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外れスキルの【停止時能力向上】実は世界最強でした〜夢記録に刻まれた800年の真実〜  作者: 滝本りお


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魔神? まさか…

長机の上の灯りが、ゆらりと揺れた。


ザルクス=ガイアは、相変わらず軽い顔で串を回している。

なのに、口から出てくる言葉だけが、ひとつひとつ常識を踏み抜いていく。


「まあ、他にも色々やったぞ」


その一言で、また場の空気がぴたりと静まった。


ヴァルが笑う。


「ほう」

「まだあるのか」


「あるある」

ザルクスは気楽に頷く。

「俺が戻ってきたことも、SSSギルドがまた盛り上がることも、だいたい知ってたしな」

「成埜の地の開拓は、ここからさらに急速に進むぞ」


リオが眉をひそめる。


「なんで言い切れるの?」


ザルクスは、そこでにやっと笑った。


「なんてったって――」

「魔神も、ドラゴンも、使えるからな」


沈黙。


一拍。


二拍。


レインが先に固まる。


「……は?」


グレイランの若い連中は、もう反応が追いついていない。

セルディアの一団など、さっきからずっと「何を言ってるんだこいつ」という顔のまま硬直している。


絶騎士団は逆に言葉を失い、

ヴェルド・クレストの面々も、ここでさすがに空気が変わった。


そして。


リオが、ゆっくり顔を上げた。


「……魔神?」


その声は小さかった。


だが、次の言葉ははっきりしていた。


「まさか」


ザルクスは、その反応を待っていたみたいに笑う。


「お、繋がったか?」


リオの中で、また断片が動いていた。


成埜の地。

あの時の魔人。

途中で現れた“まだ早い”と告げた存在。

妙に知性が高く、妙に会話が成立し、妙に統率されていた異物。


「……あの時の」

リオが言う。

「成埜の地の、魔人と……あの魔神」


「そう」

ザルクスは軽く指を鳴らした。

「だいたい俺発だ」


「だいたい、で済ませるな」

と、リュメリアが冷たく言う。


ザルクスは肩をすくめる。


「いや、正確にはちょっと違う」

「俺の初期スキルの異能だ」


その一言で、ラルラゴの目がわずかに細くなる。


ザルクスは、串を置いて続けた。


「魔神は、俺がただ命令して操るだけの駒じゃない」

「知能の低い連中なら、そりゃ押さえ込める」

「でも知能の高いやつらは違う」


少しだけ、口元に笑みが乗る。


「従うっていうより、協力、だな」

「慕って、ついてくる」

「大抵は“ザルクス様”って呼ぶぞ」


グレイランの若い連中が「様!?」と一斉に反応し、ヴァルが吹き出した。


「似合わんなあ」

「うるせえよ」

と、ザルクスは笑う。


ノアの光が、ぴくりと震えた。


ラルラゴが低く言う。


「魔神召か」


その言葉に、ザルクスが笑った。


「そうそう」

「やっぱお前、話が早くて助かるわ」


グレイランの若い連中が「ましんしょう?」と顔を見合わせる。

セルディアの一団は完全に絶句していた。

絶騎士団の一人など、今にも頭を抱えそうな顔をしている。


ザルクスは、まるで酒のつまみの話でもするみたいに続けた。


「すでに存在してる、昔からいる魔神を呼び出すこともできる」

「逆に、新しく生み出すこともできる」

「地の深いところの魔気と結んで、理由を与えて、形を持たせる」

「そういう感じだな」


「最悪の言い方ね」

リュメリアが吐き捨てる。


「褒め言葉として」

「違うわ」


ヴァルが横で楽しそうに笑っている。


「ははっ」

「なるほどな」

「だからあの魔人、妙に“自分の役割”を分かってたのか」


「そういうこと」

ザルクスは頷く。

「今の成埜の地は、普通の土地じゃない」

「だから、普通の魔獣や魔人の湧き方なんかしない」

「俺が地の深いとこに手を入れてからは、なおさらな」


リオはまだ、じっとザルクスを見ていた。


「……使えるって、何」


「そのまんまだよ」

ザルクスはあっさり言う。

「街道作るにも、防壁の基礎固めるにも、土運ぶにも、地を掘るにも、あいつらは便利だ」

「特に地に関わるやつはな」


「便利って言うな」

と、レインが本気で引いた顔をする。


ザルクスはまったく悪びれない。


「いや便利だろ」

「地中移動するやつとか、岩盤砕くやつとか、地脈いじるやつとか」

「お前ら人間が十年かけることを、数日でやる」


絶騎士団の一人が、顔を引きつらせた。


「……それを」

「開拓に使っているのか」


「使ってる」

