千二百十八話 バ~~~~カ
「ん、っ……」
「っ、アッシュ!!!」
「………………ここ、は…………」
まだ終戦の鐘の音が鳴る前にアッシュの意識が回復。
当然、傍にはシルフィーが傍に居続けた。
周りの騎士や魔術師、冒険者たちがアッシュの事を守ってくれると思い、自分も戻らなければと思いはしたものの、騎士たちから「今の戦場に加わるのは良くない」と告げられ、大人しくアッシュの傍にいた。
「僕は…………っ、うっ!」
「アッシュ! どこか悪いの!?」
「いや……多分、だたの反動……だと思う」
一瞬にして数十人以上の戦闘者を討伐する切っ掛けに至ったスキル、ディスペール・アウェイクニング。
感情の爆発によって獲得し、そのまま発動してしまった結果……加減が解らなくなってしまったアッシュ。
最終的に回復したシルフィーの声によって意識は引き戻されたが、それでもアッシュの精神……そして身体能力が無事な状態を維持する秒数を越えていた。
本当に十秒にも満たない発動時間ではあったが、身体能力のリミッター解除よりも上昇幅が大きく、今のアッシュには約一秒か二秒……そこが無事な状態を維持できるギリギリのラインと言えた。
(ディスペール・アウェイクニング、か………………はぁ~~~~~~。なんて言うか、物凄くピーキーなスキルを手に入れてしまったな~~)
強力なスキルであったとしても、使わなければ慣れない。
アッシュは基本的に戦闘者としての道に進むつもりはないものの、万が一のことを考えれば……優れたスキルは、ある程度扱えるようになっておきたい。
「本当に? 本当に大丈夫なの、アッシュ」
「だいじょう…………」
「っ!!!!???? い、痛ったいじゃない!!!!! い、いきなり何すんのよ!!!!!!!!」
彼女の問いに大丈夫、という言葉を返そうとした瞬間に……何かに気付いたアッシュは、本気で……魔力は纏っておらず、強化系スキルも発動はしていない状態ではあるが、それでも本気でシルフィーの頭を叩いた。
「はぁ~~~~~……バ~~~~~~カ」
「な、何よ急に!!! 人が本気で心配してるの、に」
背中から、多くの視線を感じる。
シルフィーは脳筋的なところがあり、そこまで賢い方ではないものの……決してどうしようもない馬鹿ではない。
アッシュとしても、シルフィーが本気で自分のことを心配してくれているのは解る。
ただ、それはそれとして、これはこれ。
心配してくれるのは嬉しいものの、だからといって自分たちの立場が不利になるような真似はしてほしくない。
「「「「「「「…………」」」」」」」
実際のところ、彼らの中で予想が確定に変わったのは、本名を口にしてしまったシルフィーをアッシュがはたいたからではあるが、彼が思わず叩いてしまうのも致し方ないだろう。
そもそもシルフィーがアッシュと本名を口にしてしまっていた時点で、ほぼ八割方倒れた青年はあのアッシュであり、心配している女性はシルフィーだと気付かれていた。
(まぁ、そうなるよね。それに、ここでバレなかったとしても、どうせ学園では既にバレてるだろうし……いや、ここで正体がバレてなかったら、戦場には行ってなかったって隠せたかな)
無断で学園を抜けたことを考えれば、どちらにしろ怒られる。
ただ、向かった先が戦場かそうではないか……それによって、向けられる雷の大きさが変わる……かもしれない。
「え、えっと、そ……その…………」
先程自身の頭を叩いたアッシュに対する怒り、元気の良さはどこへやら、急にしおらしい態度になってしまったシルフィー。
そんな彼女の変化を見て、殆どの騎士や魔術師たちは苦笑いを浮かべた。
(学園を……おそらく無断で抜け、戦場に来た…………無謀と言えば無謀)
(二人も、それは解ってる筈だけど……多分、強くなりたかったんだろうね)
(シルフィーさんは……確か、アラッド君に追い付きたいというのが目標だったような…………そうなると、今回の戦争に参加したのは、彼に何としてでも追い付こうと、機会を流すまいと行動した結果でしょうか)
(なっはっは!!!!!!!! まだ学生って立場を考えると、無断で来たんだから規律違反ってやつになるだろうが、若い頃はやんちゃしてなんぼだからな!!!!! 無茶強ぇ老人と二体のユニコーンに、部下にしてぇ強さを持ってる美女二人と良い堅さをした兄ちゃんがいるんだ……まだ可愛い無茶ってもんだろ)
(普通に考えれば、あり得ない。騎士として迎え入れるかどうか悩んでしまうところだろう……しかし……二人が並の騎士たちよりも成果を上げているのは事実。彼は言わずもがな、彼女の働きも十分…………型破りな、蛮勇と履き違えない勇気を持っていると考えれば、寧ろ騎士団に必要な人材、か)
(シルフィーが強いのは解っていた事だが、トーナメントに参加していなかったアッシュの方が強いという噂は本当だったか……これは後で争奪戦が起こりそうだ)
ひとまず、騎士たちの中に速攻で学園に報告しようという者は一人もいなかった。




