千二百十四話 逃がしては、ならない
「アアァアアアアアアアアアアアーーーーーーーーーーッッッ!!!!!!!!!!!」
全てを斬り裂き、貫く剣士となったアッシュが零す声は……この世の全てを憎み、怒りを混ぜ合わせた雄叫びに聞こえる。
だが、人によっては大切な人間を失った者の悲鳴にも聞こえる。
それは……どちらも正解と言えた。
アッシュはディスペール・アウェイクニングを発動し、絶大な上昇効果を受ける代わりに……絶望というデメリットを受け続けていた。
アラッドが使用する狂化のデメリットは、狂気が増幅、爆発することで判断力や思考力が低下し、使い続ければ狂気に支配されて敵味方関係無く襲い掛かる。
だが、狂気は使用者の精神力次第では御することが出来る。
使い続けることで狂気に支配されるという最終的なデメリットを消すことは出来ないが、狂気に飲み込まれるまでの時間を延長することは出来る。
つまり、身体能力の大幅に向上させながらも、人によっては冷静な思考力を維持することが可能。
しかし……この度アッシュが得たスキル、ディスペール・アウェイクニングは発動者に対し、常時絶望の感情を与え続ける。
言葉通りのデメリットであり、絶望という負の感情が常に使用者を襲いかかる。
アッシュにとっては、シルフィーが殺された……アラッドやフール、エリアたちといった大切な家族が常に殺され続ける光景が脳内でリピートされ続ける。
本当に、言葉通り……彼にとっての絶望的な光景が繰り返される。
解っている、知っている……妹、母はともかく、兄と父がそう簡単に死ぬはずはないと。
だが、そんな事は関係無い。
アッシュの脳内に駆け巡り、心に覆い込む景色は幻影ではない。
敵による精神的な光景ではないため、そうではないと解り、気合を込めれば消し飛ぶようなものではない。
スキルを発動した影響で強制的にリピートし続ける光景であり、常に絶望という感情を与え続ける。
その光景に、アッシュは悲しみを…………その光景に対し、何も出来ない怒りが湧き上がる。
そして、この状態が続けば……アッシュの感情が崩壊を迎える。
アラッドやソルの狂化は狂気に飲み込まれたとしても、気を失えばそこで狂気は霧散する。
飲み込まれてからの記憶が殆ど消えるという質の悪い状態になるが、それでも……使用者の人生が終わる訳ではない。
だが、ディスペール・アウェイクニングを発動し続けた代償は、容易く掻き消せるものではない。
世界は広い……感情の崩壊を、どうにか出来るポーションが、マジックアイテムはあるだろう。
ただ、それらは基本的に大金を有していたとしても手に入らない物に分類される。
引き際は間違えれば、本当に発動者の人生が終わる。
その発動者であるアッシュは……狂化を初めて使用した時のアラッドと同様、自身の意思でオンオフが出来ない状態となっていた。
そう……使い続ければ、このままアッシュの感情は崩壊し、廃人になってしまう。
「か、アッシュうううううううううううう!!!! 私は、生きてるわよっ!!!!!!!!!!!!!!」
その時、老人に抱えられた女性がアッシュの近くまで向かい、自分は生きていると叫ぶように伝えた。
「アアァアアアアアアアアアアア、ァ………………シル、フィー」
生きている。
確かに、生きている。
木竜に抱えられてはいるが、それでも、生きている。
生きていると叫ぶ彼女の声が聞こえ、姿が確かに見えた。
その声が、光景が……アッシュを絶望の淵から引き上げた。
「良か、った」
「っっっ!!!!!!!」
闇の様なオーラが霧散し、赤炎と黒風も消えた。
次の瞬間、意識を失って倒れ込むアッシュをいち早く親ユニコーンが回収。
背に乗せ、すぐさま後方へと下がる。
「きゃっ!?」
「頼んだ」
「ブルルゥ!!!」
任せてと声を上げ、子ユニコーンは毛を器用に動かし、シルフィーを背に固定させて後方へと下がる。
「あっ!!! に、逃がすなぁああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」
一人の高位騎士が、声を張り上げた。
もう何度叫んだか割らない。
それでも、これで喉が張り裂けても構わんと言わんばかりの声で同士たちに伝えた。
あれを……あの人間だけは、逃してはならぬと。
絶対に、今ここで必ず仕留めなければならないと。
「「「「「「「「「「ぅおおおおおおああああああああああああ!!!!!!!!!」」」」」」」」」」
情報料が多過ぎる光景、状況に呆気に取られていたゴリディア帝国の戦闘者たちは、耳に届いた指示に全力で従うと決めた。
あまりにも……あまりにもあっという間であった。
十数秒の間に雑兵から一定以上の戦闘力を持つ者たちが、五十人ほど仕留められた。
逃がしてはならない。
あの青年が復活すれば、また悪夢が始まるかもしれない。
ついでに言うと、ユニコーン親子を休ませる訳にはいかない。
Bランクモンスターと言えど、聖獣と言えど限界はある。
先程実行した策は失敗に終わってしまったものの、それでもユニコーン親子の体力は間違いなく削っていた。
その積み重ねを、決して無駄にするわけには、いかなかった。




