第4話『ペットで稼ごう!』
春日美 信乃は28歳である。
⋯でなくて、私、春日美 信乃はベテラン魔法少女である。
小学4年生から、18年。
人生の半分以上の時間を魔法少女としてやってきた。
会社員だったら部長とかになっている頃なんだろうか?
決して無職無収入では無いし、アクトゥー狩りは社会へ貢献していると言っても過言ではない。
もっとも、魔法少女である事を公言するワケにはいかないので、事情を知らない近隣の住民からすれば、毎晩近所を徘徊する無職だと思われるのは仕方がない事だとも思う。
最近飼い始めたハムスターのキミコが可愛くて、それをお母さんに写真を送って自慢したら何故かスゴいキレられて、そして長々と説教された。
別にキミコの事が気に食わなかったワケじゃないそうだけれども、普段からずっと溜め込んでいた私への心配や怒り、悲しみといったいろいろな思いがなんか、こう、久しぶりの連絡でのんきに背中の毛が星模様で〜とかペット自慢されて、突然プッツンしてしまったそうな。
お母さんキレる57歳かよ、って小さい声で言ったら聞かれてて、また更にキレられた。
何の仕事をしているのか聞かれても、ずっとあいまいな返事をしていたから、どうもお母さんは、私がいわゆる夜のお仕事をしているかも、と思っていたそうだ。
そういえば大家さんにもそう思われていた。
そんな訳無いだろう。
こちとら中学2年のバレンタインデーで渡したチョコレートを断られたあの日から、男とマトモに話した事ねえんだよ。
なんだよ受け取り拒否って。タダなんだからもらっとけよ。その日から私のあだ名はブーメランチョコだったんだぞ。よく不登校にならなかったな私。
そんな誤解を解くために、私はお母さんに18年守ってきた秘密を打ち明けた。
お母さん、私ね、魔法少女だったんだ。
すんごい呆れられた。
いい年して何してるんだって、アンタ今年で28歳でしょ! もう少女って言っちゃいけないトシでしょ!
こないだ里帰りしてきた幼馴染のユカリちゃんなんか、公務員でもう結婚して子供2人も居るのよ!
お母さんもう恥ずかしいわよ!
だってさ。
うるせえ、恥じらってんじゃねえよ! それにユカリちゃんとはオママゴトの配役で揉めてから大して馴染んでなかったよ!
だけれども、お母さんから知らされたユカリちゃんの結婚子持ち報告には正直驚いた。
驚愕したと言っていい。
だってユカリちゃん、アイツ、アイツは⋯⋯
アイツも魔法少女だったんだぞ!!
それが公務員で結婚して2人の子持ち!?
魔法少女との兼業なんて出来るハズがない。辞めたのか?やっぱり魔法少女辞めていたのか!?
うおおお、クッソおーーーー!? アイツ、いつの間に魔法少女辞めてたんだよ!
裏切り者め! 裏切り者めぇッ!!一人だけ抜け駆けしやがって!!
後日、コナに聞いたら高校受験勉強の時には辞めていたらしい。めっっちゃ前だった。
ユカリちゃんの現在にショックを受けた私は、悩んだ末にコナへ魔法少女の引退を打診した。
そして今日。
「そんな、信乃ちゃん、魔法少女を辞めるなんて言わないで!? 正義の心を取り戻してよ!!」
面談に来たコナは悲壮な表情で私を引き留めようとした。
わざとらしい演技しやがって。
「私もう十分戦ったわよ、そろそろ普通の人生に戻りたいの。普通の会社に就職して、結婚して、充実した生活をSNSにアップしてチヤホヤされたいのよ!」
「信乃ちゃん⋯⋯寝言はね、寝て言うから許されるんだよ?」
「私の人生設計を寝言と言ったか!?」
このガキぃ、ハエみたいに引っ叩いてやろうか?
