第24話:屯所の冷たい空気
京の屯所に戻った俺を待っていたのは、以前と変わらぬ、いや、それ以上に張り詰めた静寂だった。
門をくぐれば、隊士たちの鍛錬する木刀の音が響いている。
馴染み深いその景色の中で、俺は自分の足音が、かつてのそれよりもどこか硬質に響いているのを感じた。
離れで休んでいた俺の帰還を知り、真っ先に現れたのは土方歳三だった。
彼は縁側に立ち、俺の姿を確認すると、その細い目をさらに鋭く細めた。
肺を病む俺の顔色を、一瞬で品定めするように見ている。
「……戻ったか、総司。湯治の効果はあったのか」
短く、しかし問い詰めるような口調。
土方の瞳には、俺に対する心配と、同時に「任務を全うできたのか」という疑念が混じっている。
俺は懐にある、あの「掃除屋」から奪った作戦図の重みを感じながら、努めて平然を装い頭を下げた。
「ええ。おかげさまで、少しは……」
俺が言葉を濁すと、土方は鼻を鳴らした。
彼は俺の肩を通り過ぎ、門の方を一度見てから、俺を奥の部屋へと手招きした。
二人の間に流れる空気が、急激に冬の冷たさを帯びる。
「……近藤さんも、会津藩の重鎮の方たちも、お前が留守の間に京の情勢が不穏だと騒いでいる。長州の動きが、どうにも腑に落ちない動きを見せているんだ」
土方は畳にどっかと座り込むと、机の上に広げた京の地図を指で叩いた。
そこには、俺が温泉地で見た作戦図に酷似した赤い印が、いくつも書き込まれていた。
「総司。お前が休んでいる間に、何人もの隊士が闇討ちに遭った。ただの暗殺じゃない。……まるで、我々の手の内を全て知り尽くしたような、精緻な罠だ」
俺は息を呑んだ。
あの「掃除屋」たちは、俺の生存を脅かすだけでなく、新選組そのものを解体しようとしているのか。
俺は懐の作戦図を握りしめた。
これを今、土方に見せるべきか。
未来の知識と、温泉地で起きた血生臭い真実。
それを口にした瞬間、俺は「病弱な剣士」という仮面をかなぐり捨て、この歴史の「異物」として生きる覚悟を決めなければならない。
「土方さん。……俺が温泉地で見つけたものがあるんです」
俺は静かに、懐からあの革紙を取り出した。
土方がそれを受け取り、目を通す。彼の表情から色が消えていく。
その沈黙の時間は、俺たちのこれまでの信頼関係を、一瞬で書き換えるに十分な重さを持っていた。
京の町に潜む「掃除屋」との戦いは、今ここから始まった。
それは、新選組という組織を守る戦いであり、俺自身の運命を切り開く、孤独な戦いでもあった。




