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第11話 二三〇〇年への帰還と嫌な予感

翌日。 事態は思わぬ方向へ転がった。 昨日の役人たちが、都で言いふらしたのだ。


「片岡山に、ただならぬオーラを放つ聖人が倒れていた」と。


その噂を聞きつけた村人たちが、お供え物を持って片岡山に集まってきてしまったのだ。


「見ろ! まだ横たわっておられるぞ!」


「死んでいるのか? いや、体が腐っていない……!」


「きっと、仙人に違いない!」


PRINCEの周りには、数十人の野次馬が集まっていた。 PRINCEは完全停止シャットダウン状態で、ピクリとも動かない。 まずい。このままでは「遺体」として埋葬されてしまう。あるいは解剖されて、中身が機械だとバレてしまう。


『かたるの兄弟、聞こえるか!』 


脳内にgennaiの焦った声が響く。


『回収ゲートが開いた! あと一〇秒で転送ビームが落ちる! どけ! 巻き込まれるぞ!』


「えっ、今!?」 


私は人混みをかき分けて叫んだ。


「さがって! 皆さん下がってください! 聖人様の魂が、天に還られます!」


「な、なんだと!?」 


村人たちがざわめく。 その瞬間。 上空の雲が渦を巻き、一筋の光がPRINCEの体に降り注いだ。


『Reboot... Emergency Sequence... Stealth Mode... On.』


PRINCEの体が、バチバチと電子音を立てた。 次の瞬間。 彼の体が、フッ……と景色に溶けた。  【光学迷彩オプティカル・カモフラージュ】 の起動だ。


「き、消えたぁぁぁぁ!!」 


村人の一人が絶叫した。 そこには、彼が羽織っていた紫の衣だけが、きれいに畳まれた状態で残されていた。 中身だけが、神隠しのように消滅したのだ。


「奇跡だ……!」


「やはり、あの方はタダモノではなかった!」


「太子様の化身だ! ありがたや、ありがたや……!」


人々は一斉にひれ伏し、祈りを捧げ始めた。 目の前で起きた「SF現象」を、彼らは「宗教的奇跡」として解釈し、納得したのだ。 


私はその光景を見ながら、奇妙な感動を覚えていた。 こうやって、伝説は作られるのか。 真実はテクノロジーでも、人がそれを信じ、語り継げば、それは「神話」になる。


「……さようなら、PRINCE」 


私は見えない彼に向かって、小さく手を振った。 私の体もまた、転送の光に包まれ始めていた。 


任務完了ミッション・コンプリート。 私たちは、この時代に「秩序」という種を蒔き、そして伝説となって去るのだ。再び、世界が裏返る感覚。 光のトンネルを抜け、意識が現代へと引き戻される。


「……ッ!」 


私は総理官邸の執務室の床で、ガバッと目を覚ました。 


革靴の感触。空調の効いた乾燥した空気。人工的な照明の明かり。 戻ってきた。 西暦二三〇〇年、ネオ・トウキョウだ。


「おかえり、かたる君」 


デスクの向こうで、夜裏なおすが涼しい顔でコーヒーを飲んでいた。 モニターの中では、gennaiがニヤニヤしながら煙管をふかしている。


『お疲れさん! いやー、最後のアレは傑作だったぜ! 「聖徳太子は達磨大師の化身だった」なんて伝説ができちまうわけだ』


私はふらつく足で立ち上がった。


「はぁ、はぁ……。ひどい目に遭いましたよ。……でも、やりました」 


私は窓の方へ歩み寄った。


「PRINCEは完璧な仕事をした。十七条憲法も、官僚制も定着させた。これで日本人の『思考停止』は治り、ルールを守れる近代国家になったはずです」


心なしか、胸が高鳴っていた。 過去を変えたのだ。 窓の外には、きっと活気に満ちた、新しい日本の姿が広がっているはずだ。 議論を戦わせ、新しいアイデアを生み出し、世界をリードする強い日本が。


「さあ、見せてください総理。僕たちが書き換えた、新しい物語の結末を!」


私は勢いよく、防弾ガラスの遮光シェードを開いた。 そこには、想像を絶する光景が広がっていた。


私がシェードを開けた瞬間に飛び込んできたのは、あまりにも「美しすぎる」光景だった。


ネオ・トウキョウの街並みは、まるで洗いたてのシャツのように真っ白に輝いていた。 かつて雑然としていたビル群は、すべて角の取れた柔らかな曲線デザインに統一され、淡いパステルカラーの光を放っている。 


空を飛ぶエアカーは整然と列をなし、一ミリの乱れもなく流れていく。 路上のゴミはおろか、看板の剥がれや落書き一つ見当たらない。


「す、すごい……!」 


私はガラスにへばりついた。


「見ましたか総理! 綺麗です! あの廃墟寸前だった東京が、こんなに清潔な未来都市になってる! 大成功じゃないですか!」


私は歓喜に震えた。 やったのだ。あの一七〇〇年前の泥濘の中で、PRINCEと共に蒔いた「秩序」の種が、時を超えて見事に開花したのだ。 借金まみれで、薄汚くて、希望のなかった日本は消えた。 ここにあるのは、世界に誇れる理想郷ユートピアだ。


「……かたる君」 


背後で、夜裏なおすが低い声で呼んだ。


「君の目には、これが成功に見えるか?」


「え? 当たり前でしょう。見てくださいよ、あの平和な風景を……」


私は振り返りかけ、ふと違和感を覚えた。 平和? 確かに平和だ。争いも、混乱も見当たらない。 だが、何かがおかしい。 決定的に、何かが「欠落」している。


「……音が、しない」 


私は呟いた。 執務室の防音ガラス越しとはいえ、大都会特有の「都市の唸り」が聞こえてこないのだ。 クラクションの音。 街頭ビジョンの広告音声。 人々の話し声や笑い声。 それらが一切なく、ただ不気味なほどの静寂が、真綿で首を絞めるように街を覆っている。


「拡大してみろ」


夜裏の指示で、私は窓ガラスのズーム機能を起動し、地上の歩行者たちを映し出した。 そして、私は悲鳴を上げそうになった。


「な、なんですかこれ……っ!?」


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