表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
24/26

第24話:屯所の冷たい空気

京の屯所に戻った俺を待っていたのは、以前と変わらぬ、いや、それ以上に張り詰めた静寂だった。


門をくぐれば、隊士たちの鍛錬する木刀の音が響いている。


馴染み深いその景色の中で、俺は自分の足音が、かつてのそれよりもどこか硬質に響いているのを感じた。


離れで休んでいた俺の帰還を知り、真っ先に現れたのは土方歳三だった。


彼は縁側に立ち、俺の姿を確認すると、その細い目をさらに鋭く細めた。


肺を病む俺の顔色を、一瞬で品定めするように見ている。


「……戻ったか、総司。湯治の効果はあったのか」


短く、しかし問い詰めるような口調。


土方の瞳には、俺に対する心配と、同時に「任務を全うできたのか」という疑念が混じっている。


俺は懐にある、あの「掃除屋」から奪った作戦図の重みを感じながら、努めて平然を装い頭を下げた。


「ええ。おかげさまで、少しは……」


俺が言葉を濁すと、土方は鼻を鳴らした。


彼は俺の肩を通り過ぎ、門の方を一度見てから、俺を奥の部屋へと手招きした。


二人の間に流れる空気が、急激に冬の冷たさを帯びる。


「……近藤さんも、会津藩の重鎮の方たちも、お前が留守の間に京の情勢が不穏だと騒いでいる。長州の動きが、どうにも腑に落ちない動きを見せているんだ」


土方は畳にどっかと座り込むと、机の上に広げた京の地図を指で叩いた。


そこには、俺が温泉地で見た作戦図に酷似した赤い印が、いくつも書き込まれていた。


「総司。お前が休んでいる間に、何人もの隊士が闇討ちに遭った。ただの暗殺じゃない。……まるで、我々の手の内を全て知り尽くしたような、精緻な罠だ」


俺は息を呑んだ。


あの「掃除屋」たちは、俺の生存を脅かすだけでなく、新選組そのものを解体しようとしているのか。


俺は懐の作戦図を握りしめた。


これを今、土方に見せるべきか。


未来の知識と、温泉地で起きた血生臭い真実。


それを口にした瞬間、俺は「病弱な剣士」という仮面をかなぐり捨て、この歴史の「異物」として生きる覚悟を決めなければならない。


「土方さん。……俺が温泉地で見つけたものがあるんです」


俺は静かに、懐からあの革紙を取り出した。


土方がそれを受け取り、目を通す。彼の表情から色が消えていく。


その沈黙の時間は、俺たちのこれまでの信頼関係を、一瞬で書き換えるに十分な重さを持っていた。


京の町に潜む「掃除屋」との戦いは、今ここから始まった。


それは、新選組という組織を守る戦いであり、俺自身の運命を切り開く、孤独な戦いでもあった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