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憲兵、新たな出会い(1)

 ホワイトエンド──最果てと呼ばれる辺境の地。


 実の所、この土地についてわかっていることはかなり少ない。

 町は王国の遥か北に位置し、年に数回最寄りの街を通じて王都とも交易していると聞くが、せいぜいそのくらいだ。

 なんでも木彫りの魔よけといったマジックアイテムを細々と売っているらしく、これがまたよく効くのだとか。

 だが、かといってこれらを目当てにホワイトエンドの町に直接向かう行商人はいない。


 それはなぜか。


 ホワイトエンドはまず、土地の北・東・西をぐるりと囲うように『始まりの巨人の抱擁』と呼ばれる大山脈が連なっている。

 この前人未到の岩山が途切れる南側もまた、広大な針葉樹の森が旅人たちの行く手を阻み、生半可な覚悟では通り抜けられない。

 と、教本にはこうある上、冒険者ギルドでも依頼で行くとして一番キツそうな土地はどこかという話になると、真っ先にここと南の砂漠地帯が挙がるらしい。

 そんなわけで、行商人もわざわざ危険を犯してまで仕入れに行こうとは思わないのだ。

 道中が危険な上に荷馬車が入れないんじゃ、割に合わないからな。


 こうして旅人はおろか、盗賊や逃亡者すら立ち寄らない秘境も秘境の土地。

 そう、もはやホワイトエンドの町は辺境という枠すら超え、秘境という扱いなのだ。

 王国はそのような最果てにまで割ける予算はないとし、憲兵隊の支部がホワイトエンドに作られることはなかった。


 …………そのはずなのだ、が。


「……さて。こいつによれば、どうも目的の町はここらしいな」


 粗末な地図を開きながら、俺はひとり呟いた。

 顔と図面をつき合わせたまま、軽く視線だけ上げて見やるのは、土を踏み固めて作られた道の先。

 簡素な門と木の柵で囲われた土地に、ポツポツと木組みの家が立ち並んでいる。


「……ここがホワイトエンドの町、か」


 故郷、オブディシアからの異動を命じられて一〇日。

 渡された地図を頼りに、すたこらと歩いて来たわけだが。

 どうやら俺は、ついにホワイトエンドの町に着いてしまったようだ。

 まあ、ジャックが言っていたほどの島流しっぽさはまだ感じていない。

 針葉樹の大森林も、言うほど大したこともなかったしな。


「なんというか、これは想像以上だな……」


 それにしても、聞きしに勝るとはこういうことなのか。

 目の前に広がる光景に、俺はかなり驚かされていた。

 これが最果ての町、秘境の町なのか……!

 家屋の数は少なく、しっかりとした造りだがどれも小さい。

 今いる位置が悪いのか知らないが、人の姿が見えないのも余計に不安を煽ってくれる。

 門番すらいない様子だが、勝手に入っても大丈夫だろうか。


「……場合によっては門番も俺の仕事に入りそうだ。暗くなる前に町長と挨拶をして、その辺のことも含めて訊いておくか」


 そう独り言ちて、俺が正門をくぐろうとした時だった。


「ねえねえ、おにいさん! ここで何してるの?」


 背後からかけられた、はつらつとした声。

 振り向くと、そこには明るい髪色の女の子が立っていた。

 やや低めの身長に、森に入っても動きやすそうな服装。

 焦げ茶色の四角い大きな肩掛け鞄を斜めに提げ、両手で鞄のベルトを握り、満面の笑みを浮かべている。


「俺か? 俺はユージーン・マクギーニーだ。君は、この町の子かな?」

「うんっ! わたし、フランシスカ! この町の子だよ!」


 返事と共に、女の子は元気よく手を上げた。


「よしわかった。よろしくな、フランシスカ。ところで、お嬢ちゃんはこの町の町長さんの居場所を知ってるかい。もし知っていたら、教えてくれるとありがたいんだが……」


 軽く屈んで女の子と目線を合わせつつ、訊ねてみる。

 今の訊き方はなんだか、聞く人によっては誤解を招きそうだな……。


「俺はこの町に配属……この町でお仕事をするように偉い人から命令されて来た、国家憲兵……町を守るのがお仕事の兵隊なんだ。今さっきこの町に着いたばかりだから、暗くなる前に町長さんに着きましたって挨拶をしておきたいんだよ」


 誤解を与えないよう軽く補足、説明をしておく。

 すると、フランシスカは両手をパチンッと合わせた。


「そっか! じゃあお兄さんは、みんなが言ってた憲兵さんなんだね!」

「ああ……。どういった話だったのかわからないが、多分その憲兵だな」

「あのね、あのね! とっても遠いところから憲兵さんが町に来るんだって、お父さんたちが話してたんだよっ!」


 それはなんとも……。

 彼女のお父さん方がどういった意味で憲兵の話していたのか、気になるところだな。

 俺もここには異動を命じられてやって来たわけだが、まあ考えてもみるといい。


 王国の決定だか知らないが、突然町によそ者がやって来るのだ。

 おまけにそのよそ者は、治安維持だのなんだのと言って、我が物顔で町に居座るという。

 事前に通知があったとはいえ、いきなり町に駐在所を設立しますというのも困った話だろう。


 あまり警戒されてなければいいのだが……。

 

「あっ! えっと、憲兵さんは町長さんに挨拶したいんだよね?」

「ん、ああ。……できれば暗くなる前に訪ねておきたいかな。お嬢ちゃんも、晩御飯の途中にお客さんが来たら、困るだろう?」

「え? 困らないよ? みんなでご飯食べた方がおいしいもん!」

「……俺もそう思うよ」


 同意を受けたフランシスカがにっこりと笑う。


「よおーっし! わたしが町長さんのとこに案内してあげる!」

「おお、それは助かる。頼むよ」

「まかせて! 憲兵さん、こっちだよっ!」


 駆けだしたフランシスカの後を追い、俺は町の正門をくぐった。

「辺境に左遷された憲兵、田舎暮らしを享受する」を読んでいただき、ありがとうございます。

少しでも面白いと感じていただけましたら下記にあります、☆☆☆☆☆での応援をしてもらえると嬉しいです。

こちら、作者の執筆活動の糧になります。


評価するのが面倒! べつにやりたくないよ! という方はなにとぞ、ブックマークだけでもよろしくお願いいたします。


以上、後書き失礼いたしました。

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