第二十章
幾つもの小山が闇の中で蹲っていた。
ロドリン地区のゴミ集積所は、いたる場所から運ばれたゴミにより溢れている。
思わず顔を背ける。
食べ残した食料等もあり、酷い臭いが鼻に襲いかかる。
見つけたゴミ集積所は、思った以上に規模が大きかった。
色んな宮殿に住む、貴族やら使用人が生活の今に出たゴミを集めているのだ。考えたら膨大な量になるのだろう。
ルナはランタンで足元を照らしながら、辛うじて道になっている部分を進んだ。
周囲全てが陰が降りたゴミであり、高さは彼女の身長ほどある。
ゴミの下部は黒い灰で、それは数日ここで放置されたゴミが、定期的に燃やされるからだった。
耳をすますとネズミの鳴き声があちこちから聞こえ、虫が蠢いていると暗闇でも分かる。
ルナがそっとランタンを持ち上げると、その光により、半分食べられた果物やら、使い古された雑巾やらが浮き現れ、故に汚い水分で周囲が濡れている。
正直嫌悪感に震える光景だ。
彼女の心の中に、強烈な拒絶の感情が持ち上がる。
だがルナはランタンを手に、ゴミの中に手を入れた。
嫌な感触が指先に触れたが、もう構わなかった。
ランタンの貧しい光の中、壊れた椅子をどけ、何かに使われた布を取り、紙類をめくる。
縫いぐるみの行方を、ランタンを回して追う。
だがゴミはあまりにも多く、ウサギの縫いぐるみのどの部分も見当たらなかった。
「どこに……」呟いて自身苦笑する。
「私はどうして、こんなことをやっているのだろう?」
アイリス姫のため? 何故?
とルナは思考を中断した。
何者かが近づいてくると感知したのだ。
実際、小さな蝋燭の灯が向かって来ていた。
万が一を思い、小さな針に手を伸ばす彼女だが、ランタンの光の元までやって来たのは子どもだった。
くせっ毛の前髪が空を向いている、顔にそばかすの散った素朴そうな一二、三歳の少年だ。
「……驚いた」
少年はランタンの光に、目を瞬かせている。
「こんな所に女の子がいる」
ルナは胸郭の中の空気を抜いてて、針に触れていた手を下ろす。
「こんばんわ」
とキャンドルの火に揺れる少年の顔に、ともかく挨拶した。
「ああ、こんばんわ……ええと」
「お初にお目にかかります。ルナと申します」
少年は居心地悪そうに頭を掻く。
「おれは、ダン……てあんたみたいな人もこの仕事をやっているんだ」
「仕事?」
「ああ……そうだろう? 貴族様が捨てたゴミから、まだ使えそうな価値のあるものを探す」
ルナはランタンを上げる。
いつの間にか、確かに小さな灯りがそこかしこで揺らめいていた。
そんな仕事があるとは知らなかったが、意外とメジャーなのかも知れない。
「今日はエンディミオン宮殿からのゴミが来ているんだ」
ダンはそう言うと、嬉しそうにゴミの山に手を突っ込む。
「宮殿の物は質が良いから、色々と高く売れるんだ」
ルナはダンの横に屈み、自身も探し始める。
「ダンさん。お願いがあります。ウサギの縫いぐるみを見つけたら、私に売って欲しいんです」
「縫いぐるみ?」
「はい、耳の長いウサギです。ただ価値はあまり無いと思います。ですから私に譲って下さい」
「そんな物を探しているのか。ああ、良いよ。だけど代わりに高価な皿とか見つけたらおれにくれよ」
「分かりました」
ルナとダンは並んでしばらくゴミを漁る。
いくつかの少し欠けただけの皿や、少々曲がった程度のスプーン、フォークを見つけた。
「うん、これはまだ使える。金になる」
ダンは暗闇の中で感心する。
「でも、貴族はいいね。ルナ……だっけ?」
「はい、ルナです」
「おれたちは日頃飲み水にさえ困っているのに、貴族はこんな贅沢がいつも出来る」
ダンが手にしているのは、果実だ。
どこにも食べられた跡はなく、誰も手を付けなかったのだろう。
それが捨ててある。




