第三十章
処刑人コリーが目の前にいた。
不機嫌そうに唇を歪め、ランタンを手にして立っている。
ルナの鼓動が爆発的に大きくなった。不意の怒りに、耳がきーんと鳴る。
手が反射的に簪の針に跳ぶ。
──殺してやる!
だが、吐息のようなダンの言葉に、身体が固まる。
「父ちゃん……」
「ダン」彫像のようになっているルナなどに構わず、コリーがランタンでダンの顔を確認する。
「金はどこだ? オレが稼いだ金だ」
「……そんなの残っていないよ。だからここで何かを探しているんだ」
「ふざけるな!」
コリーの怒声が闇を貫く。
「そんな筈はねえ。金はあるはずだ! これから呑みに行くんだ! 金を出せ」
ルナは気づく、彼女の背に触れているダンの手が震えている。
「……なに言ってんだ」
ブリスが溜まらなくなったのか、小声で反論する。
「あんたが毎日の酒を呑みに行くから、金がないんだ。ダンはだからここでこんな仕事しているんだろうに」
「お? 何か言ったか? ガキ」
コリーが耳ざとく聞きつけ、ブリスに噛みつく。
さすがのブリスも俯いた。
はあ、とルナは熱した肺を呼吸で冷やす。
飛びかかる瞬間だった。感情のまま、コリーを殺すところだった。
幾つも目があるのに。
頭を振って激情を払うと、彼女は口を開く。
「コリーさんですか? 処刑人の」
「ああ?」コリーの眉毛が逆立つ。ルナを警戒しているのだろう。
「私はあなたのお話を聞いていたんです。ダンさんから」
そしてダンたちにひそひそと告げる。
「縫いぐるみをお願いします」
「え? ルナ、どうするの?」
ダンの問いに、ルナは笑みのままコリーに語りかける。
「お酒なら私が払います。ですからあなたのお話を聞かせて下さいませんか? 勇猛なあなたの事を、もっと知りたいです」
コリーの表情が緩む。
「そうかい? お嬢ちゃんが奢ってくれるなら文句はねえんだ」
「では、ダンさん、ブリスさん、コームさん、ゲルトさん……おねがいします」
そう言い残し、ルナはコリーへと踏み出した。
「わかったよ。ルナ、探しておく……ありがとう」
ダンはルナが庇ったのだと理解しているようで、最後に礼を付けた。




