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10.診察

セシルがやっと起きます!

セシルが目を開くとそこにはいつもとは違う、見慣れない景色が広がっていた。


最初に目にしたのはいつも寝ていた天蓋つきベッドの上の部分と似ていたが、少し違った。

何より、いつもの檻の中よりはるかに明るかった。



ーーーーーわたし、死んだのかしら?



初めての見る明るい景色に戸惑いながら、セシルはいつものように体を起こそうとしたが、全く動かなかっ。それどころか体から吐き気がこみ上げ目眩がしてくる。



「っ!」


「お目覚めですか?ああ!いけません起きては!寝ていてください。すぐにマーガン先生をお呼びいたします。」



セシルが目覚めたことに気付いたメイドが慌てて駆け寄り、すぐにマーガン医師を呼ぶよう指示を出す。


セシルは、知らないメイドが近づいてきたことに少し戸惑い怯えたが、こんな体ではどうすることもできないだろう思い、メイドの言うとおりにした。



すぐにマーガン先生が部屋へと入って来て、セシルのそばへ行き、診察しようとベッドに駆け寄っていった。


すると、セシルの怯えが増し、体の震えが止まらなくなった。その様子を見たマーガン先生はとても驚いたが、すぐに控えていた女性の助手に診察を代わった。本当は自分で診察をして診断したかったモーガン医師は、セシルの怯える原因を考えながら助手の報告を待つことにした。


「こんにちは、セシルさん。わたしはマーガン医師の助手のエミリアと申します。これからセシルさんのお体を見させていただいて、悪い病気や怪我がないか見ていきたいのですが、よろしいですか?」


セシルはエミリアの言葉に静かに頷いた。



エミリアが丁寧に挨拶をし、これから何をするのか言ってくれたおかげで、セシルの体からは震えが少しずつ消えていった。



「ありがとうございます。寝たままで結構ですので、痛かったりしたら教えてくださいね。それでは布団を失礼します。」


セシルの上にかかっていた布団を取ると、エミリアはそっと手首へと手を伸ばし、脈を測った。脈は弱かったが安定しており、ひとまずエミリアは安心した。


しかし、次にセシルの体を見て息を飲んだ。


その細く白い手首には鎖の痕が残っていて、体には青くなったあざや裂けた傷が無数に広がっていた。それを見たエミリアは胸が苦しくなり、泣きたい気持ちになったがなんとか笑顔を保って診察を終えた。



「ありがとうございます、これで今日の診察は終わりです。疲れていると思うので横になってそのまま寝ていてください。」



ベッドの上で体を触られることに怯えていたセシルだったが、エミリアが殴ったり蹴ったりするような人でないことを知ると、再び瞼を閉じ、静かな寝息を立てて眠りに入っていった。



「マーガン先生、診察が終わりました。」

「どうだった?」

「ええ、脈は弱いですが安定していて、熱も少しありますが、すぐに下がると思います。ただ..........体には裂けた傷痕や殴られたような打撲の痕がいくつもありました。」

「そうか........やはり彼女は閉じ込められ虐げられていたのだろうな。きっとそれ以外にも、口には出来ないほど酷いことをされてきたんだろう」

「あ、あんなのあんまりですっ!まだあんなに小さいのに、体も信じられないほど白くて、あれでは、まともに光に当たるのにだって時間がかかります!」



セシルの体を見たエミリアは、耐えていた涙を流しながらセシルのことを心配して泣き叫んだ。

それを見たマーガンは、そっと彼女を抱きしめた。




______________________




「なぁ、ウィル〜本当に行くのか?俺は早く義妹に会いたいんだけどー」

「あぁ、彼女のことで聞かなければならないことがある。あっちはマーガン先生に任せたから大丈夫だろう。」

「えー、じゃあ俺も早くそっちに行きたいんだけど」

「お前も知っておいた方がいいだろう。自分の義妹になる子のことなんだからな。」

「まぁ、そうだな!」


ウィルは文句を言うジョンと二人でそんなことを話しながら王宮にある一つの牢に向かって歩いていた。



理由はセシルの父親である先日捕まえたマイヤー伯爵に会いセシルについて問いただすためだった。

そして二人はドブリスがいる牢の前まで来て、中にいるすっかり魂の抜けたようなドブリスに話しかけた。



「お前に聞きたいことがある。」

「........なんですかな殿下。今更聞きたいことも何もないでしょうに。」

「セシルのことだ」



ウィルがその名前を言った瞬間、ドブリスの瞳には暗い光が宿り、何かに酔ったような表情で、ゆっくりと口を開き言葉を発した。




「あぁ、セシル、わたしのセシル、待っていてくれすぐに戻るよ」

「お前がここから出ることは二度とない。セシルはローエン侯爵の養女となり、これから生活していく。」

「ローエンだと?!あいつ、わたしのセシルを二度も奪おうとするとは!!」

「セシル・ド・グレイは初めから侯爵の妻だ。お前のものではない。そしてセシルも今はもうすでにお前の子ではない。」

「違うっ!セシルは生まれた時からわたしの子だ!わたしがセシルに生ませたわたしの可愛い第二のセシルだ!」



狂気じみた声を上げ、叫ぶドブリスをウィルは冷たく凍ったような瞳で見下ろしていた。



「なぜそうまでしてセシルを閉じ込めた?」

「閉じ込めたですと?!セシルは最初から、生まれた時からわたしの物なのです。自分の物を大事に閉まっておいただけで何が悪いと言うんですか?」

「ではなぜ屋敷ではなく塔に閉じ込めておく必要があった?なぜ塔に足繁く通っていた?」



自分の娘の様子を少しでも心配して、通っていたと思っていたウィルは、ドブリスから想像を絶するような答えを聞き、体の中から今まで経験がないほどの怒りの渦が湧き上がるのを感じた。



「ローエン侯爵のようにまた誰かに連れて行かれでもしたら困りますからな。殿下も見たでしょう、セシルのあの白く淫らな肢体を!あれが手元にあって手を出さないという方がおかしい!セシルのようにあの子も鎖で繋いでおけば逃げることは出来ない!

