第二十五章
まだ朝靄の中にあるエンディミオン宮殿に到着すると、ルナは馬車から跳ぶように降りた。
「ありがとうございます、ゴーチエさん。ではまた今夜」
「お、おう」
ゴーチエは異論がありそうに口を開くから、ルナはその場から素早く離れる。
玄関から宮殿内部に入ると、彼女は少し考えた。
もはや眠る時間はないだろう。すぐに朝の勤めに入るべきか、それでも少しでも休むべきか。
「ルナ!」
思案するルナだが、誰かに呼ばれて視線を動かす。
ウィルだった。この男はこんなに朝早く何をしているのだろうか。
恐らく昨晩、どこかの女官の部屋にでもいたのだろう。
「君は何をしているんだ、こんなは早く。窓から見ていたぞ、馬車で帰って来ていたな」
ルナは少し苛立った。寝不足だろうか。
「ウィル様は私を監視なさってるのですか? 夜の散歩です」
「馬車まで使って? はあ」
ウィルは何か嘆息している。
「僕は君が全く分からない。こんなの女の子は初めてだ」
「あなたが今まで付き合って来たたくさんの方々も、きっと個人個人で違うと思います」
ぐっとウィル喉が鳴る。失言に気づいたのだろう。
「いや……そんなに多くはないよ……」
「何ですか? その妙な言い訳は。どちらにせよ、私には関係ないことです」
「……君は本当に辛いなあ……て、何か臭うよ」
どうやらゴミの中にいたので、知らず汚れているらしい。
「失礼ですよ、淑女に向かって」
ルナはウィルを拒絶するように背を向けて、その場を去った。




