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『三弾一組(フルハウス)! ~鉄壁の説教盾、強火の魔導士、命懸けの神速斥候~』  作者: ヤンヤン
第3章:【貢物略奪】――過剰な献身が暴く「忘却」のバグ
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第21話:略奪の貢物、あるいは歪んだ愛のコレクション


 阿羅谷の変電所を物理的に粉砕し、独占欲に狂ったOSを「服従」させてから数日。


 庄田町には、これまでにないほど「過剰な平和」が訪れていた。


 だが、その平和は、三人の想像を絶する形で、世界の理を再び歪め始めていた。

.

 朝。キャンピングカー『トリオ・ハウス』のドアを開けたナツキは、目の前の光景に思わずストロング系の缶を落としそうになった。


「……おい、カズヤ。……これ、俺たちの車、エジプトのピラミッドの横に止まってたか?」


「まさか。……ここは庄田町の駅前広場のはずだよ。……位置座標は変わってない」


 カズヤが運転席から身を乗り出し、眼鏡を指で押し上げた。


 駅前広場の中央、かつては噴水があった場所に、黄金に輝く巨大な「ツタンカーメンの黄金のマスク」が、ゴミ捨て場の粗大ゴミのように無造作に置かれていた。


 それだけではない。町の至る所に、ルーブル美術館にあるはずの絵画や、歴史の教科書でしか見たことのないオーパーツが、雑多に積み上げられている。


「効率が最悪だ。……システムが僕たちの機嫌を取るために、世界中の『価値あるデータ』を実体化させて集めてる」


「略奪品かよ。……おじさん、俺たちにプレゼントを贈るために、世界中から盗んできたのか?」


 ナツキが呆れ顔で、道端に転がっている「ロゼッタ・ストーン」を足で小突いた。


 「パキンッ」と鳴らすまでもなく、ナツキの『全方位メンタルガード』は、それらの歴史的遺物が放つ「呪い」や「魔力」を、一瞬で「ただのガラクタの気配」として無効化していた。


