依頼3-3
「もうすぐできますので」
オレは身を硬くしてテーブルについていた。
「もっとお洒落な料理を期待してませんでした?」
「いえ、なにも考えてなかったです」
テーブルの上にはきんぴらや里芋といった惣菜と、トマトサラダ。それに伏せられた茶碗とお椀が並んでいる。意外といえば意外だ。
「どこの家庭の食卓にも並ぶ料理を是非食べて欲しかったンです」
間山泉はサバの味噌煮を運んできた。味噌の香りが食欲をそそった。
彼女はすッとオレの前の椀に腕を伸ばす。
オレはその手を見て違和感を覚えた。年齢の割りにかさついている。彼女がなにで生計を立てているか聞かなかったが、その手から苦労が滲みでているような気がした。
「どうぞ召し上がってください」
彼女はエプロンを外し、オレの向かい側に腰を下ろした。
オレは自分ひとりがご馳走になると思っていたがどうやら違った。彼女も一緒に食べるようだ。
「いただきます」
オレは目のやりどころに困りながらワカメのみそ汁に口をつけた。
「青波さんはおばあちゃんと二人暮らしなんですか?」
「いえ、厄介になってるだけです」
オレはそう言って、今に至る経緯を話した。黙々と食事をするよりは居心地がいい。
「おもしろい関係ね。聞くとなんだか心がほッとする。普段の食事もおばあちゃんが面倒見てるンです?」
「金が無いですから……」
「じゃあ、普段からおいしいお惣菜を口にしてるンだ。私はお金使って恥かいてるようなものね」
「そんなことないですよ。ばあさんのより美味いですよ。なにより景色が違いますから。ばあさんの顔見て飯食ってたら、三ツ星もらうような料理人の料理でも星ひとつ減っちゃいますから」
オレの軽口に彼女の頬が緩む。
「だから、なるべくテレビのほう向いて食ってますよ。いつもサスペンス好きのばあさんにつき合ってますけど、ばあさんの顔より血生臭いシーンのほうがまだましですから……」
オレの冗談に彼女の顔色がさッと変わった。調子に乗りすぎたか……。
オレがすみませんと頭を下げると、彼女の目から大粒の涙が零れた。
「私……夫を殺したの」