第三十一章
「で、どこでお酒を買うんですか? もう夜ですけれど」
「ん? あんた知らないのか? まあ、あまり縁が無いだろうからか」
じろじろと不躾に、コリーはルナの身体を観察して来る。
ルナは完璧な笑顔を崩さない。
「近くに今時分でもやっている酒場があるんだ。そこに行こうぜ」
「分かりました」
コリーが歩き出し、ルナはその後に続いた。
首筋に目がいく。
──もし今、こいつを殺したら、私は疑われるだろうか?
ダンたちにだ。
──まだダメだ、機をうかがえ。
強固な自制心で、ルナは殺意を抑えようとする。
しかし、それらを全く頓着しない痺れるような感覚が心の底にあり、どうしてもコリーの急所を目で追ってしまう。
憎悪だ。
理性や警戒心などに構わず、ルナに殺害を命ずる憎悪が、常に彼女に行動を囁いていた。
前を行くコリーは鼻歌を歌っている……隙だらけた。
──針でうまくやれば、突然の病だとして処理される。
だが、そう天秤が傾き出した頃、目の前に不意に灯りが飛びこんで来た。
「ここだ」
コリーは嬉しそうに声を上げる。
ルナは闇に慣れた目を、瞬かせる。
この時間なのに、窓から眩いほどの光を放出させている、木造の建物だった。
「何ですか? ここ」
「へ、お嬢さんには分からないかな。ここは酒場だ」
ルナは目を見張った。
酒場は彼女も知っている。
大人が昼間から酒を呑んでいる場所だ。
だがルナの前にある建物は、彼女の知る酒場の『形』をしていなかった。
頑丈な木造りの一軒家で、建物の窓全てにガラスが使われ、中の光から察するに、沢山の灯りが使われているのだろう。
彼女が知る酒場は、暗く湿っていて、まるで隠れるようにした酒を呷る場所だった。
当然開いているのは日が高い昼間だけで、夜には死骸のように眠っている。
深夜に開いているなんて聞いたこともない。
「最近の街は夜が主役なのさ。こんな店も多くなってきた」
ルナは思い出す。ゴーチエの馬車からも、夜に灯りが見えた。
暗黒の中を疾駆する刺客にとって、不都合な時代が来ようとしているのかもしれない。
「で、お嬢さん」
コリーはにまっと頬を歪めて、ルナに尋ねる。
「オレはどれっくらい酒が呑めるんだ?」
「……お好きなだけ。私は宮殿に仕えていますから、お金は持っています」
「そりゃあいいぜ!」
コリーの目が輝いた。
「じゃあ早く行こうぜ」
彼は木の階段を軋ませながら登り、ルナは無言で追った。




