千百九十六話 同じスタートライン
「お疲れ様~~。色々と話してて遅く…………え、えっと。何かあった感じ、かしら?」
リエラたちはリエラたちで顔見知りとなった冒険者たちがいたため、彼らと共に夕食を食べていた。
その後、落ち着いてから追加で夕食を作って貰い、シルフィーたちの元を訪れた。
だが……場の雰囲気は、少々重苦しいものとなっていた。
「いえ。ただ、今日の間にあった事に関して少し話してて。なので、リエラさんたちの意見を聞かせてくれませんか」
着いて早々質問したいことがあると言われ……リエラとしては、悪い気がしなかった。
ラディアとライホルトもシルフィーの表情を見て少々心配に思い、尋ねたい意見というのに耳を貸す。
「なる、ほど…………そうだな。こちらはこちらで戦っていた故、あまり詳しい事情は把握出来ていなかったが、彼らの士気が下がってしまうのも無理はないだろう」
「頼りになる人物があっけなく? 倒されたんじゃ、前に出そうと思っても、中々前に出なくなるものって話は聞いたことがあるわね」
「その結果、そのまま攻めて良いのか迷った、か…………解らなくはない悩み、ではある」
シルフィーが悩んでいた内容を聞き、ひとまず三人とも否定から入ることはなかった。
彼らは残虐行為を行い、悦に入るような人間ではない。
とはいえ、シルフィーよりも先輩ということもあり、そういった状況に関してもある程度の考えを有していた。
「まぁ、仕方ない結果よね」
「……言葉としては軽いかもしれないが、そうと言えるな」
「仕方ないん……ですね」
俯き、黙々と食べる様子は変わらない。
そんな彼女の様子に……ライホルトは特にイラつくことはなかった。
何故なら、彼女はまだ学生も学生。
そもそもな話……騎士という道にすら進むか否か解っていない。
ただ、ひたすら……我武者羅に前に進もうとしている子供である。
「戦争という戦場に限らず、戦いの場に……命が掛かった戦いの場に向かう者たちは、皆そこで死ぬ覚悟が出来ている」
「っ……」
「とは、言わない」
「……え?」
思わず間抜けな声を零すシルフィー。
てっきり、温い考えを持っているのだと叱責されるものだとばかり思っていた。
「最たる例は、盗賊か。そもそもな話、犯罪行為で……悪意を持って他者から奪おうとする者に、戦場で死んでも良いなどという覚悟はないだろう」
「そんな覚悟を持ってるなら、まずその道に進んでないって話よね」
「そうだな…………冒険者というのも、名声や金を稼ぐことが目的であれば、脚も止まるだろう」
「……間違ってはいない」
ライホルトの言葉を肯定したのは、冒険者として活動しているラディアだった。
「目的を持っている。それは、目的を持っていないよりも良い状態だろう。その目的に対してどれほどの欲を、熱を持っているかにもよるが、それが本人とっての活力に変わる……それでも、死んでしまえば絶対に手に入れられない」
「死んでしまえば、手に入らない」
「名声なら、その時より強くなって高ランクのモンスターに挑むという手段がある。金を稼ぐにしても、依頼を受けてモンスターを討伐し、素材を売却していれば……本人が望む額か否かはさておき、稼ぐことは出来る」
ラディアが語る通り、誰かを守りたい……そういった思いを持たない冒険者が、今回の戦争に参加する欲というのは、わざわざ戦争に参加しなくとも手に入れることは出来なくもない。
だからこそ……無茶をすれば乗り越えられるかもしれないという状況であればまだしも、確実に死ぬ……腕が、脚や胴が、首が斬り裂かれると解っている場所に突っ込んでいくのは、無駄も無駄。
「その場から逃げれば、まず敵から背を撃たれるという可能性もあるが、同時に同士たちを見捨てたという不名誉を背負うことにもなる…………人によって、その不名誉の大きさは変るだろう」
圧倒的な強者を前に、背を向けて逃げてしまった。
その行動に対し、全員が全員否定的な言葉をぶつける訳ではない。
同業者であれば、馬鹿な真似をせず賢い選択をしたなと考える者もいる。
だが……同時に臆病者だと、卑怯者だと……知っている者も、戦争という戦場を知らない者もそういった言葉をぶつけてくる可能性がある。
「とはいえ、大きさに変わらず十字架になるのだろう…………人から聞いた話だけど」
「そ、そんな。その……物凄く、参考になるというか、少し、モヤが晴れてきたというか」
「ふふ。無理する必要はない。個人的な考えだが、し……メルテが感じた思い、感覚は間違っていないと思う。寧ろ、その感覚は忘れない方が良い事なんだろう」
この時、ラディアは自分も若造なのに、何を偉そうに語ってるんだ……と思いながらも、自分より更に若い子が悩んでいるということもあり、多少の恥ずかしさは押し殺す。
「しかし……うん……そうだな。そこに関しては、メルテと彼は同じラインからスタートかもしれない」
「……そうなん、ですか?」
「おそらくね。だって、彼も戦争というのを体験したのは、今回が初めてなのだろう。まぁ、そう言う私も初めてではあるが」
彼……兄であるアラッドとスタートラインが同じ。
兄も、もしかしたら悩んでるかもしれない。
そう思うと、少し……本当に心が軽くなった。