ザルクスが答える。

「もう一部はな」


今度こそ広間がざわついた。


「は!?」

「もう!?」

「どこで!?」


ザルクスは指先で外を示した。


「街道の下の土台」

「防壁の基礎の一部」

「あと、崩れやすい斜面の固定」

「お前ら気づいてなかったのか?」


レドアが、少し離れた場所でぼそっと言う。


「……あー」

「やっぱりあれか」


リオが振り向く。


「レドア、知ってたの?」


「知ってたっていうか」

レドアは頭をかいた。

「たまに夜明け前に現場見ると、前日までなかったはずの仕事が終わってるんですよ」

「しかも妙に精度がいい」

「ザル兄の仕業かなとは思ってた」


「思ってたで済ませるな」

と、レインが突っ込む。


グレイランの若い連中は、逆に目を輝かせていた。


「えっ、じゃああの巨大な石の移動も!?」

「たぶんそう」

「すげえ……」


セルディアのグラディスが、ついに堪えきれずに口を開く。


「待て」

「それでは成埜の地は……」

「人の開拓地ではなく、もはや魔と神の工房ではないか」


「わりと近い」

と、ザルクス。


「わりと近いで片づけるな!」

と、ガルスが珍しく声を荒げた。


ヴァルは机に肘をついて笑っている。


「いいなあ」

「だんだん世界の反応が追いつかなくなってきた」


「あなたはずっと楽しそうね」

リュメリアが冷たく言う。


「実際面白いだろう?」

「最悪にね」


ラルラゴが、そこで短く問うた。


「ドラゴンは」


場がまた静まる。


ザルクスは、今度は少し真顔になる。


「魔神とは少し違う」

「ドラゴンは、強者だと認めた相手にしか本気で従わない」

「しかも知能が高いやつに限る」


ノアの光が、静かに揺れた。


ザルクスは続ける。


「で、俺が扱えるのは基本“地”に関わる連中だ」

「土、岩、地脈、地中移動、そういう系統のドラゴン」

「空はノアに任せた方が早いし、綺麗だろ」


「綺麗、で括るな」

と、ノアがやわらかく返す。


「事実だろ」

「事実ではございますが」


そのやりとりに、小さな笑いが起きる。


ザルクスは肩をすくめた。


「だからクラスト・ドラゴンも、俺が送った」

「ただ、あいつらは魔神みたいに“はいはいザルクス様”って感じじゃない」

「強いと認めるから、使わせてやる、くらいの距離感だ」


「それで“送った”になるのね」

リュメリアが言う。


「なるだろ」

「ならないわ」


リオはまだ黙ったままだった。


頭の中で、また何かが繋がる。


あの時の魔人。

あの時の魔神。

襲ってこない魔獣。

職人だけを拒む土地。

突然整っている工事現場。

街道と防壁の進みの速さ。

そして、土と岩をまるで意思のある手みたいに扱う、この土地の変化。


全部、一本になっていく。


「……だからか」

と、リオが小さく言う。


ザルクスがそちらを見る。


「何が?」


「成埜の地が、最初から“待ってた”感じだった理由」

「俺たちを拒むんじゃなくて、選んでたみたいだった理由」

「全部……」

リオはゆっくり息を吐く。

「お前が、盤面そのものを整えてたんだ」


ザルクスは、にっと笑った。


「正解」


その一言で、広間の空気がまた変わった。


もう誰も、ザルクスをただの“変な兄ちゃん”としては見られない。

いや、変な兄ちゃんではある。

だがその実態は、国と土地と魔神を盤上の駒に変える怪物だ。


「……ザル兄、こわ」

と、グレイランの少年が素直に言う。


「ひどいな」

ザルクスは笑った。

「ちゃんと優しいだろ、俺」


「優しいやつは、遊びでドラゴン送らねえんだよ」

と、レイン。


その返しに、また笑いが起きる。


だがその笑いの奥で、リオだけは少し静かだった。


魔神。


その言葉が、まだ胸のどこかに引っかかっている。


あの時の、あれ。

途中で現れた“まだ早い”という声。

あの圧倒的な異質さ。


もし本当に、あれすらザルクスの盤面の一部だったのなら。


「……まさか」

リオがもう一度、今度は自分に言うみたいに呟いた。


ザルクスは、その顔を見て楽しそうに目を細めた。


「いいぞ」

「もっと繋げろ、リオ」


ノアの光が静かに揺れる。

ラルラゴは何も言わない。

だが、その沈黙は続きを急かしていた。


今夜の夜会は、またひとつ、世界の裏側をめくった。


そして成埜の地は、いよいよ

人の土地でも、

魔の土地でもなく、

オルビス・ノヴァとザルクスが再設計した新しい領域として、その輪郭をはっきり見せ始めていた。

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