第三十八章
ルナは時間を見て、デイミアンとサイモンを話し合いの為に呼び出した。
場所は変わらず、使われていない宮殿から遠い井戸。太陽が沈みかけている青い時間だ。
「フィリッポだと?」
デイミアンが不機嫌そうに繰り返す。
「フィリッポ、ラパロ商会……それが目標か?」
「そうだ」とルナは頷く。
「その人物を調べて欲しい。もしかしてアレクシス処刑での茶番を、先導していたかも知れない」
「茶番ね」
デイミアンの苦い笑みを、ルナは無視する。
「名前からしてオルタルナ出身か」
サイモンは顎を指でつまんで、考えている。
「そのようだ。近年、このエリディスには色んな国から人が来ている。その流れの一つだろう」
「ただ、そいつの居場所がエンディミオン市とは限らない。処刑はエルク市のクレーテウス広場だったろ?」
「ならば遠出をするまでのこと」
「簡単に言ってくれるぜ、ルナ」
デイミアンが、星が瞬き出した空へ向かって嘆く。
「そうでなくても、ここで本来の自分を隠しているんだぜ。外国人衛兵は忙しい。そうそう遠出を企図できない。妙な動きをして疑われるのは難儀だしな」
「お前たちがやらないのなら、私だけでやる。ただ邪魔はするな」
「おいおい、ルナ……お前が一番エリディス王家に近づいている。正直俺とサイモンの線は薄い……一つ確認する。その殺しは必要なんだな?」
「必要だ」
サイモンが乾いた目でルナを一瞥した。
「なら問題ない。ラパロ商会のフィリッポ、私が調べよう。丁度、時間が出来たんでな」
彼が音楽の家庭教師として教えているアイリス姫は、今それらを禁じられている。
「そうか、ならば任せよう」
ルナが言うと、二人の仲間の視線に疑いが混じる。
「……ところで、お前は夜何をしている? 最近宮殿を出ている」
「それか」ふ、とルナは頬を緩めた。
「皆そればかりだな。そんなに私の行動が気になるか?」
「ふざけるな」
デイミアンの言葉には感情がない。ただ冷たい殺気が乗っている。
「まさかと思うが、お前の一連の不審な行動は、アイリス姫の為ではないだろうな。あれは我らの目標の一人だ」
サイモンも暗殺者の空気を纏っていた。
「どうなんだ? まさかエリディス王家のものに、情など湧いてないだろうな?」
びぃん、と空気が張り詰めた。
もしルナが返答を間違えれば、彼女はここで二人により殺されるだろう。
だが彼女は、くふっと犬歯を剥き出す凄惨な笑顔になった。
「情? 私にそんな物が残っているとでも? これは仕込みだ。さらにアイリス姫の信用を得るための仕込み。この宮殿のどこかにいる、王太子ウィルフレッドを探し出すための課程だ。余計な心配など無用」
ルナはしばし二人の反応を持つ。
どうやらここでの殺戮は起こらないようだ。空気がすうっと軽くなっていた。
「仕込みか、了解した。ではそれを続けろ」
デイミアンは、先程までの圧力が嘘だったかのように快活に言う。
サイモンの表情も柔らかくなっていた。
「我らを裏切っていない、当初の目的も忘れていない。なら問題ない。」
「その通り、まあ見ているがいい。では」
ルナは暗室者の会合から一人抜け、エンディミオン宮殿へと向かった。




