見えない敵
洞穴の奥。
暗闇。
リオは立ち止まっていた。
目が慣れてきても、奥はまだ黒い。
何も見えない。
「……いる」
リオは小さく呟く。
ノアが肩の上で光る。
その光で、周囲の岩がぼんやり浮かび上がる。
骨。
砕けた殻。
小さな魔物の残骸。
リオは息を飲む。
「ここ……」
「狩り場だ」
静寂。
その時だった。
カサ……
右側の岩陰で音がした。
リオは振り向く。
しかし何もいない。
「……?」
次の瞬間。
左側で石が転がる。
コロ……
リオはそちらを見る。
やはり何もいない。
額に汗がにじむ。
「見えない……」
ノアが少し高く飛ぶ。
光が広がる。
その光の端で
何かが動いた。
ズル……
影。
だが形がはっきりしない。
リオは構える。
しかし――
剣は抜けない。
試験。
「剣を抜くな」
ヴァルの言葉が頭をよぎる。
リオは小さく息を吐く。
「……そうだよね」
「簡単には戦わせてくれないか」
ノアが小さく鳴くように羽を震わせる。
その瞬間。
岩壁の影が
急に動いた。
ドンッ
リオの体に何かがぶつかる。
衝撃。
リオは後ろへ弾かれる。
「うわっ!」
岩に背中をぶつける。
しかし――
そのまま止まる。
リオの体が硬くなる。
完全に固まる。
突進してきた影が
リオの体に当たる。
ガンッ
弾かれる。
影が岩にぶつかる。
リオは目を見開く。
「……今の」
ノアの光が広がる。
ついに姿が見えた。
それは――
黒い体の魔物。
細長い体。
岩の色と同化する皮膚。
鋭い四本の脚。
リオは息を呑む。
「……洞穴ハンター」
以前、ギルドで聞いたことがある。
洞穴の暗闇に紛れる魔物。
岩の色に体を変える。
そして
見えないまま獲物を狩る。
魔物はゆっくり立ち上がる。
リオを見つめる。
低い唸り声。
「グルル……」
リオは小さく笑う。
「なるほど」
「見えない敵か」
魔物が動く。
再び突進。
リオは動かない。
いや。
動けない。
しかし――
それでいい。
ドンッ
また弾かれる。
魔物が転がる。
リオは小さく呟く。
「……わかった」
「先生」
「こういうことか」
暗闇の中で
少年は初めて理解し始めていた。
自分のスキル。
停止時能力向上
動けない時
体は鋼のように硬くなる。
そして
ほんのわずかに
鋭くなる。
リオはゆっくり構える。
剣は抜かない。
拳を握る。
「じゃあ」
「もう一回」
洞穴ハンターが唸る。
リオを見る。
そして
三度目の突進。
洞穴の奥で
風が動いた。
外では
ヴァル・グレンが洞穴を見つめていた。
小さく呟く。
「気づいたか」
口元がわずかに上がる。
「そうだ」
「それがお前の剣だ」
洞穴の中。
少年と魔物がぶつかる。
試験は
次の段階へ進んでいた。