あぁ、それにしても本当に美しく育ってくれた。オリビアはセシルをなぜか虐めていたようだったが、私にとっては女神そのものだった。特にセシルが怯えて、抵抗するのを押さえつけながらするのは、母であるセシルに子どもを産ませた時以上の快感でしたな。」



うっとりと、その時のことを思い出しているのか、目線を上に向け、ドブリスは永遠と自分が今までセシルにしてきたことを語っていた。



それを聞いていたウィルの我慢が限界に達し、剣を抜こうと鞘に手をかけた瞬間


ガンっ!



大きな音がして前を向けば、いつのまに牢の中に入ったのか分からないジョンが、目の前にいるドブリスを殴り飛ばしていた。


「なぁ知ってるか?人間の手とか足って一本ずつ切っても死なないんだぜ?」


ジョンはいつものヘラヘラした声ではなく、聞いたこともない低い声を出し、薄らと笑みを浮かべながらドブリスに言った。


その言葉を聞いたドブリスは「ひぃ!」と情けない声を上げて地面に泡を吹いて倒れ込んだ。


「あーあ、きたねーなぁ。なぁウィル、もう戻ろうぜ?こんなところ、これ以上いても時間の無駄だろ?」

「あぁ、そうだな。」


ウィルは抜きかけていた剣を鞘にしまい、ジョンと共に牢を後にいた。


「ジョン、まさかお前があんなことするとは思わなかったぞ」

「そりゃー可愛い義妹のことだからなー!」

「そうか」


先程の、恐ろしいほどの低い声からいつもの声へと戻ったジョンは普段通りの口調で話していた。


それから二人はドブリスのいた牢を後にし王宮のセシルのいる部屋へ向かい、歩いていった。



_____________________________



セシルの眠る部屋の前で、セシルについて話をしていたマーガンとエミリアは、ウィルとジョンがこちらへ来るのを見て深く頭を下げ礼を取った。


「顔を上げてくれ、マーガン先生。そちらの助手のエミリアと言ったか、お前も顔を上げろ」

「はい、ありがとうございます殿下」


ウィルの言う通り顔を上げた二人はジョンを交え、四人でセシルについて話し始めた。


「それで、彼女の容態はどうだ?悪いのか?」

「いいえ、先程エミリアに診察させたところ熱が少しあるものの脈は安定しており、時期に回復するだろうとのとこです。」

「そうか、それはよかった」

「なぁ、マーガン先生!俺義妹の顔見たいんだけど入っていい?見ていい?」


しかしマーガンは首を横に振り、ジョンの要求を却下した。


「えー?なんで?」

「それが、あの子は人が近づくと酷く怯えるのです。ですから目が覚めたとき近くに人がいては驚いてしまうでしょう。ジョン様は目が覚めてから会ってください。」

「...........なるほど、分かった」


少し考えてから納得したジョンを見て、マーガンは何か心当たりがあるのか尋ねた。


そしてマーガンとエミリアはウィルとジョンから先ほどドブリスから聞いた、セシルがされてきたことを簡単に説明した。


それを聞いたエミリアはドブリスに対し怒りを露わにし、ボコボコに殴ってやると言って立ち上がったが、慌てたマーガンやウィルに諌められ、大人しく座った。


「信っじられない!何考えてんのよその男!」

「あ、あぁそれには大いに同意するがそろそろセシルのことについて話したい。いいか?」

「あ.........ゴホンっ!申し訳ありません、殿下。」

「いや、構わない。それでセシルのことなんだが、今後関わっていく中で気をつけるべきことはあるか?」


セシルと義妹となるジョンも真剣にエミリアの話に耳を傾けた。


「えぇ、たくさんありますわ。まずは日の光です。産まれてから一度も外に出ない人など見たことがありませんから分かりませんが、おそらく日に当たれば彼女の体は火傷のようになってしまうでしょう。少しずつ外に出るようになれば半年後には普通に生活できるようになると思いますのでご安心ください。」

「日の光がダメなのか〜連れてくる時が夜でよかったなぁ」


ジョンの言葉にウィルも頷き、エミリアに話の続きを促す。


「次に接触です。先程の話を聞いた限りだと、不用意に触れると震えてしまって倒れてしまう可能性があります。ですから近づく時は、なぜ近づくのか理由を言ってからにしてください。これも慣れてきて、人となりがわかるようになれば改善されるでしょう。しかし、幼いころからそうだとすると心に残った傷は一生消えないかもしれないですね。他には............」


エミリアはその後食事はあまり重くないものにすることや、フラッシュバックがあるかもしれないため、出来るだけ暴力的なものは避けること、それから暗いところもダメだと気をつけるべき点をいくつも挙げた。


「かなりあるな.........」

「でもそんだけ酷いことされてきたんだ、仕方ないんじゃないかー?」


注意するべきことの多さにウィルとジョンは驚きながらも納得した。





そして夜になって、マーガンとエミリアとジョンが帰るとウィルはセシルのいる部屋に入り、扉のすぐ横にあった椅子へと座り、腕と足を組みながらそのまま朝まで寝てしまった。


















投稿する時間がまばらで申し訳ありません。

ですが1日に1回は必ず投稿する予定でいますのでよろしくお願いします。

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