「信乃ちゃん、まずさぁ、普通の会社って、ドコで働くつもりなの?」
「は?普通の会社って⋯そりゃあ⋯⋯普通の、会社よ」
「仕事内容は?」
「⋯⋯スーツ着て、電車で東京に行って、なんか、パソコンとかカタカタやって、電車で帰ってくるんでしょ?」
「パソコンカタカタってさ、パソコンで何をしていると思うの?」
「⋯⋯⋯⋯なんか、あの、その⋯⋯ローマ字入力、とか?」
「ハン」
「テメエ! 今鼻で笑いやがったな!!」
「だって信乃ちゃんの寝言がとってもしょうもないんだもん。社会人として世に送り出すのは恥ずかしいレベルだよ? 今ヘソで茶が沸いたから飲む?」
「テメエのヘソのゴマでもお茶請けにしてやがれ!」
「実際にさ、今の信乃ちゃんが転職するって相当キツいと思うよ? 魔法少女以外のスキル持っていないでしょ?スキル無しでの就活が許されるのは新卒だけだよ、高卒後十年職歴無しの春日美信乃さん。それとも魔法少女歴18年って履歴書に書いてみる?」
「うッ、それ、は⋯⋯うう、スキル、スキル⋯小学生の時にソロバンを、いえ、なんでもないですごめんなさいスンマセン」
あの時、ソロバン教室を辞めてさえいなければ⋯
「本当に辞めたいなら止められないけどさ、次のお仕事に就けないと、本格的に無職だよ? それに貯金はあるの? コンビニ弁当とか期間限定スイーツとかばっかり食べてたらお金貯まらないよって注意したよね?見栄張って100円募金して後悔してたよね?あのスパチャしたVチューバー不祥事で引退したよね?推しグッズもフリマアプリで売れないゴミになってたよね?年末の宝くじ全部外れたよね?この部屋立ち退き要求されていたよね?この前お母さんにも5万円借りてたよね?」
そんなにボロカス言うことないじゃん!
「うっ、うう〜」
「ああっ、ごめんね〜、泣かしちゃったね〜。も〜う、しょうがないな〜信乃ちゃん、反省してくれたなら、いいお話をしてあげる」
「ずびッ、ヒック、い、いい、はなじ?」
「そうだよ〜、まず信乃ちゃん、今のアナタに必要なのはね、お金と時間なんだよ」
「ヒック、おがねど、でぃがん」
「そう、お金が有れば生活の為に魔法少女をしなくても良いし、引っ越し費用も安心。時間ができれば転職に必要なスキルを勉強する事ができちゃうの」
「ぐすッ、私、どっちも無い」
「ところがデスね、あるんだな〜それが! みて下さいよ、この子を!!」
そう言ってコナが指差したのはゴールデンハムスターのキミコ。
一生懸命に種を口に詰める姿が愛くるしい。やめて、そんな無垢な瞳で私を見ないで。
「実はですね、ちょうど昨日からゼーゲンの法律がかわりましてデスね!なんと、ペットの子を魔法少女に変身させる事が可能になったんですよ!いゃあ〜信乃サンあなた本当に運が良い!」
「へ? キミコが魔法少女に?」
「そう!この子、魔法少女の才能あるのよ、実は法案通った頃から目を付けていたんだよねだからやるわよ?いいわね、シャい! オネ! イサンドウーッ! イッパァーッ! イカッセゲルヨーッ!!!!」
そう言ってまくしたてたコナは、私の返事を待たずに覚醒魔法をキミコに放った。
変身の光
それが収まった時、キミコの居たケージを突き破って小学生くらいの女の子があわられた!
か お が デ カ い ィ ッ !!!!
なんだこの子! オカメ顔とか、そんなちゃちなモンじゃあねえ! とんでもなく顔がデカいぞ!?
「もっ? ⋯⋯ヒマワリの種が、小さくなっちゃった!?」
「ッしゃあッ! ペット変身第一号例確保おッッ!! これで査定アァップ!!」
「ねえなんで顔がデカいの!? この子大丈夫なの!?」
そうして始まったキミコとの新たなる日々。
何も知らないキミコに魔法少女の先輩としてアクトゥー狩りのイロハを叩き込み、一人でパトロールを任せられる様になってからは、それぞれ別の地区をパトロールして収入の底上げをはかり、そろそろ引っ越し資金の目処がついてきた頃に⋯⋯
「魔法少女集会? そういえばずいぶん久々じゃない」
荷造り中の段ボール箱の上に腰掛け、足をブラブラさせながらコナが話しかけた話題に、私は作業の手を止めた。
「そ、ここ2年は魔守沢どころか、市の北地区で魔法少女は信乃ちゃんだけだったからね〜。アタシも査定が下がって大変だったんだよ」
げ、マジかよ、クソッ、妙に広い範囲のパトロールを奨励されてるとは思ったんだ。
もしかしてゴネてたらパトロール料引き上げも出来てたのか?チクショウめ。
「キミコちゃんの他に2人のペット魔法少女が増えたから、その保護者込みで集会しようかな、ってね」
一人のことはキミコから聞いていた。
恐ろしいヘビの魔法少女だったらしいけれども、先日トモダチになれたらしい。保護者としてホッとしている。
「ユカリちゃんが居た頃の5人体制まで持っていきたいんだけれどね〜誰でも良いワケじゃあないのよ」
コナの指がハムスター形態でご飯休憩中のキミコの背中、その星模様をなぞる。
この子、まさかジ◯ースターの血統だったりしないよね?