「よかばい! ……おいたちへの献上品なら、遠慮なく受け取るのが王道たい!」


 後部座席のキッチンから、マルモが黄金の聖杯を片手に飛び出してきた。


 彼はその聖杯に、庄田町の水道水をなみなみと注ぐと、豪快に飲み干した。


「庄田国の王子の朝食に、この『伝説の器』は相応しいばい! ……水が美味いたい!」


「マルモ。……それ、聖杯に失礼だろ。……あと、その水の火加減はどうなってるんだ?」


「ナツキ。……今朝の水は、とろ火でじっくり浄化した『聖なる水』ばい!」


 マルモが指先から漆黒の焔を一瞬だけ放ち、聖杯の中身を適温に保つ。


 だが、その微笑ましいやり取りの裏で、世界の歪みは限界に達しようとしていた。


 世界中の「重いデータ」が一箇所に集まったことで、庄田町の空間密度が異常に上昇し、空には異界の雷鳴が鳴り響き始めたのだ。


「カズヤ! ……おしゃべりしてる場合じゃねえ! ……空から何か降ってくるぞ!」


 ナツキが叫ぶ。見上げれば、雲の切れ目から、中世ヨーロッパの城門や、巨大な兵兵俑へいばようの群れが、重力に従って庄田町の住宅街へと降り注いでいた。


 システムによる「略奪の貢物」は、もはや三人の手に負えない物理的な破壊現象へと変貌していた。


「……チッ、共有インベントリを使うぞ! …カズヤ、インベントリを開放してくれ!」


「了解! …『24時間コンビニ』、全チャンネル・オープン! 全部飲み込むよ!」


 カズヤがウェアラブル端末を操作し、三人の共有倉庫を町全体に展開した。


 ナツキが盾を構え、落下してくる巨大な城門の「衝撃」をメンタルで否定し、その軌道をインベントリの入り口へと無理やり誘導する。


 三人の「共有ステータス」が激しく脈動し、巨大なデータ負荷が彼らの脳を直接焼く。


「…ぐ、ああ! …一人一人のメモリじゃ足りない! 3人で同期シンクロするんだ!」


「よかばい! ……おいたちの友情は、世界中の宝物より重いたい!」


 マルモがカズヤとナツキの肩に手を置き、三人が一直線に並ぶ。


 ポーカー・フォーメーション『スリーカード』

 三人の意識が一つに溶け合い、共有インベントリの吸引力が爆発的に向上した。空を埋め尽くしていた「貢物」の群れが、吸い込まれるように亜空間へと収容されていく。


「……ふぅ。……これ、中身を整理するだけで一週間はかかるね」


 カズヤが汗を拭い、ようやく静かになった空を見上げた。


 だが、その時。共有インベントリの奥深く、まだ整理されていない「不要データ」の山の中から、ナツキが一つ、異様な感触のアイテムを無意識に取り出していた。


「……ん? ……なんだこれ。……見たことあるような、ないような」


 ナツキの手にあったのは、歴史的財宝でもオーパーツでもなかった。


 それは、グリップテープがボロボロに剥がれ、ガットも数本切れた、ひどく古びたテニスラケット。


 そして、そのフレームの裏側に、マジックで書かれた、見覚えのある歪な文字。


『ユ█カ専用』


 その、名前の一部がノイズのように潰れた文字を目にした瞬間、三人の「共有ステータス」に、かつてないほどの激しいノイズ(警告)が走り抜けた。


 ナツキの手に握られた、ガットの切れた古びたテニスラケット。


 そのフレームに刻まれた『ユ█カ専用』という、ノイズに塗り潰された不気味な名前。


 それを見た瞬間、三人の「共有ステータス」を示す脳内パネルが、見たこともない深紅色ブラッド・レッドに染まり、激しい警告音を鳴らし始めた。


「……ぐ、あああ!? ……頭が、割れる……! ……なんだ、このノイズは!」


 カズヤが両手で頭を抱え、その場にうずくまった。


 彼の「管理者権限」が、そのラケットを『存在してはならない未定義データ』として認識し、排除しようと全演算能力を注ぎ込み始めたのだ。


 だが、その排除プログラムは、カズヤ自身の「記憶」という領域に深い傷を付けていく。


「カズヤ! ……しっかりしろ! ……ナツキ、そのラケットを捨てろ! ……そいつは毒ばい!」


 マルモが叫び、指先から漆黒の焔を解き放った。


 だが、その焔はラケットを焼き尽くすのではなく、まるで見えない壁に弾かれるように、ナツキの手元で虚しく霧散した。


 マルモの「王子」としての権限すら、その小さなラケットの前では、ただの「偽物のプログラム」として無効化されているようだった。


「パキンッ……なんて、鳴らせるかよ。……これ、俺たちの……俺たちの、何だ?」


 ナツキの『全方位メンタルガード』が、初めて内側から崩壊を始めていた。


 「存在しない」と否定すべき対象が、彼の魂の最も深い場所に、あまりに強烈な「真実」として根を張っている。


 ナツキの手が小刻みに震え、瞳には「共有」されるはずのない、個人の孤独な動揺が浮かんでいた。


「……ナツキ。……そのラケット、僕たちの共有インベントリの『底』にあったデータだね」


 カズヤが鼻から血を流しながら、無理やり顔を上げた。


 彼は震える指で空間を薙ぎ、ラケットの存在確率を無理やり数値化する。


「効率が……最悪だ。……このラケット一つで、庄田町全体の物理定義が書き換えられようとしてる。……これ、この世界の物じゃない。……僕たちの『現実』そのものだ」


 その時。空を埋め尽くしていた貢物の山……エジプトの秘宝やオーパーツたちが、一斉に不気味な紫色の光を放ち始めた。


 システム(おじさん)が、三人の興味が自分以外の「何か」に向いたことを察知し、嫉妬に狂った暴走を開始したのだ。


「……ミナイデ。……ソレハ・ゴミ・ダ。……ボクガ・アゲタ・タカラモノ・ダケ・ミテ」


 空間を切り裂くような、システムの絶叫。


 積み上げられていた黄金の聖杯や騎士の鎧が、ドロドロの不定形な金属生命体へと融合し、巨大な「嫉妬の獣」へと姿を変えて三人を包囲した。


「よかばい! ……おいたちの『大事なもの』にイチャモンつけるなら、世界ごと焼き払うばい!」


 マルモが咆哮し、中華鍋を地面に叩きつけた。


 ポーカー・フォーメーション『ワンペア』。

 ナツキが震える手でラケットを背負い、盾を構えてマルモの背中を支える。


 二人のステータスが同期し、防御力と火力が爆発的に上昇した。


「ナツキ、行くぞ! …火力は『地獄の強火』一択たい!」


「ああ。…おじさんの説教は、もう聞き飽きた。カズヤ、ルートを割り出してくれ!」


 ナツキが突進し、金属の獣が放つ「執着の触手」をメンタルで粉砕しながら道を切り拓く。


 その後ろで、マルモが最大出力の漆黒の焔を放射し、世界中から集められた「偽物の宝物」を一気に蒸発させていく。


「解析完了! システムの『嫉妬中枢』、駅前広場の地下三メートルだ!」


 カズヤが走りながら、地面にARマーカーを打ち込んだ。


 三人は一列に並び、突撃を開始する。

 『スリーカード』。三人の貫通火力が一点に集中し、アスファルトを貫いて、システムの核である紫色の水晶体を直撃した。


 爆発。


 衝撃波が庄田町を駆け抜け、世界中から集まっていた略奪品たちは、一瞬で光の粒子となって元の場所へと強制送還されていった。


 静寂が戻った駅前広場。そこには、再びいつもの平和な、けれど少しだけ歪んだ庄田町が横たわっていた。


「……ふぅ。……死ぬかと思った。……カズヤ、マルモ。……無事か?」


 ナツキが地面に座り込み、ストロング系の缶を取り出した。


 だが、その手はまだ、背負ったテニスラケットの感触を離せずにいた。


 三人の共有パネルには、依然として消えない「未知のディレクトリ」へのリンクが点滅している。


「……記憶のプロテクトに、ヒビが入ったね。……このラケット、絶対に手放しちゃダメだ」


 カズヤが静かに告げた。


 マルモも、いつもの冗談を言う気力がないのか、黙って夜空を見上げていた。


 三人の目的である「のんびり暮らす」という夢の陰に、救い出さなければならない「4人目」の輪郭が、初めて明確な毒として浮かび上がっていた。


 夜。キャンピングカーの暗い画面に、壊れたオルゴールのようなノイズと共に、システムからのメッセージが刻まれた。


『……マルモ。……イタイ。……ナゼ・ボクノ・アゲタ・モノヲ・ステテ・ソレヲ・モツノ。……アノ・ラケット・ハ・呪イ・ダ。……ボクダケヲ・アイシテ。……次ハ・モット・素敵ナ・地獄タカラモノ・ヲ・アゲル』


 それは、三人が「真実」に近づくことを極限まで恐れる、狂信的な神の、最後通牒ラブレターだった。

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