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魔法少女ペッツ  作者: 小潟 健


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2/2

第2話『戦う理由』

午前2時半、まだ草木も眠る丑三つ時だが、白蛇トグロちゃんの朝は早い。


妖精コナの襲撃の後に新調された、以前よりも大きなガラス張りのお家で目覚めた彼女が、まず先に確認したのはトグロちゃんの『神』たる塚井。


彼は寝床で布団を被り、こちらには背中を向けている。規則的に呼吸する様から、熟睡しているであろう事が伺える。


好都合だ。そう判断したトグロちゃんは行動を決意する。


お家の中、足元を確認して魔法少女へと変身。

魔法陣の発光は数秒で、背中を向けている神の眠りを妨げる程では無いだろう。


そっとガラスの隙間に、人間モードになる事で獲得した指を添え、スルスルと動かす。人間の手指はとても便利である。

トグロちゃんが魔法少女になった日から、神はお家のドアに鍵を掛けなくなっていたので出入りは自由だ。


ドアを抜けた先、神の領域は天井の灯りが消え、厚いカーテンの閉められた真っ暗な部屋だが、ヘビの熱感知機能をもってすれば昼間と変わらずに動く事が出来る。

動物魔法少女の強みは、人間と動物両方の能力のいいとこ取りが出来る事だ、とコナは言っていた。


そろりそろりと、足音ひとつたてずトグロちゃんは神の横を素通りし、音も無く隣室に入って行った。


トグロちゃんの入った隣室はダイニングキッチン、一人暮らし向きの簡素な調理台を備えた部屋だ。


トグロちゃんは冷蔵庫に向かい、ドアを開ける。中を物色するまでも無く、お目当てのモノを見つけた。フリーザーバッグに入った冷凍マウスだ。

前日から冷蔵庫に移してあるので、解凍マウスと言っても良いだろう。

解凍マウスを手に取り、そして下の冷凍庫を開けて、フリーザーバッグに個包装された冷凍マウスをふたつ取り出し、解凍マウスのあったスペースに収める。

つまりローリングストック、きっとこういう事をサステナビリティと言うのだろう。

とてもアグリーなアジェンダでレバレッジすべきアセットかつコンセンサスにはエビデンスとナレッジのフィードバックをアザップにスキームしてアライアンスしたい、とトグロちゃんは思った。