「そういえばペット魔法少女って飼い主が居るんだったっけ?どんな人なの?」
ヘビなんか飼っている人って、たぶんなんか変な人だよね?
「う〜ん? 神?」
「GOD? 魔法の国の人?」
「ん〜ん、ここの現地人、そして爬虫類の神だよ」
なにそれ? もしかして自分で神を名乗るヤバい奴なのかな? お近付きにはなりたくないかも。
「集会はいつになるの?」
「信乃ちゃんの引っ越し予定日の2日後だよ、町内の集会所を押さえてるから、オヤツは自分たちで持って来てね」
以前にあった魔法少女集会のパターンの一つだ。
私はコーラとじゃ◯りこでも持って行こうかな。
「それじゃあ、引っ越しが遅れない様に頑張んないとね」
そして私は中断していた作業を再開するのであった。
引っ越しの日、つつがなく新居へたどり着きキミコと一緒に荷解きをする。
同じ街だが駅を挟んだ反対側で、土地としては引っ越しの新鮮味は薄い。
だけれども新居に乗り込んだら話は別、久しぶりの引っ越しは私に心機一転の気持ちをもたらした。
ここから私は変わるんだ!
魔法少女を完全に引退して、バリキャリOLになって、イケメン彼氏とのシャレオツなデートをSNSにアップして万バズとかして、夜景でゴージャスなレストランでプロポーズされちゃったりとか、君の瞳が乾杯とかなんとか、いろいろ凄くなるんだ!!
「広いお家だね、お姉ちゃん!」
人間モードを獲得したキミコと2人での生活を考えて、前よりも広い部屋にした。
前より広くて、駅近で、新しくてペットも可、なのにお家賃も安いだなんて、ホント最高、テンション爆上がりだ。
2人でくるくる回って踊る。
なんだか楽しくなってきた!
高らかに鼻歌を歌いながらベランダに躍り出る私、気分は魔法少女アニメの主人公!
「あ、どうも初めまして」
隣 人 だ あ あ ぁ ! ! ! ?
ベランダで鉢合わせた!
バカみたいに鼻歌歌って踊る姿を見られた!
イヤアアアアッ!!!?
ウギャー!!恥ずかしい!死ぬ!殺して!殺せ!
「ははっ、引っ越しはテンション上がっちゃいますよね」
私の奇行をフォローしてくれたのだろうか?
だとしたら優しい。
背の高い男の人だった、180センチは超えている、と思う。
年齢はよく分からない、20代、30代のどちらと言われても納得しそうだ。
それ以外に特別な特徴を挙げづらい容姿だけれども、それは逆に言えば整った容姿とも言う。
あとなんかいい匂いがしてそう。
「あっ、あっ、その、ど、どもです。ここ、今度、あのその、越してきた、春日美 信乃です、はい、あ、あっあの、よろしくお願いますッ」
おおっ! 優しそうな人だからだろうか、久しぶりの男相手にしちゃあ結構話せたっぽいぞ!
「はい、俺は塚井と言います。こちらこそよろしくお願いします」
「へっ、ヘヘッ、よよよろ、しくどどうぞぅ」
よし、コレはかなり会話が弾んだぞ!
まわれ右をして室内に戻る私。
ドサッ!
そして室内に入ったところで腰が砕けて床に倒れる。
アレがお隣さんなんですねぇ⋯⋯
「お、お姉ちゃん!? どうしたの!?」
私を心配するキミコに、心配するなと鼻血を拭い、親指を立てながら応える。
「キミコぉ⋯⋯引っ越しって、良いね!!!!」
立ち退き料が出ないのも家賃が微妙に高かったのも信乃ちゃんが世間知らずかつ大家さんが邪悪だからです。




