第五十九章
アイリス姫は典型的な高い地位の娘だ。だから当たり前のように朝に弱い。
だがそんな彼女が、今はちゃんと寝間着から着替え、椅子に座っている。
早朝から来客があったのだ。
「それで、私に何のようですか? トルヴァドールのウィル」
ウィルの前で、アイリス姫の表情は強ばっている。
「君に渡したい物があってね」
ウィルは持っていた白い箱をアイリス姫に渡し、テーブルを挟んだ彼女の対面の椅子に座る。
「これは……?」
「開けてごらん」
アイリス姫は怪訝な様子で、箱を開ける。
はっと彼女は息を呑み、中からウサギの縫いぐるみを取り出した。
ウィルの存在など忘れたかのように、大事そうに抱きしめる。
「……あなたが探してくれたの? ウィル」
「違う」ウィルは口辺を引き締める。
「言うな、と約束していたのだが、君は知って置くべきだから言う。探したのはルナだ」
「ルナ……」
「そうだ。危険なロドリン地区のゴミ山から、何日も休まず、それを探して来てくれた」
「……そう」
「僕は、それを昨晩無理を言って洗ってもらい、暖炉で乾かして持って来た。それだけだ」
「…………」
じっとアイリス姫は何かを考えている。ウィルの話、本題はまだ終わっていない。
「君はブッフバルト夫人に苦しめられているね。どうやら彼女は教育をはき違えているようだ。生徒を徒に苦しめる教師など、論外だと、僕も思う」
ブッフバルト夫人の名を出され、アイリス姫の目がついと上がる。
「だから、彼女を君の教師から外そうと思う」
「でも、ブッフバルト夫人はお母様がご自身で選ばれたのよ。そんなに簡単にはいかないわ」
「母上も納得してくれるさ」
「そうね」アイリス姫の言葉には険がある。
「あなたの言うことなら聞くしかないわね、ウィル」
「だがその代わり、僕の条件を呑んで欲しいんだ」
「何かしら。私はあなたみたいに何かを持っていないわ」
「……侍女のルナを、僕に欲しいんだ。彼女を僕の侍女にしたい」