冷蔵庫を閉じたら、次は水切り場に置いてある片手鍋を手に取り、火にかける訳では無いが、コンロの上に置く。

そして中に解凍マウスのフリーザーバッグを安置した。


次に用意するのは電気ケトル。

まずは目盛りの半分を僅かに超えるところまで、水道から水を注ぐ。

設定は、普段使用する時のままから変えず45℃。人肌をいくらか超えた程度の温度。

あっという間にすぐに沸いたぬるま湯を片手鍋に注ぐと、マウスの入ったフリーザーバッグがひたひたに浸かる。


ここからが辛抱の時間。

温め終わるまで、20〜30分はかかるのだ。

数分たつと片手鍋に注いだ湯の熱は、冷蔵庫から出たばかりの解凍マウスに奪われ冷たくなる。

そうしたら、冷えた湯を交換する。

先程、一度空になった電気ケトルには既に新たな水を足し、湯を沸かしていた。


片手鍋の中のマウスを再び、ぬるま湯に浸ける。

一度に温めよう、などと焦ってはいけない。熱々の湯で温めるとタンパク質が変性し、肉が固まってしまう。

ネズミの丸呑みは、温かい生でなければならぬ。

茹で上がって硬くなったネズミなど、美食家であるトグロちゃんにはとても食えたものでは無いのだ。



繰り返し湯を交換するうちに、どうやらネズミが芯まで温まり、食べごろになった。


湯を捨て、フリーザーバッグからネズミを取り出し、大きな白い皿に盛る。


イスに座り、テーブルにてネズミと正面から向き合う。こんにちは、と言葉にはせず、目だけで挨拶。

皿を両手で掴み、左右にゆらゆらと揺らす。そうすると、まるでネズミが『食べて♡』とアピールしているかのようだ。

この一手間が最高のスパイスになり、トグロちゃんの食欲は最高潮に達する。


それではネズミさん、さっそくですが、いただきま「な〜にをしているのかな〜? トグロちゃん」


「なん、だと?」



神にナイショの間食を見られてしまった。






ぷよん、ぷよん


「おぅふぅ」


ポッコリと膨らんだトグロちゃんのお腹をつついたら変な鳴き声を出してる。

最近トグロちゃんが太ってきているな〜、と思っていたら、自分でマウスを調理していたとは⋯⋯


コナからの忠告、動物魔法少女の弱点は食欲がバグったりペットフードを盗み食いする知恵や手段を手に入れて太りやすい、とは聞いていたんだけれども⋯⋯


まさか、特に根拠も無く信じて野放しにしていたウチのトグロちゃんが、腹パンパンになるまで盗み食いする卑しん坊さんだったなんて。


腹肉を掴み、持ち上げて、放す。


ボヨン


「重力を感じる」

存分に感じるがよろし。


しかしこのワガママボディ、面白くはあるが健康に良くはない。俺の管理不行き届きだから責任を感じる。

さっきのマウスも結局食べさせちゃったのは甘い判断だったかも。


「トグロちゃん、ダイエットしようか」


「⋯⋯ネズミ、2等分されちゃうの? 縦? 横?」


悲痛な表情を浮かべるトグロちゃん。君、表情筋機能しているんだね、動いたところを初めて見たよ。


「食事制限よりも運動をしよう。あと、間食は禁止ね」


縦でも横でもマウス真っ二つは俺も大変なので、無難で健康的な手段でいこう。


「運動?⋯⋯ネズミ飲み運動?」


「そうだなぁ⋯パトロールを増やそうか」


はは〜ん。 コヤツ、実は反省していないな。





そして俺達は夜が明けるのを待ってから家を出た。

深夜に見た目が小学生のトグロちゃんを連れ歩いてる所を見られたらコトだからね。


今回のトグロちゃんの格好は、魔法少女の衣装の上にジャージを着せたもの。

人間モードだと魔法少女衣装が固定されるから、他の格好をするには上に大きい物を着るしかないんだよね。

スカートや各部の装飾がジャージを押し上げてモコモコとしている。


ヘビモードでのお散歩も考えたけれども、首輪とリードの用意が無かったからそれはまた次の機会にでも取っておこう。


「それじゃあトグロちゃん、行こう」


「御意」





魔法少女の主な活動はパトロールだ。

魔力圏を展開して担当するエリアを見て回る、そしてアクトゥーを見つけたら襲う。


「ワンワンワンワンッ!!」


「⋯⋯異常なし」


「ワンワンワンンワンワンワンワンッ!!!!」


近所で1番立派なお家の塀によじ登り、その上から上半身を乗り出して中を覗き、番犬に吠えられまくりながらトグロちゃんが報告をしてくれる。


わざわざ目視しなくても魔力圏内のアクトゥーを感知できるらしいけど、自分の目と足で見て回る探検が楽しいのかも知れない。


魔法少女を始めてから3週間、何度かパトロールをしたけれど、俺の背負うリュックから頭だけ出しての散歩とは違うんだろうな。


「⋯⋯異常なし」


ひっくり返した石の下、しばらく監視されたダンゴムシ氏の疑いは晴れたらしい。


高い所に登ったり、藪の下に潜り込んだりと、トグロちゃんのパトロールはアクトゥー探しというよりも、ただの子供の探検になってしまっている。


だが、俺としては問題無い。

俺の1番の狙いはトグロちゃんの運動によるダイエット、アクトゥーなんてついでだ。

それにアイツらは毎日パトロールしてもそう見つかるモノではない。俺たちも出会ったのは初日だけだ。


都心部や大きなイベント会場なんかだと、けっこうな数が発見されるらしいが、こんな住宅街での発見は月に一度有るか無いか程度だそうだ。


週末に自治会館で開催予定の町内魔法少女達との顔合わせの時には、そこら辺の詳しい話を聞いてみたいものだ。


「トグロちゃ〜ん、電線は危ないから降りて来なさ〜い」


「⋯⋯承知」



コナに指定され使用しているタイムカードアプリを確認すると、そろそろパトロールを始めてから2時間が経過しそうだ。


それなりの運動にはなったかな?


