31話 クランルーム
グランドマスター、アビ・ザカンデ氏からの依頼は、
『王都メル・スエリィーアの港に程近い海辺の洞窟付近で失踪事案が頻発。合わせて同エリアでシーサハギンと邪教徒達の目撃情報が多い。魔族やリバーサハギン退治の実績のある俺達に現地調査隊に加わってほしい』
という物だった。
「またサハギンかぁ。オイラ、サハギンになんの感情もないんだぞ?」
「いやそれは皆ないけどっ。まぁ海生種でも交戦経験のある相手ならやり易い、かな?」
「今回も変身するんちゃう?」
「上位個体ニ異常強化りすく」
「邪教徒も気になりますね」
俺達は本部の、攻略団用の協議室が並ぶフロアに個室を一室をあてがわれ、そこで話していた。
元々規模がある上に今は国中から人材が集まってる。冒険者達は常には本部に居ついてないはずだが、今は中々の混み様だった。
皆腕利き揃い。前の俺なら気後れして、部屋に入るまでリリン監督の後ろにスッと下がっていただろな。今も落ち着くってことはないけど···
「うん、王都味だぞっ☆」
ミゼヤッポの要望で、同じフロアにあるラウンジスペースで頼めたフィッシュパイとクッキーシュークリーム的な郷土菓子と茶も頼んでいた。
菓子も美味いけどフィッシュパイは洒落た味と見た目で、都会だなと。パイ生地が薄くて折り目が餃子の皮的に装飾され、柑橘果皮を刻んだのとかが魚の切れ目に仕込まれてんだ。
なんて話しながら感心もしてると、
「ん?」
「秘書官ノ生体反応デス」
確かに、さっきのグランドマスターのエルフ秘書官の気配を感じ、足音が近付きドアがノックされた。
「ネラフ・ビルベリーだ。よろしいかな?」
俺達は顔を見合わせた。
「ええですよ? どうぞ」
「失礼しますよ」
秘書官兼補佐役でもあるらしいネラフ・ビルベリー氏。長命種エルフ。容姿端麗、魔力の強い種族。兎のようによく動く長い耳を持つ。
この世界ではあまり一般世間に関わらないスタンスの種族ではあるが、冒険者界隈では遭遇率高めの種族ではある。
ハーフだがユミィもエルフの血だ。
「実は、少し別件にも人員を回してもらえないかな? マスターはざっくりしているので、戦歴から全員海辺に回すことを提案したがね、街中や他にも色々ゴタゴタしていて。こちらがクエスト候補なのだけど···」
神の候補リストを1枚と簡易版の補足資料の束を念力特性のワンドでテーブルに置くネラフ・ビルベリー氏。
「4人を2人ずつに、ですか?」
「部屋はお借りしましたが、わたくし達はクランまでは率いておりませんが」
「いや近場のクエストだよ。それに今の状況で使える人員自体は多いから、多少の融通は」
確かに、衛兵も教会僧も山程いるし、騎士団や冒険者。自警団は治安維持的に禁止されているが、個人や事業者等が護衛団もあちこちで組んでる。
資料をまだ詳しくは読み込んでないが、海辺の調査隊も300名を越える規模たった。
「海辺の探索は騎士団主体。簡易な教会主体のクエストの方にも顔を出した方がいいんじゃないかと」
「お愛想しろ、ゆうことですか?」
「支払イデスカ? ナゼ??」
「国直属の騎士団と、勇者のことを知る者もいるこの国の中央聖教会とは早めに接触しておいた方がいいでしょう」
なるほど、そんな感じか。特に教会は、俺、今採点されてるんだろな···
「加えて海辺のクエストは私の感触では大事になりそうで、進行すれば掛かり切りになるはず。提案したクエスト候補はどれも軽めで、中途でも抜け易い物ばかり。顔見せには程よいはずなんだ」
「そういったことでしたら、わたくしもこちらの中央教会には報告に来るよう言われています。わたくしとタケルさんで組むのがよいと思います」
「ほなうちとミゼヤッポは海の方で、ざっと様子見る感じやな」
「海の方が美味しい物ありそうだぞ?」
どんどん進んでくが、うーん。妥当なのかな?
「俺も···それでいいですけど」
「そうかい。ではそのリストの中からよき物を選んで1階の一般受付ではなく、2階の上級者向けの受付で届けを済ませておいてね」
「はぁ」
この人、グランドマスターの秘書官兼補佐だよな? 一応、俺勇者ではあるけど、結構面倒見がいいな。ランダンさんもある意味面倒は見てくれたけど、相撲部屋の師匠的なアレだったから···
「ビルベリーさん、これ言いにわざわざ自分で来てくれはったんですか?」
お、リリンいった。
「私ノ機体こーどハ登録済ミ。めっせーじ受信ハ可能デス」
スマホかな? それはともかく!
細目で柔和な表情を崩さなかったネラフ・ビルベリー氏はこれに少し不敵に笑った。むむ?
「ふっ。実は改めて噂の勇者殿と話して見分してみようと思ってね」
「ええ〜?」
ここでも採点されてた?!
「タケルはそこそこポンコツだぞ?」
「ミゼヤッポっ」
自覚はあるが!
「ふふ、神は『伸び代』を期待したのかもしれないね。改めて話せてよかった。それでは···」
細目の秘書官兼補佐役ネラフ・ビルベリー氏は退室していった。
「伸び代やって! ええ風に言うてくれたやん?」
「タケルさんはやればできる人ですもんね?」
「ドンマイだぞ、タケルっ!」
「現在ノたけるノ精神すてーたすハ、C+」
「···俺のことはもういいから教会系クエストっての、選ぼうよ」
若干不貞腐れつつ、俺達は海辺クエストの読み込みは一旦置いて俺とユミィ用の顔見せクエストの選定を始めた。
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繁華街の裏通り奥に隠された灰の装束の者達の拠点は騒然となっていた。
上役らしい灰の装束の面の女が、下位の装束の男の面を握り潰すように片手で抱え上げていた。その手のみが鳥の鉤爪のように変化している。
「ぎゃああっっ」
「上手く、潜入しましたね。墓石を買う手間を省いてあげましょう」
鳥の鉤爪の手に妖しい魔力が込められ、抱えられた男は石化して砕け散っていった。
「···密偵は始末しましたが、ここは教会の手の者に特定されつつあるようです。各、団はそれぞれの使命に応じ個別の2次拠点に手早く移りなさい。私は『砦』の手伝いにゆきます」
鉤爪の上役は邪神の彫られたネックレスを起動させ、テレポートしていった。
「儀式途中だが止むを得まい! 支持通り動けっ、使命は2次拠点で続行だ!!」
邪神の信徒達とそれを統べているらしき灰の者達達は慌ただしく撤収作業を始めた。
様子を見ていたウーシエはこの地下施設担当であった為、意志薄弱気味の信徒達の誘導を始めたが、
「おいっ! 人形っっ。お前は目障りだ。シーサハギンどもの支援に回れ」
「···わかった」
まったく担当ではなかったが、口の悪い上役の灰の者に目を付けられていたウーシエは反論せず、立ち去ることにした。
「魚人どもも人形等は齧らないだろう! ははっ」
嘲笑は背中で聞き流す。初見で特別扱いの新人にありがちな経緯で絡まれた時に、反射的に炎で振り払ったのがマズかった。
以後、ずっとこの調子であった。
(まだ船に乗ってない。海なら調度いい)
生前、働いたこと等なかったウーシエは、自分を誤魔化して納得させる程度には世知を知り始めていた。




