の細い線がエカテリーナへと伸びる。その線は段々と太くなっていく。魔導衆がエカテリーナへと送る魔量が増えている証だ。
義清はベアトリスの方へと向き直る。
「ベアトリス、エカテリーナが探知に集中できるよう、攻撃魔導の下準備だ」
「まかてくださいっ!!」
「必要ありませんわ!!敵の妨害もありませんからワタクシは攻撃魔導に集中しますわ。ベアトリス、あなたは探知をお願い」
「どんとこいです!!」
やがてエカテリーナの詠唱が始まる。
「紫の城、百門里々まで降る」
詠唱が始まるとエカテリーナの上に紫色の人魂のような炎が揺らめき始めた。
「 凜香を焚べて識るべを仰ぎ
苦対を望むは楽番の終わり」
詠唱が終わりに近づくに連れてそれはどんどん大きくなり、終わる直前にはちょっとした建物程の大きさになる。
「地より命じて哀れを売り、辿り着くは寒く赤らぐ場 憑途の七〇と二 四壇苦」
詠唱が終わると弾かれたように炎は上空へと飛び立った。
そしていくつかの火球に分かれるとそれぞれが一直線に飛んでいく。まったくブレること無く進む火球の先には先程火球を放った遠征軍の魔術師達がいた。
慌てふためく遠征軍にエカテリーナの火球は容赦なく直撃した。
遠征軍の魔道士が在陣する各地で、魔道士とその周りの数人の兵士を巻き込んで火柱が上がる。
「やりましたわ!!敵の妨害もなく全弾命中、こんなこと初めてですわ!!」
「やりましたねエカテリーナさん!!」
エカテリーナとベアトリスはお互いの手を取りぴょんぴょんと飛び跳ねて喜ぶ。
「よくやった二人共!!素晴らしい快挙だ!!」
義清の言葉に二人は、義清の胸に飛び込んで喜びを分かち合った。
これで敵の魔道士は大いに痛手を負ったに違いない。遠征軍がいかに大所帯といえど魔道士の替えはそうそう出来るものではない。
待ちに待った逆襲の機会だ。
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次回更新予定
2021/1/3