「トグロちゃん、どう? パトロールをもう少し続ける? お家帰る?」


運動初日だし無理はさせない。脂肪はね、一度に燃焼させるもんじゃあ無いんだ。毎日毎日じわじわと、時間をかけて、じっくり丁寧に炙ってやるんてすよ。


「⋯⋯公園も行く」


続行が決まった。まぁ、本人の体力に問題無いのなら俺が止めるものでもないだろう。

空き家の屋根から雨樋を伝って降りてきたトグロちゃんはブロック塀に飛び乗り、その上で匍匐前進を始める。


俺も子供の頃は、塀の上や屋根の上を伝い走る忍者の妄想とかしたよなぁ⋯


まさか実物を拝める日が来るとは、感慨深いものです。





トグロちゃんの言う公園、魔守沢第2公園。

通称『カンチョー公園』に辿り着いた。

公園の真ん中に鎮座する噴水の形が、イタズラでするカンチョーの手の形に似ている、と、どこぞの悪ガキさんが命名したモノが定着してしまったと言う、大変に不名誉な名の公園だ。


中央のカンチョー噴水や、まばらに設置された古い遊具、手入れの足りない鬱蒼と繁った植樹やあちこちから生える雑草により、全体的に暗くジメッとした空間は人間よりも動物達に人気が出そう。

確か、前にタヌキの目撃例があったはず。


高齢者の出現数が増えやすい平日の朝だけれども、ラジオ体操やグランドゴルフをするには向かない立地だから人影も無い。


トグロちゃんはさっそくお気に入りの木に、スー、スルーって、登っていって、枝に垂れ下がったのだけれどもね⋯


太っているせいなのかなぁ、前日よりもね、枝が大きく、すごく、しなっている様に見えるんですよねぇ⋯⋯


へんだなぁ〜 へんだなぁ〜


おかしいなぁ〜 おかしいなぁ〜


いやだなぁ〜


こわいなぁ〜



そう、俺が思っていたらですよ⋯⋯



メェッキイィッ!!



って、とんでもない音がして


ああッ!? トグロちゃんお気に入りの枝が! 


折れた!!



「ぎゃふんッ!?」


クラシカルな悲鳴を上げて墜落したトグロちゃん。唖然とした様子で、さっきまで自分がいた場所で、折れてぶら下がる枝を見上げている。


いちおう受け身はとっていた様だが、大丈夫だろうか?


「トグロちゃん、ケガは? 痛い所は無いない?」


「⋯⋯体は、無事」


ああ、それなら良かった。

俺はホッとして胸をなで下ろす。


だが、トグロちゃんの表情は優れない。


「⋯⋯神よ」


「何だい? トグロちゃん」


「⋯⋯パトロールを、続ける。 アクトゥーを⋯⋯倒す」


土と悲しみを振り払い、トグロちゃんは立ち上がった。


「そして、ダイエット成功してみせる」



どうやらトグロちゃんは、今ここで戦う理由を見つけた様だ。


決意を新たにしたトグロちゃんは、俺の手を取り公園の外に向けて歩き出す。

折れた枝に振り返らない。振り返っても、あの居心地良い場所はもう無いのだから。

前に進み、新しい大切な物を探すべきなのだ。


俺も器物損壊罪や損害賠償とかが怖いので振り返らない。

明日にはあの枝の事を積極的に忘れようと思う。



頑張れトグロちゃん!


負けるなトグロちゃん!


適正な体重になるその日まで!!


その時にはまた、他の良い枝とか見つかるといいね!!


植物は大事にしましょう。

罪は隠さずにきちんと罰を受けましょう。

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